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『黒鋼ノ戦旗 ― 奪われた未来を取り戻すために』  (裏)  作者: 田舎のおっさん
第二部

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3話 迎撃準備 ― 黒鋼が放つ影

黒鋼連邦・第七研究区。

内部は、まるで戦時本部のような緊張に包まれていた。


影機関の兵たちが走り回り、

作業員は模造炉の調整に追われている。

蒼光の余波で動き出した《扉》の反応は、今も弱く脈打っていた。


蓮は結界室の前に立ち、夕凪を見つめていた。


少女の胸に宿る蒼光は、不規則に揺れている。

昨日よりも強い。

そして――痛々しいほどに乱れていた。


(夕凪……

 移送されるのが怖いんだな)


手を伸ばしても、結界が隔てて触れることはできない。


その時、背後から声がした。


「蓮。迎撃部隊の編成が終わった」


影機関の副長だ。

無駄のない足取りで近づき、蓮に資料を渡す。


「桜花側の偵察隊は、小規模ながら手強い。

 “読み手”が同行している可能性は高い。

 ……天城朔夜を警戒しろ」


蓮の胸がひりついた。


(朔夜……もう、ここまで来ているのか)


副長は淡々と続ける。


「我々は明日の夜明け、影風谷付近で迎撃を仕掛ける。

 蓮、お前は最前列だ。敵の行動を読んで、導け」


“導け”。

黒鋼にとってこの言葉は、まさに“操れ”という意味。


蓮は視線を落とした。


「了解しました」


表面上は静かに答えたが、胸の中では別の言葉が燃えている。


(朔夜を導くんじゃない。

 黒鋼の罠から“逃がす”方向に導く)


そこへ、さらに別の影機関員が駆け込んできた。


「副長! 巫女の魔導反応が、また上昇しています!」


蓮の心臓が跳ねた。


「夕凪が……?」


影機関員は結界室の計器を指さす。


「予測値を超えます! このままでは……!」


夕凪の胸元の光が揺れる。

苦しそうに肩が震えている。


蓮は思わず結界へ手を伸ばした。


「夕凪……っ!」


副長が冷たく言い放つ。


「やはり移送を前倒しする。

 今日の夜中に、“扉の聖域”へ送る」


蓮の喉が凍りついた。


今日――?


(そんな……!

 朔夜はまだ谷に着いたばかりだ……!

 このままだと……二人がすれ違ってしまう)


夕凪は結界の中で、苦しそうに呼吸している。


(夕凪……待ってろ。

 絶対に……絶対に間に合わせる)


副長の命令が飛ぶ。


「蓮、迎撃部隊の指揮は予定どおりだ。

 巫女移送に近づくものは、全て排除する。

 ――感情を挟むなよ」


蓮はゆっくりと頭を下げた。


「……心得ています」


だが心の中では叫んでいた。


(挟むさ……何度だって。

 俺は“お前らの道具”じゃない)


◆ 黒鋼迎撃部隊、集結


夜が近づくにつれ、黒鋼の迎撃部隊が山脈へ向けて集結していった。


機械化兵、魔導装甲歩兵、暗殺特殊隊――

黒鋼の精鋭のみで構成された小規模部隊。


蓮はその先頭に立っている。


(……この道。

 朔夜なら、どこを選ぶ)


地形、風、遮蔽物。

過去の戦いで朔夜が使った戦術。

読みの癖。


すべて、蓮の脳裏で組み上がっていく。


(鷹守という斥候がいるなら……

 この尾根は避ける。

 明朱という術士がいるなら……

 魔導干渉の強い谷道も避ける)


最後に残った一本の細道を、蓮は指でなぞった。


(……ここだ。

 朔夜なら、ここを通る)


副長が近づき、不気味な笑みを浮かべた。


「さすが蓮だ。

 桜花の読み手を読むのは、お前しかおらん」


蓮は表情を変えずに答える。


「ありがとうございます」


ただし、その頭の中ではまったく違うことを考えていた。


(……朔夜。

 ここだけは……必ず安全にしておく)


副長が去ったあと、蓮は部隊長たちに命じた。


「この道は俺が監視する。他の部隊は別のルートを塞げ。

 これは宗六様の意向でもある」


宗六の名を出すと、誰も逆らえなかった。


(これで……朔夜がここを通る限り、衝突は避けられる)


しかし。


蓮が踵を返そうとした瞬間――

胸元が強く熱を帯びた。


(……夕凪?)


息が止まるほどの痛み。

夕凪の“恐怖”が、蓮に流れ込んでくる。


(ダメだ……時間がない)


蓮は走り出していた。


夕凪が移送される前に、

朔夜を迎撃する“ふり”をして、

安全なルートへ導かなくてはならない。


(朔夜……頼む。

 俺とお前の読みが重なって――

 この道で、会ってくれ)


蒼光の残滓を含んだ夜風が、

蓮の周囲で揺れていた。


迎撃と裏切り。

二つの使命を抱え、

蓮は山脈へと突き進む。

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