第28話(裏) 最終話 『蒼の静寂、ひとつの涙 ― そして少年は歩き始める』
扉心臓領域を満たしていた暴走の蒼光が、
嘘のように静かに消えていった。
崩れかけていた空間は、
まるで深い海の底のように沈黙を取り戻す。
蓮は息を大きく吐き、
倒れそうになる夕凪を抱きとめた。
「夕凪……!」
夕凪の身体は驚くほど軽く、
まるで影が抜け落ちた後の柔らかな光のようだった。
彼女の胸には、
薄く輝く蒼い紋章――
〈蒼の共鳴核〉が灯っている。
夕凪は蓮の胸元で目を閉じ、
小さく笑った。
「……蓮くん。
影ちゃん……わたしの中に……
ちゃんといるよ……
もう……泣いてない……」
蓮は息を呑んだ。
(……ほんとうに……統合されたんだ)
あれほど暴れ、泣き叫び、
存在そのものを否定し続けた“影夕凪”が、
いま夕凪の心の中に静かに寄り添っている。
蓮の胸がじんと熱くなる。
「……よかった……
ほんとに……よかった……」
涙がこぼれ、夕凪の髪に落ちた。
夕凪は蓮の胸に顔を埋める。
「泣いてるの……蓮くん……?」
「……泣くさ。
怖かったんだよ。
夕凪が……いなくなるって思って……」
夕凪はそっと蓮の胸に手を添え、
小さく囁いた。
「蓮くんが……助けてくれたからだよ……
あなたがいなかったら……
わたし……選べなかった……」
蓮は一瞬、息を呑み、
胸が苦しくなるほど締め付けられた。
(夕凪……
お前はもう……誰より強いよ)
だが次の瞬間、
蓮は自分の中にある“もう一人の声”を聞いた。
―― 違う。
夕凪を救ったのは……
お前一人じゃない。
その声の主は、
他でもない“影夕凪”の残響だった。
(……影……
お前も……夕凪を守りたかったんだよな)
蓮は小さく頷いた。
「ありがとう。
影……
お前の気持ち、夕凪はちゃんと受け取ったよ。
これからは……
俺が、夕凪の涙も痛みも、一緒に支える」
夕凪が顔を上げる。
「蓮くん……
わたし……強くなりたいの。
影ちゃんと一緒に……
いつか……
お兄ちゃんと、蓮くんと、真白ちゃんと……
同じ場所に立ちたい……」
蓮の胸の奥で、
なにか暖かいものが静かに灯った。
「……ああ。
お前ならできるよ。
夕凪は……誰より強いからな」
その言葉に夕凪は少し照れくさそうに微笑み、
蓮の手をぎゅっと握った。
■ 朔夜と真白の視線
少し離れた場所で、朔夜が一筋の深い息を吐いた。
「……蓮。
よくやった。
お前が夕凪を救ったんだ」
蓮は首を振る。
「俺ひとりじゃ無理でした。
朔夜……
あなたが“兄”でいてくれたから……
夕凪は選べたんだと思う」
朔夜は微かに笑った。
「そうか。
なら……俺も少しは兄らしかったわけだな」
真白は蓮をじっと見つめ、
少し寂しそうに、でも優しく微笑んだ。
「蓮……
あなた、本当に変わったね。
“全部背負う”んじゃなくて……
“分け合う”って言えるようになった」
蓮は照れくさそうに頭を掻く。
「……まだうまくはできないけどな」
■ 扉の奥から——微かな“脈動”
夕凪を支えながら立ち上がった蓮は、
ふと扉の残骸に視線を向けた。
そこには蒼い光の欠片だけが漂っている。
……だが。
蓮は、微かだが確かに感じた。
脈動。
夕凪の〈共鳴核〉ではない。
扉本体の残響でもない。
もっと深い、
もっと底のほう——
―― 呼んでいる。
“鍵”ではない何かが。
蓮は背筋がぞくりと震えた。
(……なんだ……これは……
扉の奥に……
まだ“誰か”いる……?)
真白が気づく。
「蓮……?
どうしたの?」
蓮はかすかに首を振った。
「いや……
なんでもない。
ただ……
この戦いは……
まだ終わっていない気がする」
夕凪が不安そうに蓮を見た。
「蓮くん……?」
蓮は夕凪の頭をそっと撫でた。
「大丈夫だよ。
お前は今日はもう……ゆっくり眠れ。
影と一緒に、な」
夕凪は安心したように微笑み、
蓮の胸に額を預けた。
朔夜は静かに頷く。
「一旦、帰還する。
扉の研究は……
第三部で本格的に始めざるを得まい」
真白が小さく息を飲む。
「……蓮。
あなたが感じた“気配”、
たぶん……本物だと思う」
蓮は扉の奥を見つめたまま呟いた。
「俺たちの戦いは……
まだ……“始まり”だったんだな」
蒼光がゆっくりと消えていく。
影も——
痛みも——
過去も——
そして、
夕凪が生きていく未来も。
すべてを抱えたまま、
蓮は静かに歩き始めた。
第二部——
完。
読んでくださって、ありがとうごさいます。
こちらは黒鋼連邦から見た“裏の戦場”。
蓮の揺れる正義や、黒鋼の影の動きまで追っていただけて嬉しい限りです。
もし「裏側の真実もおもしろいな」と思ってもらえたら、
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これからも蓮の選ぶ未来と、黒鋼連邦の闇を
一緒に追いかけてもらえたら嬉しいです。
次の更新でまたお会いしましょう。




