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『黒鋼ノ戦旗 ― 奪われた未来を取り戻すために』  (裏)  作者: 田舎のおっさん
第一部

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第三話 宗六の密議と、歪められた正義

夜の鋼都ミッドラインは、昼よりも眩しかった。

蒸気塔の魔導灯が街全体を照らし、

金属の街区が青白い光に浮かんでいる。


蓮は訓練を終え、宿舎へ戻る途中、

ふと中央蒸気塔の上層へ続く階段に人影を見つけた。


(……宗六さん?)


老人の姿が、黒鋼軍の高官たちと並んで歩いていた。


普通の老人では到底入れない区域だ。

蓮は息を潜め、距離をあけて後を追った。


蒸気塔の上層――

魔導炉の鼓動が地面を震わせる場所で、

黒鋼軍の将校たちが密議を交わしていた。


壁に取り付けられたバルブが振動し、

魔導炉が低く唸る。


蓮は階段の影に身を隠し、

耳を澄ませた。


「――巫女の血脈は、順調に確保できている」

そう言ったのは、軍服を着た長官のひとり。


蓮の心臓が跳ねた。

“巫女の血脈”。

夕凪のことだ。


宗六が静かに答える。


「鍵の力は強い。

 あの子は、古代兵器の封を“部分的に”響かせておる。

 だがまだ足りん。

 完全な覚醒には“兄”の存在が必要じゃ」


「兄……? 天城朔夜という少年だな」


「うむ。

 あの子は戦場で覚醒しつつある。

 いずれ鍵の巫女と共鳴するじゃろう」


長官が険しい表情になる。


「……問題は、その兄が帝国で評価され始めていることだ。

 宗六殿、なぜ桜花に残してきた?」


宗六は微笑み――

だがその目は氷のように冷たかった。


「蓮が、朔夜を連れてくるからじゃよ。

 あの子は心優しい。

 そして夕凪を想っておる。

 夕凪を“救う”ためなら、必ず動く」


蓮の息が止まった。


(俺が……朔夜を?

 夕凪を救うために……?)


宗六の声が続く。


「朔夜は黒鋼に来ればよい。

 帝国よりも、桜花よりも、

 黒鋼の方が正義に近い――そう思わせればよい」


その言葉に、長官たちの表情が変わる。

疑いでもなく、賛同でもなく――

ただ“利用価値を測る目”だった。


蓮は胸を押さえた。

心臓が早鐘のように動く。


(俺が……朔夜を導く……?

 朔夜を……この黒鋼へ……?)


彼は幼い頃から知っている朔夜の姿を思い出した。

村の皆を助け、妹の夕凪を大切にしていた優しい少年。


(朔夜なら……未来を守れる。

 夕凪を守れる……はずだ)


胸の奥に芽生えたのは、

黒鋼への忠誠ではなかった。


――朔夜と夕凪を救えるのは黒鋼だけだ

という“思い込み”だった。


宗六はふいに気配を察したように、

階段の影へ視線を向けた。


「そこにいるのは……蓮か?」


蓮はバレたと思い、影から飛び出した。


「す、すみません……聞くつもりじゃなくて……!」


宗六は穏やかに首を振った。


「よい。

 むしろ聞いておった方が都合がよい。

 蓮よ、お前はこれから黒鋼の士官として成長していく。

 ならば知っておくべきこともあろう」


老人は蓮の肩に手を置き、

目を覗き込むように語りかけた。


「この国は……

 “未来を奪われた者”のための国じゃ。

 お前の未来も、夕凪の未来も……

 桜花には守れん」


蓮の呼吸が荒くなる。


「夕凪を……本当に、守れるんですか?」


「守れるとも。

 だがそのためには、お前が強くならねばならん。

 そして――朔夜もまた、こちらへ導かねばならん」


蓮は唇をかみしめた。


(俺が……連れてくる……?

 本当に……できるのか……)


宗六は微笑む。


「お前は、間違っておらぬ。

 黒鋼こそが、正義じゃよ」


蓮は、震えながらも頷いた。


(……俺がやる。

 夕凪を守る。

 朔夜も……救う。

 そのために、強くなる)


蒸気塔の灯りが金属の街を照らし、

蓮の決意を照らし出した。


その決意が、

宗六の“歪んだ未来”のために使われるとも知らずに。

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