第12話(裏) 『世界が止まった、その代償』
――蓮視点
世界が、止まった。
音も、圧も、
内核を満たしていたあの“世界の意思”が、
嘘のように――消えていた。
「……終わった……のか……?」
蓮は、崩れ落ちるように膝をつく。
腕の中には、
確かに“人として”存在している夕凪がいる。
だが――
「……軽すぎる……」
嫌な予感が、背骨を駆け上がった。
夕凪の身体が、
“重さ”を失い始めている。
指先から、
蒼い粒子が、静かにほどけていく。
『……れん……くん……』
声が、遠い。
「夕凪!?
おい、しっかりしろ!!」
蓮は、必死に夕凪を抱きしめる。
だが、
抱きしめたはずの腕の中で、
夕凪の存在が、少しずつ“透けていく”。
『……ねぇ……
れんくん……』
「なんだ……!
今は喋るな……!」
『……わたし……
“鍵”じゃなくなったから……
世界に……
居場所……なくなっちゃったのかな……』
蓮の喉が、焼けるように痛んだ。
「……そんなわけない……」
『……でも……
わたし……
さっきまで……
“世界に繋がって”生きてた……』
夕凪は、
微笑った。
それが、
あまりにも静かで、
あまりにも“別れの顔”だった。
『……それが……
切れた瞬間……
身体が……
世界に……
拒まれてる感じ……』
「……拒むなよ……!」
蓮は、世界の残骸へ向かって怒鳴った。
「人を“鍵”にして、
使って、
最後は“消える仕様”かよ……!!」
内核は、
もう何も答えない。
だが――
現実は残酷に、進行していた。
夕凪の足が、
完全に透ける。
「夕凪……!
消えるな……
消えるな……!!」
蓮は、
自分の胸に残る蒼と黒の混じった“異質な光”を、
強く意識した。
(……世界と同調した名残……
まだ……残ってる……)
蓮は、
自分の胸へ、
強く手を叩きつけた。
「……世界に要らないなら……
俺の中に来い!!」
次の瞬間――
蓮の胸の光が、
夕凪へ向かって“逆流”した。
『……れん……くん……!?』
夕凪の粒子が、
ふわりと引き戻される。
「夕凪は――
“世界の鍵”じゃない……」
蓮は、歯を食いしばりながら叫ぶ。
「“俺の存在”だ!!
だから――
俺が引き受ける……!!」
蒼と黒の光が、
内核に渦を巻く。
それは、
扉でも、
世界構造でも、
修復システムでもない。
**“人が人を繋ぎ止める光”**だった。
夕凪の身体が、
ゆっくりと、現実へ戻る。
透けていた脚が、
腕が、
頬が――
「……戻って……きた……」
『……れんくん……
あったかい……』
夕凪の声が、
はっきりと“この世界の音”に戻った。
蓮は、
そのまま崩れ落ち、
夕凪を強く抱きしめた。
「……もう二度と……
消えさせねぇ……」
夕凪は、
震えながら、
それでも確かに、腕を回した。
『……ありがとう……
れんくん……』
その瞬間――
内核の奥で、
最後の“崩壊音”が響いた。
世界構造核の残骸が、
完全に“世界であること”をやめたのだ。
重力が、戻る。
空気が、戻る。
“ただの世界”が、
そこに、戻ってきた。
蓮は、夕凪の額に、自分の額をそっと当てた。
「……もうすぐ……
お兄ちゃんに会える……」
『……うん……』
そして、
内核の奥から――
はっきりと、“雷の残響”が近づいてくるのを、
二人は同時に感じ取っていた。




