第7話(裏) 『外縁突破 ― 世界の中枢へ踏み込む者』
――蓮視点
ストラタの大地は、落ちていない。
降下した瞬間、蓮はそう感じた。
それは“着地”ではなく、“世界の内部へ滑り込んだ”感覚だった。
足元に広がるのは、
岩でも、土でもない。
蒼く光る幾何学模様の“層”。
まるで巨大な回路の上に立っているかのようだった。
(……ここが、中央石室の“外縁部”か)
輸送艇は、すでに蒼光に呑まれ、
影も形も失っていた。
帰路はない。
蓮は一歩、前へ進む。
その瞬間――
大地が“反応”した。
——ギィィン……!!
蒼い紋様が走り、
空間そのものが“立ち上がる”。
人の形をした影が、
幾重にも虚空から浮かび上がった。
顔はない。
武器だけが、輪郭だけが、世界の情報で構成されている。
「……管理端末の“防衛層”か」
次の瞬間、
影たちは一斉に襲いかかってきた。
蓮は即座に回避し、
腰の魔導刃を抜く。
——ガギン!!
一体を切り裂いた瞬間、
その影は粒子分解し、
別の位置で“再構築”された。
「……再生型かよ。
ほんとに、世界の防御機構って感じだな」
だが、速度は読める。
動きは単調。
“意思”がない。
蓮の剣閃が、次々と影を裂いていく。
その最中――
胸の奥が、強く脈打った。
(……来た)
朔夜の気配だ。
遠く、だが確実に。
同じ“石室の核”で、
兄が誰かと激しくぶつかっている。
剣と、世界装置の衝突。
その衝撃が、蓮の精神にも伝わってくる。
「……もう、始まってるな」
蓮は、奥歯を噛みしめた。
(朔夜が戦ってるなら……
俺は、外から壊す)
その瞬間。
——《外縁部・防衛層、第一段階突破を確認》——
声が、直接脳へ流れ込む。
——《個体・刃向蓮。
あなたは、予測値を超えている》——
「……だから何だ」
——《試験段階を、第二位階へ移行する》——
直後――
外縁部の空間が、“裏返った”。
距離の概念が崩れ、
上下が消え、
あらゆる方向が“奥”になる。
影の兵装が、さらに強化された。
「……ッ」
蓮の頬を、蒼い刃がかすめる。
皮膚が焼け、血が宙に散る。
だがその血すら、蒼光に分解されていく。
(これが……
“世界側の本気”か)
その時――
蓮の背後で、
小さな蒼い光が瞬いた。
『……れんくん……!』
夕凪の声だ。
意識の奥、
蒼の深層から、
必死に伸びてきた“人の声”。
『……ここ……
“お兄ちゃん”と……
同じ階層……!』
蓮の目が見開かれる。
「……同じ階層……?」
つまり――
朔夜と自分は、
今、同じ“世界の中枢構造”にいる。
だが、道が違う。
表から切り込む剣。
裏から崩す意志。
『……れんくん……
気をつけて……
ここは……
“世界が、誰を残すか選ぶ場所”……』
その瞬間、
影兵装の動きが、明らかに変わった。
“排除”から――
“捕獲”へ。
「……なるほどな」
蓮は、静かに笑った。
「今までは“評価”。
ここからが……“回収”ってわけか」
刹那。
影の鎖が、
蓮の四肢へ一斉に伸びる。
回避不能。
物理破壊不可。
——《拘束開始》——
そのとき。
蓮の胸の奥で、
夕凪とのリンクが灼熱のように燃え上がった。
『……れんくんッ……!!』
(……夕凪)
「……悪いけどさ」
蓮は、はっきりと言った。
「世界が“選ぶ”って仕組み、
俺が一番嫌いなやつなんだ」
次の瞬間――
蓮の身体から、
**“蒼と黒が混じった異質な波動”**が爆発した。
拘束が、一斉に弾き飛ぶ。
影兵装の演算が、初めて狂った。
——《演算誤差……
個体・刃向蓮、分類不能》——
「分類するな」
蓮は、前を見据える。
その視線の先。
蒼の世界のさらに奥に――
“中央石室”の核が、確かに存在していた。
「……朔夜。
今、行く」
蓮は、外縁部を強行突破した。
世界の防衛層を、
“意思だけで踏み砕きながら”。




