第五話 『黒鋼の作戦前夜 ― 鋼鉄の誓い』
鋼都ミッドライン――
大陸最大の魔導工業都市。
夜になれば、蒸気塔が轟音を響かせ、
街全体が青白い魔導光の中で脈打つように輝く。
その灯りは、桜花帝国の柔らかな桜灯とは違う。
硬く、鋭く、冷たい光。
だが、その光こそが黒鋼連邦の“未来”を象徴していた。
刃向蓮は軍港区の巨大な格納庫にいた。
天井の鉄梁がきしみ、
黒鋼獣《八号機》の魔導炉が低い鼓動を響かせている。
(……明日。桜花が動く。
戦争が、本当に始まるんだ)
胸の奥がざわつく。
恐怖とも興奮ともつかない感情。
そこに、整備員との会話を終えたロワがやって来た。
「おーい蓮、顔がこわばりすぎだぞ。
まるで処刑台に立たされる前の囚人みてぇだ」
「……そんなつもりじゃないけど」
ロワは蒸気パイプにもたれながら、煙草型魔導棒に火をつける。
蒼い蒸気が細く立ち上った。
「まあ、緊張するのは当然だ。
桜花が“攻勢作戦”仕掛けるなんて、最近じゃ珍しいからな」
「……焦っている、ってことですか?」
「焦ってるというよりは……追い詰められてるんだろうよ」
ロワは青白い光を眺めながら笑う。
「桜花は古代の遺産にしがみついて、
いつまでも時代に乗れねぇままだ。
俺たち黒鋼みたいな新しい国が出てきたら、そりゃ揺れるさ」
蓮の胸がざわついた。
(桜花……
僕と朔夜、夕凪が生まれ育った国……
だけど――)
ロワは続けた。
「お前、桜花の村出身なんだろ?
あの国が、何かしてくれたか?」
蓮は返せなかった。
村が燃えた日の光景が、脳裏に蘇る。
炎。
叫び声。
夕凪の瞳。
そして――宗六が差し伸べた手。
(守ってくれたのは……黒鋼だった)
その時、格納庫の奥で足音が響いた。
「ここにおったか、蓮よ」
宗六が姿を現した。
帝国時代の質素な老人とは似ても似つかない。
黒鋼の紋章入り外套をまとい、
威厳のある“軍師”のような雰囲気を纏っていた。
蓮が立ち上がる。
「宗六さん……」
老人は蓮の肩に手を置き、
慈しむような声を出した。
「明日の戦い……
お前にとって、大きな一歩となるじゃろう」
ロワが問う。
「宗六殿。
桜花が攻勢に出るという情報、確かなんですかい?」
宗六は微笑む。
「確かじゃ。
奴らは“巫女の血脈”に焦っておる。
夕凪を取り戻すためか、
あるいは……別の要因かもしれんが」
蓮の呼吸が止まる。
「夕凪……。
彼女は……」
宗六は頷いた。
「心配いらぬ。
黒鋼が守っておる。
桜花に渡せば、再び巫女として縛られるだけじゃ。
あの子の未来を守れるのは――黒鋼だけよ」
その言葉が、
蓮の胸に“正しさ”として沈殿していく。
(夕凪を守れるのは、黒鋼……
僕がここで強くなること……
それしかない)
宗六はさらに言葉を続けた。
「蓮よ。
明日、お前の任務は――“目”だ。
黒鋼獣の索敵は、戦局を左右する重要任務。
敵の動き、戦術、そのすべてを読むのはお前の役目じゃ」
蓮は息を呑む。
「僕が……戦局を……?」
「そうじゃ。
朔夜の動き――
あの子の戦術も“読み取れる”はずじゃ。
幼き頃から見ておったのだからの」
朔夜の名前が出た瞬間、蓮の心臓が早く打ち始めた。
(朔夜も……明日戦場に?
会うかもしれない……
戦うかもしれない……
でも――)
宗六は蓮の胸に手を当てる。
「迷うな、蓮。
朔夜を“正しい未来”へ導けるのは、お前だけじゃ」
ロワが横から言う。
「導くって……あいつ、桜花の軍人だぞ?」
「いずれ分かる。
桜花が朔夜を縛りつけ、未来を奪っておるということがな」
蓮の拳が震えた。
(僕が……朔夜を救う?
本当に……そんなことが……)
だが、夕凪の涙が脳裏に蘇った瞬間、
蓮の心は固まった。
「……僕は行きます。
明日、黒鋼の“目”として……
夕凪と……朔夜の未来を取り戻します!」
宗六は満足げに頷く。
「良い覚悟じゃ」
***
格納庫の外に出ると、
鋼都の空に蒸気塔の轟音が響いた。
ゴォォォォォォン……!
その音は
帝都・桜灯区に響いた“雷鳴”と同時刻だった。
蓮は空を見上げた。
(朔夜……
お前も聞いてるか?
……明日、同じ戦場で会うんだな)
蒸気の光が蓮の瞳に映り込み、
その決意を鋼鉄の色に染めていく。
「行こう――
未来を、取り戻すために」
黒鋼獣の魔導炉が脈動し、
その鼓動が蓮の心臓と同じリズムで高鳴った。
夜明けとともに、
黒鋼連邦は桜雷作戦への迎撃を開始する。
鋼鉄の誓いが、
今静かに燃え上がった。
読んでくださって、ありがとうごさいます。
こちらは黒鋼連邦から見た“裏の戦場”。
蓮の揺れる正義や、黒鋼の影の動きまで追っていただけて嬉しい限りです。
もし「裏側の真実もおもしろいな」と思ってもらえたら、
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これからも蓮の選ぶ未来と、黒鋼連邦の闇を
一緒に追いかけてもらえたら嬉しいです。
次の更新でまたお会いしましょう。




