第1話(裏) 『蒼結晶の脈動 ― 目覚めた“視線”』
――蓮視点/黒鋼連邦・深部研究層
黒鋼連邦の地下深くに広がる研究区画は、
今日も薄暗い青白い光に満ちていた。
蓮は無言のまま、
蒼結晶コアの前に立ち続けていた。
——脈動している。
それは“生き物”のようだった。
扉心臓領域で破壊されたはずの残骸なのに、
鼓動のような響きが微かに空気を震わせる。
(……まただ)
蓮の胸が、微かに熱を帯びた。
夕凪の共鳴核ではない。
扉の残響でもない。
もっと冷たく、
もっと深い——
“意志”の視線。
あの日、扉が砕けた瞬間に感じた脈動とまったく同じ。
誰かが、見ている。
蓮は静かに問いかけた。
「……お前は何だ。
扉の奥にいた……“誰”なんだ?」
返事はない。
だが脈動は、一拍だけ強まった。
理解された。
そう感じた。
背後の扉が開き、足音が近づく。
「また来てたのね、蓮」
振り向くまでもなく、真白の声だ。
蓮はコアから少し離れ、
簡易ベンチに腰を下ろした。
真白は白衣をひるがえしながら、
蓮の隣にそっと座る。
「……夕凪ちゃん、今日は少し起きたわよ。
蓮の名前を呼んでた」
蓮の肩がわずかに揺れた。
「……そうか。
よかった……」
影夕凪との統合。
扉の暴走。
そして新たな脅威の“目覚め”。
夕凪はその全てを背負ったまま、まだ眠り続けている。
真白は蓮の横顔を見つめた。
「蓮。
あなた……
何か感じてるんでしょう?」
蓮は答えない。
だが瞳の奥は、嘘をつけていない。
真白は続ける。
「わたしも感じるの。
北部地脈が蒼く揺れるたび……
“誰かが大陸を見下ろしてる”って」
蓮は、拳を強く握った。
「……扉の奥には、誰もいないはずだ。
心臓領域は崩壊したんだ。
でも……
“気配”だけが残ってる」
真白は小さく息を呑む。
「気配じゃない。
蓮、あなた……
“呼ばれてる”んだよ」
蓮がゆっくり真白を見た。
呼ばれている——
その言葉は、蓮の胸の奥に冷たく刺さる。
(あの日からずっと……
俺だけが感じる声がある)
“鍵でもない者”に向けられる視線。
“干渉者”としての価値を測るような意志。
真白は蓮の手に触れ、震える声で言った。
「蓮……
あなたは夕凪ちゃんを守れる。
でも同時に——
“巻き込まれる側”にもなる」
蓮は目を閉じた。
その言葉はずっと分かっていた。
夕凪と影夕凪を救えたこと。
扉に触れたこと。
蒼の脈動を感じる力。
(俺は……夕凪の“側”で、世界と戦うことになる)
沈黙を破ったのは、施設全体に鳴り響く警報だった。
——ウウウウウウウ!!
真白がモニターを見る。
「蓮!!
第六層で“蒼化現象”!
結界が勝手に書き換えられてる!!」
蓮はすぐさま立ち上がる。
「行くぞ!
これは……扉の残響じゃない。
“あいつ”の干渉だ!!」
研究員たちが悲鳴を上げ、
金属壁が蒼光に染まる。
“視線”が強まった。
蓮はその気配に向かって走りながら、
喉の奥で呟いた。
「……夕凪。
俺は、お前を守るためにここにいる。
どんな“意志”がこの世界を見ていようと……
絶対に負けない」
蒼光が道を照らす。
第三部の争いは、すでに始まっていた。




