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『黒鋼ノ戦旗 ― 奪われた未来を取り戻すために』  (裏)  作者: 田舎のおっさん
第4部

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第1話(裏) 『自由は、最初に獲物になる』

――刃向 蓮 視点


夜明け前の港湾区は、異様なほど静かだった。


蒼黒い雲の切れ間から、わずかに差し込む月明かり。

使われなくなったクレーンが軋む音だけが、遠くで鳴っている。


蓮は、倉庫の屋根の上に立ち、気配を殺していた。


(……来るな)


確信があった。


世界が消えたあと、

英雄が祭り上げられ、

象徴が囲われ――


その次に来るのは、必ずこうだ。


「自由な異物の排除」


刃向蓮という存在は、

どの国家にも属さず、

どの正義にも与せず、

それでいて世界を壊した“結果”だけを背負っている。


――だからこそ、

最も危険で、最も邪魔な存在。


風が、変わった。


わずかな殺気。

人のものじゃない“訓練された静けさ”。


蓮は、屋根から飛び降りた。


次の瞬間、いたはずの場所が――撃ち抜かれる。


乾いた破裂音。

地面に突き刺さるのは、黒い杭のような弾丸。


(……来たか)


影の中から、三つの姿が現れる。


全身を覆う軽装教材装甲。

顔には仮面。

動きに、迷いがない。


「――対象、刃向蓮」


一人が、淡々と告げた。


「各国共同特別認定により、

 あなたは“新時代不安定因子”に指定されました」


蓮は、鼻で笑った。


「……新時代、ね。

 名前だけは景気がいい」


「抵抗は推奨されません。

 拘束、もしくは――」


言葉の続きを、蓮は最後まで聞かなかった。


地面を蹴り、

一気に距離を詰める。


一体目の仮面が割れ、

中の顔が、一瞬だけ見えた。


若い。

まだ、二十にもなっていない。


(……これが新時代の兵士か)


情は、湧かない。


だが――

思想が先に撃ってくる世界に、

 情けを挟む余地はない。


蓮の刃が、装甲の継ぎ目を正確に断つ。


二体目が、背後から滑り込む。

拘束フィールドが展開され――


蓮は、それを“踏み潰した”。


世界の装置は消えた。

だが、蓮自身の“壊した痕”は、消えていない。


三体目が、距離を取って叫ぶ。


「やはり……危険因子……!」


「当たり前だ」


蓮は低く呟き、

その仮面を、正面から砕いた。


数分後。


港湾区に、再び静けさが戻る。


地に伏す三つの影。

息は、ある。

だが立ち上がることはできない。


蓮は、血のついた手袋を外し、

夜空を見上げた。


「……もう、始まってるな」


英雄が拘束され、

象徴が保護され、

自由は――即、排除対象。


分かっていた。


だが現実として突きつけられると、

それは想像よりも、はるかに早かった。


そのとき。


波打ち際の向こう、

かすかな“光”が揺れた。


灯りでもない。

信号でもない。

ただ、人の気配に寄り添う、微かな輝き。


(……何だ……?)


蓮が一歩、踏み出した瞬間――

その光は、すぐに消えた。


だが、確かに感じた。


誰かが、

支配されないまま、

この世界のどこかで、まだ息をしている。


その感覚だけが、

わずかに、胸に残った。


翌日。


非公式回線を通じて、

各国に一斉通達が流れる。


「新時代の安定のため、

“世界干渉因子・刃向蓮”の行動を制限する」


「生存は許可するが、

自由行動は認可しない」


蓮は、その報を聞いて、

静かに笑った。


「……生きていいが、自由は許さない、か」


それはもう、

処刑宣告よりも、あからさまだった。


(……朔夜)


英雄として拘束される友。

象徴として囲われる夕凪。


そして自分は――

“自由という罪”で狩られる側に回った。


だが。


蓮は、港の縁に腰を下ろし、

再び夜明けの空を見る。


「……それでも」


唇に、わずかな笑みが浮かぶ。


「自由は、

 誰にも“許可されるもんじゃない”」


この瞬間――

新時代戦争は、確かに二つの戦場で同時に始まった。


一つは、

英雄が縛られる“表”の戦場。


そしてもう一つは、

自由が最初に撃たれる“裏”の戦場。

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