12話 壊すもの/守るもの ― 刃向蓮の決断
蒼光が爆ぜ、
精神世界の空間が揺れた。
朔夜が夕凪の手をついに掴んだ――
その瞬間。
蓮は胸が張り裂けそうになるほどの安堵を覚えた。
(夕凪……
朔夜……
よかった……
本当に……)
何度も、
何度も願った光景だった。
けれど、その安堵は一秒も続かなかった。
轟音。
黒い裂け目が結界を破り、
影機関の術式が精神世界へ流れ込む。
蒼光を食い破るように黒影が伸び、
巨大な“闇の手”のように夕凪へ向かって伸びた。
蓮は本能で叫んだ。
「夕凪から離れろォ!!」
足は迷わない。
痛みなど関係ない。
蓮は影機関の兵へ一直線に駆け込む。
◆ 影機関の侵入
精神世界に侵入した影機関は、
肉体よりも“精神”に干渉する術式で攻撃してきた。
刃は重く、動きは速い。
しかも景色そのものが敵の味方をする。
歪んだ地面。
幻影の壁。
足を絡めようとする黒影。
蓮は短剣を軋ませて敵の刃を払う。
ガキィィン!!
火花は散らない。
代わりに蒼光が飛び散った。
敵の術者が笑う。
「蓮。
お前は“巫女と天城を繋ぐ鎖”。
ここで切り離す」
蓮は怒りのままに踏み込んだ。
「切るなら俺を切れ!!
――夕凪には触れるなッ!!」
敵の刃が蓮の肩を斬り裂く。
(う……っ)
視界が揺れる。
しかし、蓮は退かない。
蓮の脳裏には――
泣いて震える夕凪の姿。
朔夜の叫び。
そして、自分が何度も追いかけ続けた背中。
それだけで十分だった。
蓮は短剣を逆手に握り、敵の隙へ滑り込んで喉を裂く。
蒼光に染まる黒影が霧になって消えた。
(……遅れられない
夕凪の“心”が壊れる前に……!)
◆ 朔夜と夕凪が結ばれる“光景”
蓮が戦いながら前を見ると――
朔夜が夕凪を抱きしめていた。
夕凪の顔は涙で濡れ、
しかしその腕は朔夜の胸にしがみついていた。
その光景を見た瞬間――
蓮は胸を熱い痛みに貫かれた。
(……よかった……
本当によかった……)
安堵と同時に、
胸の奥に“別の痛み”が滲み出した。
自分もまた、
夕凪の手を引いていた日々。
守れなかった後悔。
黒鋼へ逃げ込んだ自分。
宗六に縋りついた弱さ。
朔夜の背中の前で、
自分が立つ“位置”。
それでも蓮は笑った。
(俺は……それでいい
二人が生きていてくれれば……
それで充分だ)
その刹那。
結界が轟音を上げた。
バキバキバキィィィ――!!
蒼光を塗りつぶすように、
黒鋼の術式が侵入してくる。
蓮は叫ぶ。
「朔夜!! 夕凪を離すな!!
あの術式は“心”を直接狙う!!」
朔夜が振り返り、鋭い目で頷く。
「分かってる!!
蓮、お前が支えてくれているのは分かる!
絶対に離さない!!」
胸が熱くなるほどの信頼。
蓮は背中で笑い――
構えを取る。
(朔夜……
今のお前が夕凪を守る“本当の刃”だ)
◆ 宗六の術式が動く
影機関の奥――
黒い裂け目の向こうから、宗六の声が響いた。
「巫女よ。
“扉”を開け。
お前の心を壊し、真の形を見せよ」
黒い呪式が広がり、
夕凪の精神世界を侵食する。
夕凪が苦しそうに胸を押さえる。
『……いや……こわい……
お兄ちゃん……蓮くん……!』
蓮の全身が怒りで震えた。
「宗六――ッ!!
夕凪に触れるな!!!」
宗六の影は答える。
「蓮。
お前も“鍵”だ。
わしの計画から外れることはできん」
蓮は短剣を逆手に握りしめ、
宗六の影へ突きつける。
「外れるさ。
あんたの計画も、黒鋼も、ぜんぶ捨ててやる」
宗六の声は冷たい。
「ならば――死ね」
影機関の術者が複数同時に詠唱し、
黒影の刃が蓮へ襲いかかる。
◆ 三人の“心”がそろう
その瞬間。
朔夜が叫んだ。
「蓮!! お前が必要だ!!
夕凪を守るには――
三人が揃わないとダメなんだ!!」
蓮の縫われるような痛みが、胸に走る。
夕凪も泣きながら叫んだ。
『れん……くん……
きて……
こわいよ……!!』
蓮は震える声で返した。
「……行く……
行くよ……
俺はどんなに弱くても……
お前たちを守るために生きてきたんだ!!」
蒼光が蓮の周囲で爆ぜる。
朔夜が夕凪を抱きしめながら、
蓮へ手を伸ばした。
「蓮!!
ここへ!!
夕凪の隣へ!!」
蓮は、涙で滲む視界のまま、前へ踏み出した。
(俺は――
あの日押し殺した“願い”を取り戻す)
蒼光が3人を包む。
蓮は、
朔夜と夕凪の元へ辿り着く寸前――
黒い術式が空間を引き裂いた。
世界が揺れ、
扉が低く歌い始めた。
グォォォォォン……
結界の奥底――
“古代の扉”が動き始めた。
蓮は歯を食いしばって叫ぶ。
「朔夜!!
夕凪を離すな!!!
扉が――開く!!」
蒼光と黒影がぶつかり、
精神世界が崩れかける。
蓮は最後の一歩を踏み出した。
(つづく)




