第24話(裏) 『選択の門 ― 蓮、心の臨界へ』
蒼い光の奔流が渦を巻き、
扉心臓領域の中心に巨大な“門”が現れた。
蓮はその門の前に立ち、
全身を震わせていた。
身体の震えではない。
心が裂ける音が聞こえるような痛み。
右に夕凪。
左に影夕凪。
背後に真白。
前に朔夜。
そして——
頭上から扉そのものの圧力。
(俺に……こんな選択が……できるわけ……)
そこへ、夕凪本人の声が届く。
『蓮くん……
たすけて……
もう……ひとりは……いや……』
蓮の胸に鋭い痛みが走る。
「夕凪……!!
待ってろ……必ず……!」
夕凪の声は弱く、
まるで風に消えてしまいそうだ。
一方で、影夕凪が蓮へ手を伸ばす。
「蓮くん……
“私”を選んでくれたら……
夕凪は苦しくないの……
蓮くんだって……苦しまずに済む……
ねぇ……それって悪いこと……?」
蓮の喉がつまる。
影夕凪の言葉は、
痛いほど“優しい”のだ。
夕凪本人への想いを否定せず、
蓮の苦しみを理解しようとしてくれている。
だからこそ——恐ろしい。
真白が震える声で叫ぶ。
「蓮!!
その優しさに飲まれちゃダメ!!
影夕凪は……夕凪ちゃんの“涙”だけなの!!
蓮が抱えていいものじゃない!!」
影夕凪が真白を睨む。
「泣きたかった夕凪の代わりに泣いてあげることの何が悪いの?
蓮くんは……誰かの涙を放っておけるような人じゃない。
だから蓮くんは、私を選ぶ……」
蓮は拳を握り、震えた。
「……俺は……
誰も泣かせたくない……
夕凪も……
影夕凪も……
真白も……
朔夜も……
全部……守りたい……」
その言葉に、
全員の表情が変わった。
朔夜は怒りと悲しみを混ぜた声を吐き捨てる。
「蓮……
お前の“全部救う”は……
誰ひとり救わない!!」
蓮の目が揺れた。
真白が蓮の腕をつかみ、必死に叫ぶ。
「蓮!!
あなたは優しすぎるの!!
全部を守ろうとして……
自分が壊れようとしてる!!」
影夕凪の瞳が大きく見開かれる。
「……蓮くん……
壊れるの……?
そんなの……いや……
いやだよ……
イヤ……!!!」
影夕凪の体が光に包まれ、
その光が激しく脈動する。
朔夜が刀を構えた。
「蓮!!
影が暴走する!!
止めなければ——夕凪が死ぬぞ!!」
蓮の顔が真っ白になる。
(……夕凪が……死ぬ?
俺のせいで……?)
影夕凪が泣き叫ぶ。
「違うよ!!
私は夕凪を苦しめたくない!!
蓮くんに……嫌われたくないだけ……!!
拒絶されるくらいなら……
夕凪なんて……消えてほしい……!!」
その言葉に、
空気が凍った。
夕凪本人が朔夜の腕の中で震える。
『……やだ……
影ちゃん……そんなこと……言わないで……
私は……
あなたがいて……
少し……救われたんだよ……』
影夕凪の瞳が揺れる。
「……うそ……
だって……私……
あなたの痛みしか持ってない……
笑顔も……光も……
ひとつも持ってない……」
蓮は胸が押しつぶされそうになった。
(影夕凪が……
“自分を存在価値がない”と思ってる……!?)
その痛みは、
あまりに夕凪本人と重なる。
蓮は思わず手を伸ばしていた。
「違う……
お前は……夕凪の一部だ……
俺は……お前を……嫌いになれない……!」
影夕凪の瞳が光を宿す。
「蓮くん……
そんなこと言われたら……
私……壊れちゃう……!!」
扉全体が轟音とともに震えた。
選択の門が、強制するように光を強める。
《蓮。選べ。》
影夕凪が蓮へしがみつき、泣き叫ぶ。
「蓮くん……!
私を選んで……!!
夕凪の涙は……私が全部引き受けるから……!」
夕凪本人も叫ぶ。
『蓮くん……
わたし……
お兄ちゃんと……
みんなのところに……帰りたい……!!』
真白も蓮を支えながら叫ぶ。
「蓮!!
答えて!!
あなたの言葉で……!!」
朔夜は刀を下げ、蓮に背中を預けるように言った。
「蓮……
お前の“答え”で……
扉が決まる」
蓮の心が激しく揺れる。
影夕凪。
夕凪本人。
真白。
朔夜。
望みも痛みも全部違う。
(……俺は……何を……守りたい……?
誰を……救いたい……?
俺の“本心”は……どこにある……?)
その瞬間——
扉が“開門の合図”を放った。
世界が裂ける光が走り、
第二部・最終決戦へ突入する。




