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『黒鋼ノ戦旗 ― 奪われた未来を取り戻すために』  (裏)  作者: 田舎のおっさん
第二部

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22/112

7話 谷底の呼吸 ― 崩れゆく迎撃網

影風谷の中央、

黒鋼迎撃陣の心臓部。


霧が渦巻き、魔導装兵の赤い眼光が霧中で点滅している。

谷底からは“何か巨大なもの”が呼吸するような低い振動が続いていた。


蓮は装兵の制御盤に手を走らせ、

次々とコマンドを書き換える。


(ダメだ……攻撃制御が不安定になってきた)


最初はうまくいっていた。

蓮の操作で装兵たちは“迎撃のフリ”しかできなかった。

しかし――


――蒼光の吹き荒れ

――夕凪の悲鳴

――谷の魔導流の乱れ


その全てが重なり、

装兵のAIがノイズを拾い始めていた。


副長が声を上げる。


「蓮! 装兵が暴走するぞ!

 なぜこんな乱れが起きている!?」


蓮は喉を震わせながら答えた。


「……蒼光の影響です。

 魔導波が乱れすぎて、制御が安定しません!」


(本当は違う……

 俺が“攻撃できないように”細工していた反動だ)


副長は苛立った声で叫ぶ。


「ならば停止させろ!

 迎撃前に暴走など……愚の骨頂だ!」


蓮は歯を噛みしめた。


(止めたら終わりだ……

 装兵を止めたら、今度は影機関が直接動き出す。

 朔夜たちが即座に囲まれる)


だから、止められない。


暴走させるわけにもいかない。


――ギリギリの綱渡り。


蓮は石板の上で複雑な操作を流し込み、

攻撃ベクトルを“空”へ向けてずらす。


装兵たちは一斉に斬撃を振るった。

しかしそれは谷壁へ、あるいは空へ吸い込まれていく。


副長が怪訝そうに蓮を見る。


「……また攻撃が逸れたな。

 蓮、お前、まさか……」


蓮はすぐに冷静な口調を作った。


「霧の屈折率が想定以上です。

 索敵システムの補正をかけます」


副長は納得し切れない表情のまま、

渋々視線をそらした。


(……危なかった)


蓮は大きく息を吐くと、

霧の向こう――谷の入口へと目を向けた。


そこには、確かに“風”が集まってくる。


(朔夜……近い)


風が背中を押す。

幼い頃から変わらない“読み合い”の気配。


(ここまで……来てくれたのか)


胸が痛んだ。

嬉しさと恐怖と後悔が混ざり合う痛みだった。


◆ 夕凪の声


その時だった。


谷の奥――黒鋼地下研究区画から、

蒼光が溢れた。


ズン……ッ!!


蓮は、膝が折れそうになるほどの衝撃を受けた。


(まさか……!)


『…………たす……けて……』


夕凪の声が――

直接、蓮の心に流れ込んできた。


(夕凪!!)


視界が揺れる。

息が苦しい。

指先が震えた。


『……こわい……やだ……お兄……ちゃん……』


蓮は思わず叫びかける。


「夕凪!!」


副長が振り返る。


「蓮? 今なにと話している?」


蓮は舌を噛んで言葉を押し殺す。


「……魔導波のノイズです。気にしないでください」


(ごめん……夕凪

 もう少しだ……必ず助ける)


しかし焦りは限界に達しようとしていた。


夕凪が壊れる前に、

朔夜を導き、

結界に辿り着かせなければならない。


時間は――もうない。


◆ 宗六の“試し”


影のように、宗六が背後に現れた。


「蓮や。

 天城朔夜は……どこまで来た?」


蓮の背中に冷たい汗が流れた。


「……谷の手前まで」


宗六は微笑んだ。

その笑顔は、若い頃の蓮に優しく語った祖父のものとは違う。


「よい。

 では次は、“本当の迎撃”をする番じゃ」


蓮の瞳が揺れる。


「……本当の?」


「攻撃の手を緩めるな。

 全ての装兵に――“殺意”を与えろ」


その瞬間、蓮の心臓が痛むほど跳ねた。


「……っ!」


宗六は蓮の肩を掴み、耳元で囁いた。


「お前が……どちら側の“鍵”か……試させてもらうぞ」


蓮は動けなかった。


(……バレているのか?


 いや――試されているんだ)


蓮の中に、怒りと恐怖と覚悟が同時に燃え上がった。


◆ 朔夜の足音


だがその時――


風が変わった。


ザァァッ!


谷の入口で、

霧が鋭く裂かれた。


蓮は反射的に顔をそちらへ向けた。


(来た……!)


幼馴染の“読み”が、

風を通して胸に飛び込んでくる。


鷹守、伊吹、明朱……

複数の足音。


そして――


(朔夜!)


蓮の目に、涙に似た熱が溢れそうになった。


宗六は不気味に笑った。


「さあ蓮や。

 “天城朔夜”を迎えよ」


蓮は、剣を握りしめた。

その刃は震えている。


(朔夜……

 俺は……お前を殺さない。

 殺させない。

 夕凪も……お前も……絶対に)


そして、蓮は谷の奥へ歩き出した。


これ以上逃げることも、

誤魔化すこともできない。


(次で――

 もう止められない)


谷の風が蒼く燃え上がった。


朔夜と蓮の“再会”まで、

あと数十歩。

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