第14話(裏) 『境界踏破 ― 世界深層との“直接呼応”』
――刃向 蓮 視点
白い光の床が崩れたあと、
蓮と少女が立っていたのは――
空でも地でもない。
ただひとつの“揺れる地帯”。
世界と世界がこすれ合うような音が、
足元から背骨へ伝わる。
少女が蓮の腕にしがみついた。
『……ここ……
歩く場所じゃない……』
「歩けるさ。」
蓮は少女の肩を軽く抱く。
「お前が“道”を作ってる。」
少女は驚いて、蓮を見上げる。
『わたしが……?』
蓮は頷く。
「お前の光が、世界の深層に“形”をつけてる。
檻の中心だったお前にだけできることだ。」
少女の身体から光が漏れている。
透けている部分が増えている。
それでも彼女は、しっかりと蓮の手を握っていた。
蓮の胸にも、同じ光が脈打つ。
(――朔夜の光だ)
境界が揺れるたび、
朔夜の声が微かに響く。
『……行く……必ず辿り着く……』
少女は胸に手を当てる。
『にいちゃんの光……
ここまで……届いてる……』
蓮は空間の奥を睨んだ。
(朔夜……
お前も、世界意思に接触したか)
そのとき――
周囲の空が“沈んだ”。
黒ではない。
闇でもない。
ただ、世界の下層が“露出”した。
そしてそこから、声が降りてきた。
『――境界に立つ者たちよ』
少女は震える。
『……世界……?』
調停官が遠くで膝をつき、頭を抱えていた。
「世界意思……直接干渉……!?
こんな近さは……前例が……!」
蓮は世界の声へ目を向けた。
「何の用だ。」
返ってきた声は、言葉ではなかった。
だが意味ははっきりしていた。
『――選べ』
蓮は眉をひそめる。
「……何をだ。」
声が続く。
『境界の鍵。
お前たち三つは同調した。
だが――
一つは必ず“深層へ落ちる”。』
『世界がそうなるように造られた。』
少女が息を呑む。
『……深層へ……落ちる……?
それって……消えるってこと……?』
蓮は少女を抱き寄せる。
「そんな未来、認めねぇよ。」
しかし世界意思は淡々と告げる。
『選択は避けられない。
三者が揃えば、世界は“対価”を求める。
境界は一度しか開かぬ。
出口も一つしかない。』
少女が泣きそうな声で蓮を見上げる。
『じゃあ……
誰か一人が……“残される”の……?』
蓮は迷いなく答えた。
「残す気はない。
三人そろって抜ける。」
世界の影が揺れた。
『不可能。
構造上、成立しない。
鍵は二つまで。
三つ目は“支え”となり――』
蓮は拳を握った。
「黙れ。」
世界が一瞬、静まる。
蓮は少女の背を支えたまま前へ進む。
「お前のシステムなんざ知らねぇ。」
「俺たちは三人で外に出る。
それ以外は認めない。」
少女の光が強く瞬く。
『蓮くん……こわくないの……?
世界そのものに逆らうなんて……』
蓮は少し笑った。
「怖ぇに決まってんだろ。」
「でもな……
“選ばされる”なんて、もっと嫌だ。」
少女の目が潤む。
世界意思が再び告げる。
『――拒絶を確認。
ならば試練を与える。』
境界が大きく揺れた。
白い空間が裂け、
灰境州の霧が目の前に広がった。
向こうにいる。
朔夜が、確かに。
蓮の胸が熱くなる。
世界意思の声が重く降りてくる。
『境界を越えたとき、
三者の位相は統合される。』
『統合が成功すれば、
三人は世界を“再定義する鍵”となる。』
『失敗すれば――
誰か一人が深層へ落ちる。』
少女が蓮にしがみつく。
『いや……
いやだよ……
三人で、外に出るんだよ……!!』
蓮は優しく彼女の頭を撫でた。
「泣くな。」
「深層になんか落ちさせねぇ。
俺が全部支える。」
世界が揺れた。
『――ならば来い。
境界の中心へ。
三者の座標を揃えよ。』
少女の光が蓮の胸へ溶ける。
朔夜の光が、
灰境州の向こうで強く脈動する。
(来いよ、朔夜。)
(境界の中心で――会おう)
蓮は白い空間へ足を踏み出した。
世界が道を開いた。
三者の統合の儀式が、ここから始まった。




