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『黒鋼ノ戦旗 ― 奪われた未来を取り戻すために』  (裏)  作者: 田舎のおっさん
第二部

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第21話(裏) 『裂ける心/兄と幼馴染と影が交わる場所で』

扉の心臓領域が震えていた。

蒼い膜に亀裂が走り、

そのたびに空間全体がうねる。


蓮は真白の肩を抱き寄せながら、周囲を見回した。


「……揺れてる……いや、違う……これは——」


真白が息を呑む。


「誰かが……扉の奥に……入ってきた……?」


その瞬間だった。


扉全体が爆発したような強烈な波動を放ち、

蓮の身体が一瞬、浮いた。


影夕凪が胸元を押さえ、苦しげに叫ぶ。


「来ないで……っ……!!

 朔夜さん……どうして……どうしてここに来るの……!!」


蓮の心臓が跳ねる。


「さ、朔夜……だと……?」


影夕凪の瞳が怯え、そして、怒りに染まった。


「朔夜さんが来たら……

 蓮くん……あなたは私を見てくれない……!」


真白が一歩前に出た。


「違う!!

 蓮を縛ってるのは……あんたのほう!!」


影夕凪は真白へ鋭い視線を向けた。


「邪魔をしないで。

 真白ちゃんは……蓮くんの足手まとい」


真白の表情が歪む。


蓮は慌てて割って入る。


「やめろ!

 真白は——俺の仲間だ!」


影夕凪の笑みが冷たくなる。


「“仲間”?

 夕凪を助けるためにここにいるのに……

 真白ちゃんを守るなんて、矛盾してるよ?」


真白が震える声で反論した。


「蓮は優しいのよ……

 夕凪ちゃんのことだって……

 あんたよりずっと……!」


影夕凪の表情が変わる。

嫉妬とも悲しみとも言えない、複雑な感情。


「……夕凪“ちゃん”。

 あなた……夕凪のつもりで言ってるの?」


影夕凪は胸に手を当て、苦しげにつぶやく。


「夕凪の気持ち……痛み……孤独……

 全部、私の中にある……

 だから私は“本物”……私こそが夕凪……」


蓮は叫ぶ。


「本物じゃない!!

 お前は夕凪じゃない!!

 夕凪は——俺の、大切な……」


その言葉に、影夕凪の表情が変わった。


「——“大切”?

 蓮くん、それって……」


空間が大きく揺れる。


『……蓮……くん……?

 お兄……ちゃん……?』


夕凪本人の声。


影夕凪が激しく震えた。


「やめて……やめてやめて……!!

 本物の夕凪が出てきたら……私……消えちゃう……!!」


影夕凪は両手で耳を塞ぎ、泣き出した。


「いや……やだ……嫌ぁ!!

 蓮くん……私を見て!!

 私を選んで!!

 夕凪ばっかり……見ないでよ!!」


真白が怒鳴る。


「蓮の気持ちをねじ曲げるな!!

 あんたは“影”よ!!

 本物じゃない!!」


影夕凪は真白へ向き直り、冷たく言った。


「じゃあ言ってみて。

 “蓮は私が好き”って。

 真白ちゃん、あなた……言えないんでしょ?」


真白の顔が青ざめる。

蓮は真白の肩を支えた。


影夕凪は泣きながら微笑む。


「ね?

 あなたじゃ……蓮を救えない」


蓮の心がざわめく。


(……違う……真白は……)


しかし、次の瞬間——


扉の奥から

朔夜の声が響いた。


『蓮——!!

 夕凪はどこだッ!!』


蓮の身体が震えた。


(朔夜……!

 ついに来たのか……!)


影夕凪が絶叫する。


「来ないで!!

 朔夜さんは……私を否定する……!!

 “夕凪は妹だ”って……

 蓮くんから私を奪う……!!」


真白が蓮の腕を掴む。


「蓮……落ち着いて……!

 影の言葉に振り回されないで……!」


しかし蓮の胸中には、もう一つの感情があった。


嫉妬。


そして——罪悪感。


(朔夜……

 お前は夕凪の“兄”だ。

 俺は……

 俺は一体……どんな顔してお前と向き合えばいい……?)


夕凪の声が入り込む。


『蓮……くん……

 やめて……争わないで……』


影夕凪も泣き叫ぶ。


「蓮くん!!

 私を捨てないで……!!

 朔夜さんのほうを見ないで……!!」


真白も必死に叫ぶ。


「蓮!!

 戻ってきて!!

 あなたは蓮でしょ!?

 夕凪ちゃんでも影でもない!!

 蓮は蓮よ!!」


蓮の頭の中で三つの声が混じる。


夕凪。

影夕凪。

真白。


そして——朔夜。


(……俺は……何を……選ぶ……?)


その瞬間。


扉の中心が爆発するように開いた。


蒼い膜が裂け、

白い光が蓮の前に降り立つ。


そこに姿を現した——


朔夜。


蓮と朔夜の視線がぶつかる。


時間が止まったようだった。


「朔夜……」


「蓮……夕凪はどこだ」


朔夜の声は鋭い。

だが、その奥には震えるほどの必死さがあった。


影夕凪が朔夜の前に立ちふさがる。


「来ないで……朔夜さん……

 蓮くんは“私”が守るの……!!」


朔夜の眼が怒りで燃え上がる。


「そこを退け。

 お前は夕凪じゃない」


影夕凪の顔が崩れた。


「やだ……っ……!

 否定しないで……!!

 私だって……苦しいの……私だって……!」


空間が悲鳴をあげる。

夕凪本人の声が響く。


『……まって……ふたりとも……

 たたかっちゃ……だめ……』


蓮は朔夜を見た。


朔夜は夕凪だけを見据えていた。


その視線が、痛かった。


嫉妬とも、恐怖ともつかない感情が胸に刺さる。


(朔夜……

 俺は……ずっと……

 お前と夕凪の間に……

 踏み込んでしまったのか……?)


扉の心臓領域全体が、限界の光を放つ。


——第二部最終決戦が、始まる。

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