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『黒鋼ノ戦旗 ― 奪われた未来を取り戻すために』  (裏)  作者: 田舎のおっさん
第二部

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32/112

第16話(裏) 『影の侵食/刃向の血は囁く』

蓮は、黒鋼連邦の地下施設の奥にある、

古い保守区画に身を潜めていた。


真白の肩の傷は深く、

応急処置をしながら蓮は冷たい汗を流す。


真白の白い指が、蓮の服の袖を掴んでいた。


「……蓮……どこにも行かないで……」


震えていた。

恐怖ではない。

失うことへの怯えだった。


蓮:「行かない。行かないから……」


だがその言葉は、

今の蓮が抱えている“影”によって揺らいでいた。


——夕凪を救いたい。

——朔夜も救いたい。

——真白も見捨てたくない。


だが影夕凪は、蓮の心に問い続けていた。


「ねぇ、蓮くん。

 あなたが救えるのは——一人だけだよ?」


蓮は頭を振る。


真白の手が、蓮の手を強く握った。


「……蓮……聞いて……

 あなたは……誰より優しいけど……

 優しさだけじゃ……死んじゃうよ……?」


蓮:「……真白……?」


真白の目は涙で滲んでいたが、

言葉ははっきりしていた。


「影機関で……何十人も死んだよ……

 “扉計画”のために……

 夕凪ちゃんのせいじゃない……

 でも……あなたが動かなきゃ……

 もっと、もっと……」


真白の声は震えていた。


「蓮……お願い……

 あなたが……選ばなきゃ……

 “守りたい人”を……誰なのか……」


その瞬間、背後から低く笑う声が響いた。


「——選べぬからこそ、弱いのだよ」


蓮の背筋が凍りついた。


そこに立っていたのは、

黒鋼連邦の裏支配者——刃向 宗六。


真白の顔から血の気が引く。


「おじい……ちゃん……」


宗六はいつもの柔らかな笑みを浮かべながら、

蓮と真白の間に視線をすべらせた。


「蓮。

 お前は“刃向”の血を継いでおきながら、

 いまだに未練がましいな」


蓮:「宗六……」


宗六は歩み寄り、蓮の頬に軽く触れた。


「影の揺らぎが強まっておる。

 お前の精神は、すでに“扉”に届き始めている。

 つまり……“鍵の扱い手”に近づいておるのだ」


真白は震えながら蓮の前に立つ。


「おじいちゃん……やめて……

 蓮は……蓮は……!」


宗六は真白に触れず、静かに言った。


「真白、お前もだ。

 刃向の血を継ぐならば、蓮の選択を邪魔するな」


真白:「……っ!」


蓮の表情が一瞬怒りに染まる。


「やめろ、宗六ッ!!

 俺はもう……お前の計画になんて乗らない!」


宗六はゆっくり笑った。


「蓮。

 お前は“選ばねばならん”。

 夕凪か。

 朔夜か。

 真白か。

 ……そして世界か」


宗六は蓮の胸に指を置き、その心臓の鼓動を感じ取った。


「影は、お前の“願望”を映す。

 今はまだ形になっておらんが……

 やがて影夕凪は“本物”を喰うぞ」


蓮の顔から血の気が引いた。


宗六は囁く。


「夕凪は、お前の心の依代になりつつある。

 あとは少しの刺激で……」


蓮は宗六の手を振り払った。


「黙れ……!

 俺は……俺は絶対に夕凪を——」


宗六の瞳が薄く光った。


「では証明してみせよ。

 “正しい選択”をな」


影夕凪の声が、蓮の脳内に響く。


「ねぇ蓮くん……

 私を選んでよ」


真白の声も、蓮の肩を掴む。


「蓮……私を置いて行かないで……

 お願い……!」


宗六は背を向ける。


「扉の震動はもうすぐ極限に達する。

 お前たちの選択が……世界を決める」


そして闇に消えた。


残された空間で、蓮と真白はしばし動けなかった。


真白は蓮の胸に顔を埋め、小さく呟く。


「蓮……あなたは……どうしたいの……?」


蓮は答えられない。


夕凪の声が、再び囁く。


『……蓮くん……』


その声は甘く、悲しく、優しく——

蓮の心の弱い部分に響く。


蓮は震える拳を握った。


「……選ぶ……

 この俺が……必ず……選んでみせる」


真白はその言葉を聞いて、

目を閉じて小さく微笑んだ。


涙を流しながら。



蓮は立ち上がる。


「夕凪を救う。

 朔夜も。

 真白、お前も。

 宗六の計画も……全部ぶっ壊す」


真白:「蓮……!」


その瞬間、蒼光が地下を貫いた。


結界が——揺れたのだ。


蓮は確信した。


「夕凪が……呼んでる……!」


蓮は真白の手を握り、

揺れる蒼光の裂け目へと走り出した。


——影夕凪と対峙するために。


そして、朔夜と同じ場所に辿り着くために。


第二部は、いよいよ“扉戦線”へ向かう。

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