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『黒鋼ノ戦旗 ― 奪われた未来を取り戻すために』  (裏)  作者: 田舎のおっさん
第4部

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第12話(裏) 『還帰点 ― 世界が“彼ら”へ触れた瞬間』

――刃向 蓮 視点


白い空間が震えている。


渦がゆっくりと広がり、

その奥の“外界”が少しずつはっきりしてくる。


少女が蓮の手を握りしめた。


『……もう……

 こわくない……』


蓮は頷いた。


「お前の光が、道を作ったんだ。」


少女は小さく笑う。


その笑顔の奥、

少女の身体がわずかに透けているのが見えた。


(……位相が変わっている)


(この子はもう、人でも檻の存在でもない。

 世界と“繋がる媒体”になりつつある)


蓮の胸がざわめく。


そのとき。


檻の全体が――

低く、重く、光を響かせた。


調停官が悲鳴を上げる。


「ダメです!!

 ここから先は――戻れなくなります!!」


蓮は振り返らなかった。


「戻るつもりなんか、最初からねぇよ。」


調停官が叫ぶ。


「檻は“世界修復装置プロトセラ”の残響です!!

 構造の一部をあなたたちが持ち去れば――

 世界秩序が変質し――」


蓮はその言葉を遮った。


「――とっくに変質してんだよ。」


その瞬間、

“外界の雷”が檻へ直撃した。


白い空間が裂け、

蓮の胸に鋭い光が突き刺さる。


『……蓮……』


朔夜の声が、はっきりと届いた。


調停官が震えた声で呟く。


「……外界と檻……

 相互干渉が……成立した……

 こんなことは……前例がない……!!」


少女の光が蓮の頬へ触れる。


『……朔夜くん……

 こっちに……手を伸ばしてる……』


蓮の胸に熱が宿った。


(朔夜……

 お前も“変わってる”んだな)


少女の身体がいっそう透ける。


光が全身を覆い始める。


蓮は少女の肩を支える。


「大丈夫だ。

 お前は“消えてる”んじゃない。」


「世界と繋がって、

 位相が移ってるだけだ。」


少女は不安げに見上げる。


『……ちゃんと……

 外に出られる……?』


「出る。

 俺が連れて行く。」


蓮は断言した。


檻の“下層”が崩れ始めた。


巨大な壁が瓦解するような轟音。

しかし、それは破壊ではなく――


帰還だった。


調停官が絶叫する。


「檻が……戻っていく……!

 “本来あった場所”へ……!

 世界の深層へ……!」


少女が蓮の腕にしがみつく。


『……こわい……!

 でも……あったかい……!』


蓮は少女の手を握り返す。


「こわがらなくていい。

 全部、お前の光が選んだ道だ。」


少女の涙が浮かぶ。


『……蓮くん……

 わたし……本当は……

 檻の“心臓”だったんだよ……』


蓮の表情が一瞬だけ揺れた。


(……そうか)


(だからこの子の光は、

 檻の全部を動かせる……)


少女が続けた。


『わたしが……

 檻を“ここに留めてた”……

 でも……もう……疲れた……』


蓮は優しく言った。


「だったら……

 ここで全部返そう。

 檻も、お前の負担も。」


少女は泣きながら頷いた。


『……うん……

 蓮くんがいれば……

 だいじょうぶ……』


蓮は少女の手を胸に当てた。


「終わらせる。

 檻も、世界の嘘も。」


渦が完全に開いた。


白い光の奥に――

灰境州の霧が見えた。


霧が“こちら側”へ伸びてくる。


世界の意思が、

蓮と少女を“迎え”に来るように。


調停官はひざから崩れ落ちる。


「そんな……

 世界が……手を伸ばすなんて……

 あり得ない……!!」


蓮は調停官を見ずに言った。


「世界が俺たちに手を伸ばしてるんじゃねぇ。」


「俺たちが――

 “世界へ戻る”だけだ。」


少女が囁く。


『……蓮くん……

 朔夜くん……

 二人とも……

 もうすぐ……会える……』


蓮は微笑んだ。


「――行こう。」


少女の光と蓮の力が渦へ溶ける。


檻全体が大きく軋んだ。


そして――


檻は、世界へ“還った”。

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