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『黒鋼ノ戦旗 ― 奪われた未来を取り戻すために』  (裏)  作者: 田舎のおっさん
第4部

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第2話(裏) 『許可された生存、奪われた自由』

――刃向 蓮 視点


朝焼けが、港湾区の錆びた鉄骨を朱に染めていた。


かつて黒鋼連邦の物流を支えたこの一帯は、

今では半分が閉鎖され、半分が“新時代連合”の監視区域となっている。


自由はある。

だが――監視のない自由は、もう存在しなかった。


蓮は、倉庫の屋上からその様子を眺めていた。


巡回兵。

最新式の感知ドローン。

空には、ストラタ製の浮遊観測機。


(三国合同の目……か)


昨日までの“即時排除”から、

今日は“完全監視”へ。


手口が、変わった。


それはつまり――

“今すぐ殺す価値”から、“利用する価値”に変わったということだ。


「……来るな、これは」


その直感は、外れなかった。


屋上の縁に、

“何もないはずの空間”が、わずかに歪む。


次の瞬間。


そこに立っていたのは、

白と黒の境目のような法衣をまとった、ひとりの女だった。


年齢は、二十代半ば。

銀に近い淡い髪。

瞳は、感情の読めない薄い金色。


(……転移系……いや、違う……)


「初めまして、刃向蓮」


名を呼ばれて、

蓮の指先が、微かに動く。


「私は“調停官”。

 新時代秩序の、意思決定代行者です」


「……肩書きばっかり増えるな、新時代は」


女は、微笑んだ。


だがその笑みは、

人に向けるものではなく――

“制度側”の笑みだった。


「あなたの処遇が、決定しました」


「殺すんじゃなかったのか」


「いいえ。

 “自由を返さない”だけです」


その言葉が、

氷のように胸に落ちた。


女が片手を上げると、

空間そのものが歪み、

無数の光の紋様が、港湾区の四方に展開される。


「――限定領域《檻》、起動」


瞬間。


蓮の身体が、世界ごと“固定”された感覚に包まれた。


動ける。

だが、“外へは行けない”。


力を込めても、

空間が、拒絶してくる。


(……これが……)


(……新時代の“自由の定義”か……)


「あなたは、生きていい。

 ただし――“許可された範囲”で」


「……人の檻は、

 世界より陰湿だな」


「ええ。

 ですが――壊せない」


女は、淡々と言った。


「壊せば、

 あなたは再び“危険因子”に戻る」


「戻れば、次は“生存許可”は出ません」


選択肢は、最初から一つしかない。


従うか、

消えるか。


「……上等だ」


蓮は、低く笑った。


「だがな」


視線を上げ、

まっすぐ女を見る。


「自由ってのは、

 “与えられるもん”じゃない」


その瞬間。


蓮の胸の奥で、

昨日の夜に感じた――

“あの微かな光”が、再び脈動した。


ほんの一瞬。

だが確かに、

この檻の内側で――

“誰かの意志”が、呼応した。


女の眉が、初めてわずかに動く。


「……今のは?」


「さあな」


蓮は、薄く笑う。


「だが――

 この世界、

 まだ“誤算”が残ってるらしい」


調停官は、それ以上何も言わず、

静かに空間から姿を消した。


残されたのは、

“許可された自由”の中に閉じ込められた、ひとりの男。


だが蓮は、

空を仰ぎ、静かに呟く。


「……檻の中でも、

 光は繋がる……か」


英雄は、旗の中に縛られ。

象徴は、温室に囲われ。

自由は、檻に閉じ込められた。


だがそれでも。


支配が完成した世界に、

 まだ“想定外”は残っている。


新時代戦争は、

いよいよ“思想と檻”の段階へと入った。

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