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『黒鋼ノ戦旗 ― 奪われた未来を取り戻すために』  (裏)  作者: 田舎のおっさん
第二部

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4話 影の尾根 ― 裏切りの読み

黒鋼連邦・境界山脈。

夜の尾根を、黒鋼迎撃部隊が音もなく進んでいた。


蒼光の余波が山脈に残り、

風には微かな鉄の匂いが混ざっている。


蓮は先頭で、仲間の動きを導いていた。

だが彼の目は、仲間ではなく――

“山そのもの”を見ていた。


(朔夜……

 お前はどこを選ぶ?)


視界の先、尾根が二つに割れている。


一つは王道の谷道。黒鋼が仕掛けた罠が多い。

もう一つは細く脆い獣道。黒鋼の迎撃網が“あえて”薄い。


蓮は唇を噛んだ。


(あの薄い道……

 俺がわざと罠を外したルートだ。

 朔夜なら、必ず気付く)


蓮の脳裏に、幼い頃の朔夜が浮かんだ。


雪の坂道。

隠れた足跡。

嘘の痕跡を見抜いて笑った朔夜。


(“蓮、こういう時の道はな――

 人が隠そうとした“意図”で分かるんだよ”)


風が、あの頃と同じ方向から吹いた。


蓮は背後の隊に指示を出した。


「二班、王道側に回れ。

 三班は谷底を抑えろ。

 ……獣道はこちらで監視する」


副長が怪訝そうに眉を寄せた。


「蓮、その獣道は危険だ。

 落石の可能性が高い。避けるべきだ」


蓮は穏やかに答えた。


「だからこそ、敵は通らないと思うでしょう。

 裏をかくのです」


副長は納得したように頷いた。


「……さすがだ。

 宗六様が期待するわけだ」


背筋がまた冷えた。


(宗六……あの人の“期待”なんか、いらない)


だが顔には出さなかった。


◆ 鋼の風、忍び寄る影


部隊が散開したあと、

蓮はひとり、獣道へ向かった。


夜風が蒼く揺れる。

岩肌が鈍く光り、“呼吸”しているようだった。


蓮は岩に手を触れ、目を閉じた。


(……来てる)


胸の奥で、波紋が広がる。


風の音。

地面の振動。

揺れる魔導の糸――


それらが“ひとつの方向”から押し寄せてくる。


(やっぱり……朔夜だ)


共鳴している。


遠く離れていても、心の奥で繋がっている。


“読む”という意識さえ必要ない。

ただ感じるだけで分かる。


幼馴染の呼吸が、山の空気に混じっていた。


蓮は胸を押さえた。


(来い……朔夜。

 ここなら……黒鋼の目は薄い。

 俺がお前を……導ける)


しかし――


その希望を断ち切るように、

背後から鋼の音が響いた。


「蓮」


振り向くと、副長が立っていた。

その背後には、数名の影機関兵。


「……何の用ですか?」


「報告だ。巫女の状態が悪化している」


蓮の心臓が跳ねた。


「――悪化?」


副長は表情ひとつ変えずに言う。


「魔導波が不安定だ。

 移送は夜明けでは遅い。

 ……今夜、中に送る」


蓮は思わず一歩前へ出た。


「そんな……!

 巫女はまだ耐えられない!」


副長の瞳が冷たく光る。


「お前が心配することではない。

 宗六様の命だ」


胸が締め付けられる。


(……夕凪が……)


副長はさらに続ける。


「だからこそ、天城朔夜を確実に足止めしろ。

 奴が来れば、移送が乱れる。

 ……蓮、お前ならできるはずだ」


蓮は言葉を飲み込んだ。


(……足止めなんて、できるわけがない)


夕凪を救うためには、朔夜が来なければならない。

でも黒鋼は朔夜を止めたがっている。


この状況で蓮に残された道は――


(……“裏切り”しかない)


蓮はゆっくりと副長に頷いた。


「……承知しました」


だが胸の奥で叫んでいる。


(朔夜……急いでくれ。

 お前が来なければ……夕凪が……!)


◆ 影風谷へ続く“導きの道”


副長たちが去ったあと、蓮は足元の石を蹴った。

乾いた音が谷に落ちていく。


(時間がない……)


蓮は獣道の入口に立ち、風を読んだ。

朔夜が選ぶであろう瞬間を、

風の中の呼吸から感じ取る。


(もう一度だけ……

 お前の“読み”に寄り添う)


そして、蓮は影機関流の隠密術式を尾根に刻んだ。

朔夜だけが辿れる“薄い道”。


黒鋼の迎撃網から、

わずかに外れた“逃げ道”。


蓮の足元で、岩が蒼く揺れた。


(蓮……)


夕凪の声が遠くで震えた気がした。


「大丈夫だ……」

蓮は空に向かって呟いた。

「朔夜が……来る」


蒼風が吹き抜けた。


迎撃の始まりを告げるように。

裏切りの始まりを祝福するように。


蓮は黒い外套を翻し、

影の中へ溶けていった。


影風谷。

その闇の底で――

読み合いが、ついに交差しようとしていた。

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