第12話(裏) 『還帰点 ― 世界が“彼ら”へ触れた瞬間』
――刃向 蓮 視点
白い空間が震えている。
渦がゆっくりと広がり、
その奥の“外界”が少しずつはっきりしてくる。
少女が蓮の手を握りしめた。
『……もう……
こわくない……』
蓮は頷いた。
「お前の光が、道を作ったんだ。」
少女は小さく笑う。
その笑顔の奥、
少女の身体がわずかに透けているのが見えた。
(……位相が変わっている)
(この子はもう、人でも檻の存在でもない。
世界と“繋がる媒体”になりつつある)
蓮の胸がざわめく。
そのとき。
檻の全体が――
低く、重く、光を響かせた。
調停官が悲鳴を上げる。
「ダメです!!
ここから先は――戻れなくなります!!」
蓮は振り返らなかった。
「戻るつもりなんか、最初からねぇよ。」
調停官が叫ぶ。
「檻は“世界修復装置プロトセラ”の残響です!!
構造の一部をあなたたちが持ち去れば――
世界秩序が変質し――」
蓮はその言葉を遮った。
「――とっくに変質してんだよ。」
その瞬間、
“外界の雷”が檻へ直撃した。
白い空間が裂け、
蓮の胸に鋭い光が突き刺さる。
『……蓮……』
朔夜の声が、はっきりと届いた。
調停官が震えた声で呟く。
「……外界と檻……
相互干渉が……成立した……
こんなことは……前例がない……!!」
少女の光が蓮の頬へ触れる。
『……朔夜くん……
こっちに……手を伸ばしてる……』
蓮の胸に熱が宿った。
(朔夜……
お前も“変わってる”んだな)
少女の身体がいっそう透ける。
光が全身を覆い始める。
蓮は少女の肩を支える。
「大丈夫だ。
お前は“消えてる”んじゃない。」
「世界と繋がって、
位相が移ってるだけだ。」
少女は不安げに見上げる。
『……ちゃんと……
外に出られる……?』
「出る。
俺が連れて行く。」
蓮は断言した。
檻の“下層”が崩れ始めた。
巨大な壁が瓦解するような轟音。
しかし、それは破壊ではなく――
帰還だった。
調停官が絶叫する。
「檻が……戻っていく……!
“本来あった場所”へ……!
世界の深層へ……!」
少女が蓮の腕にしがみつく。
『……こわい……!
でも……あったかい……!』
蓮は少女の手を握り返す。
「こわがらなくていい。
全部、お前の光が選んだ道だ。」
少女の涙が浮かぶ。
『……蓮くん……
わたし……本当は……
檻の“心臓”だったんだよ……』
蓮の表情が一瞬だけ揺れた。
(……そうか)
(だからこの子の光は、
檻の全部を動かせる……)
少女が続けた。
『わたしが……
檻を“ここに留めてた”……
でも……もう……疲れた……』
蓮は優しく言った。
「だったら……
ここで全部返そう。
檻も、お前の負担も。」
少女は泣きながら頷いた。
『……うん……
蓮くんがいれば……
だいじょうぶ……』
蓮は少女の手を胸に当てた。
「終わらせる。
檻も、世界の嘘も。」
渦が完全に開いた。
白い光の奥に――
灰境州の霧が見えた。
霧が“こちら側”へ伸びてくる。
世界の意思が、
蓮と少女を“迎え”に来るように。
調停官はひざから崩れ落ちる。
「そんな……
世界が……手を伸ばすなんて……
あり得ない……!!」
蓮は調停官を見ずに言った。
「世界が俺たちに手を伸ばしてるんじゃねぇ。」
「俺たちが――
“世界へ戻る”だけだ。」
少女が囁く。
『……蓮くん……
朔夜くん……
二人とも……
もうすぐ……会える……』
蓮は微笑んだ。
「――行こう。」
少女の光と蓮の力が渦へ溶ける。
檻全体が大きく軋んだ。
そして――
檻は、世界へ“還った”。




