10話 断ち切る刃 ― 影機関迎撃戦
最後の装兵が崩れ落ちた瞬間、
蓮は地面に手を突いた。
息が荒い。
肩からの出血が止まらない。
(……まずい……
体が……動かなくなってる)
それでも、朔夜たちが結界へ向かう姿を見送ったことだけは、
蓮の心を辛うじて支えていた。
(行け……朔夜。
夕凪の所へ……)
しかし――
谷の上から新たな殺気が降りてくる。
影機関。
漆黒の外套を纏った、黒鋼最深部の“処理部隊”。
蓮を見下ろし、
副査が声を響かせた。
「刃向蓮。
暴走装兵を全て“処理”したのは貴様か?」
蓮は立ち上がり、短剣を握り直した。
「……ああ、俺だ」
影機関の兵がすぐさま臨戦態勢を取る。
「やはり裏切ったか。
“巫女”の覚醒を邪魔する愚か者め」
蓮は鼻で笑う。
「邪魔……?
お前らこそ、夕凪を壊す気だろ」
副査が冷たく返す。
「巫女は“扉”を開く器。
壊れようが、用が済めば同じことだ」
蓮の胸が怒りで焼ける。
(夕凪を……“器”としか扱わない……)
短剣を構えるが、膝が揺れた。
(くそ……動け……動けよ!!)
影機関の兵が一斉に地を蹴る。
「蓮、拘束する。
抵抗するなら――殺す」
蓮は歯を食いしばり、前に踏み込んだ。
「来い……
俺もお前らを――止める!!」
◆ 影機関 vs 蓮
最初の一撃は、こちらの体勢が整わないうちに来た。
ギィン!!
蓮は剣を受け止めるが、体が後ろへ弾き飛ばされる。
(重い……!!
こいつら……俺が消されることも“前提”で調整されてる……)
血が跳ね、地面へ叩きつけられた。
影機関の兵が次々と降下し、
谷底が黒い影で満ちていく。
「蓮。
貴様の存在は危険だ。
天城朔夜と巫女を結ぶ“鎖”となる」
蓮は立ち上がりながら吐き捨てる。
「鎖で結ばれてるから何だ。
それが……悪いことかよ……!」
次の一撃をかわし、
蓮は敵の袖口を掴んで逆関節に折る。
ギャッ!!
骨が砕け、影の兵が倒れる。
だが、すぐに別の刃が襲いかかる。
蓮は肩に深い切り傷を負いながら、
短剣で敵の喉元へ斜めに斬り込む。
血が蒼光に照らされて散る。
(……数が多すぎる)
呼吸が荒れ、視界が滲む。
(俺一人じゃ……
全部は……!)
その瞬間――
谷の上の岩陰から、
宗六がゆっくりと現れた。
◆ 宗六の真意
老人の口元には、
不気味な笑みがあった。
「蓮や……
やはり、わしの思ったとおりよ」
蓮は宗六を睨む。
「……思ったとおり?」
宗六は両手を背に組み、
谷底を見下ろすように言った。
「お前が“朔夜と夕凪を守るために”動くことは、
初めから分かっておった」
蓮の血の気が引く。
「なら……なぜ……!」
宗六の目が細く光る。
「簡単なことよ。
朔夜も夕凪も、お前も……
“扉を開く鍵”だからじゃ」
谷が一瞬、静まり返った。
(扉の……鍵?
俺も……?)
宗六は言った。
「巫女の心を開き、扉を開けるのは――
“血”と“絆”。
その条件に最も適うのが、お前たち三人よ」
蓮の胸が凍る。
(夕凪……
朔夜……
俺……?
全部……宗六の計画のうち……)
宗六が手を上げる。
「故に――邪魔者は処分する」
影機関の兵が一斉に蓮へ刃を向ける。
蓮の背筋が総毛立つ。
(……ここで
“終わらせられる”!!)
◆ 決意:黒鋼を裏切る
蓮は傷だらけの身体を奮い立たせ、
短剣を地面に突き立てて立ち上がった。
「宗六……
あんたは夕凪を壊す」
宗六は笑う。
「器が壊れても構わぬ。
扉が開けばよい」
蓮の胸の奥底で、
何かが切れた。
(……夕凪も朔夜も、黒鋼も……全部……)
蓮は短剣を抜き――
宗六へ向けた。
「なら……俺は――あんたを裏切る!!」
影機関の兵たちが一斉に動く。
「蓮ッ!!」
伊吹の怒号ではない。
明朱でもない。
谷の奥――結界の中心から聞こえた。
夕凪の声だ。
『……れん……くん……
きて……
おねがい……』
涙が頬を伝えた。
(夕凪……!!
俺が……行く!!)
蓮は影機関の包囲へ突っ込む。
◆ 結界へ
刃を弾き、
腕を蹴り折り、
至近距離で首筋へ刃を差し込む。
もう戦闘術でも技でもない。
ただ必死に、身体と意地で道をこじ開ける。
敵の刃が腹に刺さった。
(……っ!!)
熱い血が溢れる。
それでも走る。
走るしかない。
(夕凪……!
待ってろ……!
俺は……お前を!!)
蒼光が爆発した。
谷が震える。
影機関の兵が距離を詰めようとしたその瞬間――
蓮の意識は、眩い光に包まれた。
結界の入口が呼んでいる。
(――行ける)
宗六が手を伸ばす。
「蓮!! 戻れ!!
お前は“扉の鍵”じゃ!!」
蓮は振り返らず、蒼光へ飛び込んだ。
「宗六……
俺はあんたじゃなく――
夕凪と朔夜を選んだ!!」
蒼光が蓮を飲み込む。
次の瞬間、
蓮の身体は結界内部へ引きずり込まれた。
そこは――
蒼い花弁の舞う、心の海。
(つづく)
読んでくださって、ありがとうごさいます。
こちらは黒鋼連邦から見た“裏の戦場”。
蓮の揺れる正義や、黒鋼の影の動きまで追っていただけて嬉しい限りです。
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これからも蓮の選ぶ未来と、黒鋼連邦の闇を
一緒に追いかけてもらえたら嬉しいです。
次の更新でまたお会いしましょう。




