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『黒鋼ノ戦旗 ― 奪われた未来を取り戻すために』  (裏)  作者: 田舎のおっさん
第一部

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第二話 黒鋼の街と少年の初訓練

蒸気の匂いが、どこからともなく漂ってきた。


蓮は、連れてこられた巨大な鉄橋の上で足を止めた。

視界の先には、黒鋼連邦の首都――

鋼都こうと・ミッドライン が広がっていた。


高くそびえる蒸気塔。

街の至るところを走る鉄の配管。

魔導炉の光が夜を照らし、機械仕掛けの車両が走り抜ける。


桜花帝国の木造の街とはまるで違う。

ここには“未来”があった。


「……すごい……」


蓮が息を呑むと、横から声がした。


「これが黒鋼の力だ。桜花のように伝統に縛られた国ではない」


振り返ると、短髪の青年が立っていた。

黒鋼連邦軍の制服に身を包み、鋼のような目をした男。


黒鋼 ヘルマ中隊長。

蓮の指導役になる人物だ。


「お前が蓮だな。宗六殿から聞いている。

 “見どころがある少年”だと」


「……よろしくお願いします!」


蓮が頭を下げると、ヘルマは笑わずに続けた。


「まずは訓練だ。ついてこい」


案内された訓練場では、

十数名の少年少女たちが蒸気銃の分解整備をしていた。

作業場の床が金属で、工具の音が響き渡る。


「ここでは全員が“国を動かす歯車”だ。

 桜花のように血筋や家柄は関係ない」


蓮の胸に熱いものが溢れた。


(……桜花の村では、どれだけ働いても未来はなかった。

 でも、ここなら……変われるのか?)


ヘルマが蓮に蒸気銃を投げる。


「まずは銃の構造を覚えろ。

 黒鋼の兵は、自分の武器を自分で直せぬ者は生き残れん」


蓮は慌てて受け取り、整備場に座り込んだ。

銃を手に取ると、蒸気管や魔導炉の小さな光が見えた。


(こんなもの……触ったこともない)


隣では、他の訓練生たちが

「新人か」「村の出か?」

と小声で囁きあっている。


蓮は俯くが、

その手は止まらなかった。


ネジ、配管、魔導石の位置……

頭の中で“筋道”が自然と浮かぶ。


黒鋼の技術は村では到底触れなかったものだ。

だが蓮は――

初めて触れる蒸気銃の構造を、驚くほど直感で理解していった。


(……あ、これ、この向きじゃないと魔導炉が安定しない)


気づけば銃は分解され、

そして元通りに組み上がっていた。


「整備、完了しました!」


ヘルマは目を細め、蓮の銃を手に取った。


「……お前、初めて触ったのか?」


「はい」


他の訓練生がざわめく。


「初見でここまで……?」

「嘘だろ……」


蓮は戸惑いながらも、胸の奥に小さな光が灯るのを感じた。


(やれる……俺にも、できることがある)


ヘルマははじめて口角を上げた。


「面白い。なら次は陸蒸気兵の操縦訓練だ」


蓮は息を呑む。


「あれを……操縦できるんですか?」


「黒鋼は“力”がすべてだ。

 操縦できれば、生き残り、守れる」


その言葉に、蓮の心が強く揺れた。


(夕凪を……守れる……?)


その時、背後から静かな声がした。


「蓮……順調のようじゃな」


振り返ると、宗六が立っていた。

黒鋼の紋章が入った上等な外套を纏い、

かつて村で見せていた“老い”の影は消え去っていた。


「夕凪のこと……知っていますか」


蓮が問うと、宗六は笑う。


「心配いらぬ。

 あの子は黒鋼の守りの中におる。

 桜花には“鍵の巫女”を保護する力はない。

 お前が強くなれば、夕凪を守れる。

 朔夜をも、いつか正しい場所へ導けるじゃろう」


蓮の胸に、“正しさ”が流れ込んでくる。

それは毒か真実か――この時の蓮にはまだ分からなかった。


ヘルマが蓮に手を伸ばす。


「行くぞ。お前の未来を掴む時だ」


蓮は頷いた。


(……未来を取り戻す。

 黒鋼なら、それができる。

 俺は、ここから始める――)


蒸気の咆哮が訓練場を揺らし、

蓮はその音の中へ、迷いなく踏み込んだ。


こうして蓮は、黒鋼連邦の士官候補として

“もう一つの戦記”の道を歩み出した。

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