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『黒鋼ノ戦旗 ― 奪われた未来を取り戻すために』  (裏)  作者: 田舎のおっさん
第二部

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第13話 『黒鋼連邦・影機関の影動』

蒼光が世界を裂いたあの夜——黒鋼連邦の首都〈鉄環都市ニグルム〉もまた、静かに震えていた。


だが、その震えは桜花帝国のそれとは違う。

黒鋼の街は、蒸気と鉄の唸り声が増すほどに、むしろ落ち着いていく。


——異常。

——だが想定の範囲。


黒鋼の人間は、大陸の揺れに慣れすぎていた。


しかし。


影機関だけは違う。


その深部、冷気の流れる監視室で、刃向蓮は蒼白な魔導反応の波形を見つめていた。


——夕凪の心が、震えている。


その震えは、計器にも、霊脈監視網にも、そして蓮の胸にも、確かに届いていた。


「……朔夜、お前も見ただろう」


幼馴染の顔が脳裏に浮かぶ。

蒼光は、大陸すべてを繋ぐ心の叫びだった。


だが。


その微かな温度の残る想起を、背後の冷たい声が断ち切った。


「——やはり、お前は反応したか。蓮」


蓮の背筋が凍る。


振り返る前に、空気が“押し潰される”ような感覚が襲う。

圧倒的な威圧。

鉄より重く、深海より冷たい気配。


刃向宗六が立っていた。


黒鋼連邦影機関の最高責任者。

蓮の祖父にして——狂気そのもの。


「……宗六」


「扉が、心臓部をわずかに開いた。

 夕凪が反応し、世界が呼応した。

 ——あとは、最終工程に移るだけよ」


宗六の瞳は、嬉々としていた。


だが蓮の胸はむしろ締め付けられる。


「夕凪は……まだ自分の意思を持っている。

 あの子を“初期化”など——」


「必要だ。」


宗六は蓮の言葉を切り捨て、冷たく笑った。


「お前が抱く未練は、世界を滅ぼす。

 ——蓮。お前は、夕凪を救ったつもりか?」


蓮の拳が震える。


宗六はゆっくりと蓮の顔を覗き込む。


「違う。

 お前が救ったのは、自分の罪悪感だ。

 夕凪を攫うことで、朔夜を裏切った罪を……押し付けただけ」


胸の中心に、鋭い杭が打ち込まれたようだった。


宗六は蓮に背を向け、扉の方向を見据える。


「——蓮。もう少しで“鍵”は完成する。

 お前の役目は終わりだ」


蓮の表情が凍りついた瞬間、

監視室の警告音が突然鳴り響いた。


《緊急通達:刃向蓮が扉計画を妨害している可能性——》

《影機関全員に告ぐ。蓮を拘束せよ》


蓮の脳が真っ白になった。


——拘束?


宗六は振り返りもせず、言った。


「“扉計画の阻害因子”は排除する。血縁であろうと、関係ない」


その言葉に、蓮の最後の理性が切れた。


「……っ! 宗六!!」


拳を握り、叫びかけた瞬間——

影機関の扉が静かに開いた。


「蓮……」


鈴のような小さな声。


入ってきたのは、淡い銀色の髪の少女だった。


刃向 真白。


蓮と同じ“刃向の血”を引く少女。

影機関の暗部で育てられた、もう一人の犠牲者。


真白は両手で蓮の名前を握りしめるように呟く。


「蓮……命令が出たの。

 私、あなたを……拘束しないといけない」


その瞳には涙さえ浮かんでいた。


——誰も救われていない。


——誰も、自由じゃない。


蓮は一瞬だけ目を閉じ、真白をまっすぐ見つめた。


「……真白。逃げろ。俺はここから離れる」


「離れられない。

 ……私、あなたを失いたくない。

 でも……命令を拒めば、私が——」


その時、宗六の声が静かに響く。


「真白。やれ」


真白の手が震え、小刀がわずかに光る。


蓮は歯を噛み締める。


「真白、やめろ——!」


「ごめんなさい……蓮」


その涙声に、蓮は胸を抉られた。


影機関の影が動き始める。

蓮は一瞬で悟った。


——黒鋼連邦は、もう敵だ。

 宗六は、世界を壊す。

 そして真白さえ、犠牲にしようとしている。


蓮はただ一つを心に決める。


朔夜と夕凪を救う。

 二人とも——今度こそ絶対に。


影機関の灯が落ち、闇が深まる。


刃向蓮の逃亡劇——そして黒鋼連邦の本気の追跡が、ここから始まった。

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