第9話(裏) 『揺らぐ檻 ― 第二段階共鳴、始動』
――刃向 蓮 視点
《檻》の空間が、
“呼吸するように脈動”していた。
赤、青、白――
混ざるはずのない管理波形が干渉し合い、
壁は軋み、床は浮遊し、
まるで世界が方向を見失っているようだった。
《外因性波形の増大を確認》
《原因:英雄個体(天城朔夜)の戦闘》
《共鳴値:異常領域》
蓮は、短く息を吐いた。
「……暴れてやがるな、朔夜」
少女は胸を押さえ、苦しげに言う。
『……誰かが……
“守る痛み”を……
すごい勢いで……
広げてる……』
(なるほど……
灰境州全体が、朔夜に反応してるってわけだ)
昨日、細い一本だった“線”が、
今は太く強い光となって檻に届いている。
調停官が現れた。
その顔は青ざめ、声は震えている。
「……最悪です。
《檻》が――“外”に引っ張られている……!」
蓮は目を細めた。
「外へ……?
まさか、ここに空間ごと?」
「そうです!!」
調停官は珍しく声を荒げた。
「本来、“檻”は外界と完全隔離された構造です。
それが今、朔夜の戦闘による波形干渉で……
檻の座標が外界の揺らぎに同期し始めている!」
少女がはっと顔を上げる。
『……じゃあ……
外に……近い……?』
「近いどころじゃない。」
蓮は言う。
「外がこっちに近づいてきてる。」
調停官は絶望の表情で蓮に詰め寄った。
「やめてください……
あなたたちの共鳴が続けば、
この檻は外界と“衝突”するんです!」
蓮は、静かに首を振る。
「違う。
“檻が壊れる”だけだ。」
調停官は凍りついた。
少女が蓮の服を掴む。
『……こわい……
でも……
行きたい……』
蓮は優しく言う。
「怖さは、前に進んでる証拠だ。」
少女の光が強く揺れた。
蓮は、檻の中心に歩く。
「第二段階を始める。」
調停官が悲鳴に近い声をあげる。
「第二段階……?
いったい何を――!」
蓮は答えない。
檻の床が、
少女の光を受けて波打つ。
そこに蓮は手を触れ、
“共鳴の核”を殴りつけるような意識で力を込めた。
《内部破壊波形を検知》
《パターン一致:刃向蓮による共鳴干渉》
《構造安定度:23%》
少女の光が、蓮の背中に流れ込む。
二つの光が混ざり合い――
檻そのものの“内側”に、
渦のような歪みが発生した。
少女が叫ぶ。
『……穴が……
開く……!
でも……
外じゃ……ない……!』
蓮は頷く。
「第二段階の穴は、
“檻の奥”に開くんだ。」
調停官が驚きに目を見開いた。
「ま、待って……!
檻の“奥”だと!?
そんな場所、記録に――」
蓮は冷たく笑った。
「それはあんたらが管理できてない“外側”ってだけだ。」
少女は涙を浮かべながら叫ぶ。
『でも……
この穴……
怖い……!
落ちたら……
帰れない……!』
蓮は即答した。
「落ちるのは“俺たち”じゃない。」
そして、檻の底に広がる闇を見下ろす。
「――檻そのものを落とす。」
調停官が声にならない叫びを漏らした。
「やめろ……!
檻が落ちれば、世界全体が――!」
「落ちない。」
蓮は少女の手を握る。
「落ちるのは、檻に“閉じ込めてきた側”の仕組みだ。」
「俺たちは上へ行く。
檻は下へ沈む。」
少女の光がさらに強まり、
渦が拡大する。
《警告:檻の基底が崩落開始》
《警告:外界座標との距離が急速に縮小》
蓮はついに宣言した。
「第二段階――完了だ。」
少女が息を呑む。
『……じゃあ……
次は……?』
蓮は静かに答えた。
「第三段階は――
“外との接続”だ。」
その瞬間。
朔夜の雷が、
檻の壁に“直接”響いた。
檻全体が震え、
少女の光が跳ね上がる。
外の戦場と檻の境界が、
一気に薄くなった。
蓮は微笑んだ。
「行くぞ、朔夜。
お前の戦いは、
こっちにも届いてる。」




