第10話(裏) 『連結 ― 檻は外界へ触れる』
――刃向 蓮 視点
《檻》の奥底で、
黒い渦がゆっくりと回転していた。
第二段階で生まれた“穴の予兆”は、
いまや渦を形成し、
檻の基盤そのものを引き裂いている。
《安定度:12%》
《座標衝突警告:継続》
《外因性波形:増大》
蓮は渦の前で立ち止まる。
「……そろそろだな。」
少女は不安そうに蓮を見上げる。
『……これ……
もう……“壊れる”んじゃ……』
「壊れていいんだよ。」
蓮は優しく答える。
「壊れなきゃ、
外とは繋がれない。」
少女は唇を噛む。
『……でも……
本当に……出られる……?
この先……何があるかも……』
「関係ねぇよ。」
蓮は少女の手を取った。
「出口が見えなくても、
“外へ行く意思”があれば道になる。」
少女の光が揺れた。
怖い。
けれど進みたい。
そんな混ざった光。
調停官が慌てて駆けてきた。
「刃向蓮!!
今すぐ干渉をやめて――!」
蓮は振り向かない。
「やめるつもりなら、最初から壊してない。」
調停官は顔を歪めた。
「あなたは、檻を破壊すれば自由になれると考えている……
だが違う!!
檻は“世界修復装置”の破片!」
蓮の眉が動いた。
「プロトセラ……?」
調停官は苦悩の表情のまま説明した。
「古代文明が最後に残した“世界の修復機構”。
その破片を組み替えて作ったのが、この《檻》……」
「つまり檻は、
世界のバランスを保つための『残響』そのもの。」
蓮は、一瞬だけ息を呑む。
(なるほど……
だから外界の揺らぎにこんなに弱い……
“残響”の上に作られた檻なんて、
安定してるわけがない)
調停官は続けた。
「檻が壊れれば、
世界は――」
「――壊れない。」
蓮は静かに言った。
少女が目を見張る。
調停官は怒りに震えた声で叫ぶ。
「根拠は!?
あなたは一体何を――!」
蓮は答えなかった。
答える必要などなかった。
蓮が感じた感覚。
少女が感じた光。
そして――
檻全体を震わせている“外の戦い”の波形。
(檻が崩れたら、世界が壊れる?)
(――違う。)
(檻が壊れたら“世界の嘘が剥がれる”。
本来の姿が露になるだけだ)
それが蓮の確信だった。
少女の光が渦を照らし始めた。
『……向こうに……
だれかが……戦ってる……』
蓮は頷く。
「朔夜だ。」
少女は胸に手を当てる。
『ちがう……
一人じゃない……
“場所”も……
“命”も……
いろんなものが……
苦しんでる……』
蓮はふっと笑った。
「それは――
外界が檻を呼んでる証拠だ。」
「繋がり始めてるんだよ、
外と檻が。」
少女は驚いて蓮を見た。
蓮は前を向いたまま言う。
「第三段階、行くぞ。」
少女が深呼吸し、蓮と手を繋ぐ。
蓮が渦の中心に手を伸ばす。
その瞬間。
外の戦場の雷鳴が、檻の内部へ直撃した。
調停官が絶叫する。
「嘘……!!
外界の“直接波形”が檻に届くなんて――!」
少女も蓮の腕を掴んだ。
『……来てる……!
すごい……!
こわい……!
でも……!』
蓮は確信した。
(朔夜の力が、
ここまで届いてる)
(外で戦っている意思が、
檻と少女の光を“導いている”)
蓮は渦へ拳を突き出した。
「第三段階――“開通”だ。」
渦が割れた。
白い空間が裂け、
その奥に“別の空”が見える。
風が吹き込む。
土の匂い。
霧の匂い。
外界の匂い――!
少女は涙をこぼした。
『……外……だ……
外の空気……!』
調停官が膝をつく。
「あり得ない……
開いた……
外への通路が……
実体化……!」
蓮は少女を抱き寄せながら言う。
「まだ完全には繋がってない。
ここは“境界”。」
「でも――
第三段階は完了した。」
少女が震える声で言う。
『じゃあ……
次は……?』
蓮は静かに答えた。
「“脱出”。
檻の全部を捨てて、外へ出る。」
「次が――
最終段階だ。」
渦の向こうで、雷が閃いた。
それは、
朔夜の戦場の光そのものだった。
蓮は微かに微笑む。
「待ってろ、朔夜。
お前の戦い――
ここまで確かに届いてる。」
読んでくださって、ありがとうごさいます。
こちらは黒鋼連邦から見た“裏の戦場”。
蓮の揺れる正義や、黒鋼の影の動きまで追っていただけて嬉しい限りです。
もし「裏側の真実もおもしろいな」と思ってもらえたら、
ブックマークや評価をポチッとしていただけると助かります。
その一押しが、続きを書く原動力になります。
これからも蓮の選ぶ未来と、黒鋼連邦の闇を
一緒に追いかけてもらえたら嬉しいです。
次の更新でまたお会いしましょう。




