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『黒鋼ノ戦旗 ― 奪われた未来を取り戻すために』  (裏)  作者: 田舎のおっさん
第4部

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第6話(裏) 『外へ伸びる線 ― 檻と灰境州は、ひとつの点で繋がる』

――刃向 蓮 視点


《檻》の内部で、

蓮は少女と向き合っていた。


光の少女――

名すら不明の彼女は、

未だに自分を「誰か」と名乗れない。


だが。


彼女の胸の光が揺れるたび、

《檻》そのものが波打つのを、蓮は確かに感じていた。


(……外が揺れてる)


その感覚は、

ただの“気のせい”ではなかった。


蓮と少女の同期が始まって以来、

《檻》の制御波は

一日に数回、外部の“何か”と干渉を起こしていた。


調停官が現れた。


今日の彼女は、

いつもの冷静さを保っているようで、

ほんのわずかに眉の奥が緊張していた。


「……あなた方の“共鳴現象”について、

 上層部は正式に警戒レベルを引き上げました」


蓮は、肩を竦める。


「そりゃどうも。

 だが、今日はそれだけじゃないな」


調停官は、静かに頷いた。


「……灰境州で、

 “英雄が命令を拒否した”と報告が上がりました」


少女が、息を呑む。


蓮は、目を細めた。


(……朔夜……

 お前、本当に“やる”とはな)


だが同時に、胸の奥で

同調する光がひときわ強く脈打つ。


少女が、胸を押さえた。


『……痛い……

 けど……違う……

 “痛くてうれしい”……ような……』


蓮は、彼女の肩に手を置いた。


「……あいつが、

 誰かを守る選択をした」


「その“意思”に、

 お前の光が反応してるんだ」


少女の瞳が大きく揺れる。


『……誰かを……

 守る……』


調停官が口を開く。


「灰境州には、

 “無籍領民”と呼ばれる集団が存在します」


「国家にも連合にも属さない彼らは、

 旧文明の欠片を密かに受け継いでいます」


蓮の目が鋭くなる。


「旧文明……?」


調停官は頷いた。


「そして、

 “その技術を保持する者同士は、

 遠距離でも意志が繋がる”という報告が――」


蓮は、続きの言葉を遮った。


「……つまり、

 この少女と――

 灰境州の誰かが、

 “精神レベルで近い性質を持ってる”ってことか」


少女が、自分を見下ろす。


『……私……

 誰かと、繋がってる……?』


「いや」


蓮は、小さく首を振った。


「“誰か”じゃない」


少女の胸元の光が、急に強まる。


同時に、《檻》の外壁全体が震動した。


《外部波形との同期発生》

《距離干渉値:規格外》

《原因:不明》


調停官が、はじめて“焦り”を隠せなくなる。


「……この規模は……

 英雄の反乱と、

 あなた方の共鳴が、

 同時に発生した影響です」


蓮は、確信した。


(……朔夜の“拒絶”が、

 この少女の“自由”に触れた……)


(そしてその二つが、

 檻の境界を揺らしてる……)


少女が、涙のような光粒を零しながら言う。


『……助けたい……』


蓮は、息を呑んだ。


『……誰かが……

 戦わされてる……

 間違ってる戦いをしてる……』


『……それ、痛い……』


蓮の心臓が、強く打った。


(……こいつ……

 “誰かを守る痛み”を感じ取ってる……?)


(まるで、

 世界修復装置が消えた後の“残響”みたいに……)


調停官が、一歩後退した。


「……あなた方の共鳴は、

 すでに《檻》の制御を部分的に上回っています」


「このままでは――

 外部との遮断が維持できません」


蓮は、少女を振り返る。


「……外と繋がれるかもしれない」


少女の瞳が震える。


『……できる……の……?』


「まだ無理だ」


蓮は、静かに言う。


「だが“線”ができた。

 それだけで十分だ」


その瞬間。


《檻》の天井が、深い音を立てて揺れた。


灰境州の方向――

朔夜がいる方角に、

濁った光の亀裂が一瞬だけ走ったのだ。


調停官が叫ぶ。


「――精神干渉域、破損!

 これ以上は危険です、刃向蓮!

 あなたの自由が――」


「――もう奪われてんだよ」


蓮の声は静かだった。


「だが――

 これ以上奪わせる気も、ない」


少女の光が、蓮の光と完全に同期する。


《檻》全体が、微かに揺れ続ける。


それは、まだ穴ではない。

抜け道でもない。


ただ――

外へ向かう“細い線”が一本、確かに繋がった瞬間だった。


少女が、小さな声で呟く。


『……あの人……

 戦ってる……

 間違った戦いを、止めようとしてる……』


蓮は、空を見上げた。


「……ああ。

 “英雄”じゃなく……」


「“朔夜”として、戦ってる」


少女は、小さく頷き――


その涙は、

恐怖ではなく“決意”の光に変わっていた。


その夜、調停官は震える手で報告を残す。


「檻内部に“線状解放現象”発生。

外部の英雄行動と、

内部の共鳴が連動している可能性――極めて高い」


誰も信じたがらなかった。


だが、事実だった。


灰境州と檻。

英雄と囚われた自由。

正義と拒絶。


すべてはまだ、細い一本の線でしかない。


だが――

世界を壊すのに必要なのは、

最初の一本の線だけでいい。

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