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『黒鋼ノ戦旗 ― 奪われた未来を取り戻すために』  (裏)  作者: 田舎のおっさん
第二部

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2話 影の移送 ― 揺れ始める黒鋼

影の移送 ― 揺れ始める黒鋼**


黒鋼連邦・第七研究区は、朝から異様な緊張に包まれていた。


施設を走る兵の足音。

指示を飛ばす影機関の隊長たち。

魔導炉の脈動音が、いつもより高く響いている。


結界室前に立つ蓮は、その空気の中に微かに混じる“違和感”を感じ取っていた。


(……何かが変わり始めている)


夕凪の胸の光は、昨夜の蒼光よりは弱いが、依然として脈を打っている。

その光が、時折、蓮の胸の奥にも刺すように反応する。


まるで、


「近づいている……?」


言葉にした瞬間、結界の外気が揺れた。


蒼光の残響が、確かに“こちら”へ向けて流れている。


(まさか……朔夜が?)


思ったと同時に、背後の扉が開いた。


「蓮、来てくれ」


影機関・副長の冷たい声。

蓮は結界室を振り返り、夕凪に心の中で囁いた。


(……必ず、迎えに来る。

 朔夜も、きっと来ている)


そして歩き出した。


◆ 黒鋼第七研究区・会議室


部屋の中には影機関の幹部が十名ほど揃っていた。

緊張の渦の中で、蓮は宗六を探したが、姿はない。


(……あの人は、こういうときほど出てこない)


副長が資料を広げる。


「“巫女”夕凪の移送準備は整った。

 今夜、黒鋼本土の深層区画、《扉の聖域》へ移す。

 蓮、お前は護送の中心だ」


蓮の胸が痛む。


(聖域……!?

 そこはもう、夕凪が戻って来られない場所だ)


副長は続ける。


「巫女の覚醒に伴い、《扉》の反応が上昇している。

 しかし問題がある。

 桜花側に“不自然な動き”が出た」


蓮の心臓が跳ねた。


「不自然……?」


資料の地図には、帝都西方から山岳地帯へ向かう“細い点線”が描かれていた。


「桜花帝国が小規模の部隊を派遣した。

 軍団ではない。偵察隊だ。

 人数も少なく、風景に溶け込むように動いている。

 だが――」


副長は蓮を見た。


「これは、お前が前に言っていた“桜花の読み手”……

 天城朔夜の行動とみていいだろう」


蓮は喉が乾いたような感覚を覚えた。


(……朔夜。

 本当に……来てるのか)


その瞬間、胸元が熱くなった。


夕凪ではない。

蓮自身の中に、朔夜を感じる。


(……声じゃない。

 気配でもない。

 これは……“呼応”だ)


蓮は理解した。


三人は遠く離れていても、蒼光以降、心が共鳴し始めている。


だから――朔夜の動きが、呼吸のように分かる。


副長が言う。


「朔夜は危険だ。

 お前の動向を読める唯一の存在でもある。

 迎撃の必要がある」


「迎撃……?」


蓮の眉が動く。

副長は平然と言った。


「殺す必要はない。

 ただし、巫女の移送に近づけるわけにはいかん。

 “揺らせ”ばいい。

 以前のお前がしたように」


宗六の言葉が頭をよぎった。


(――“兄を揺らせ。揺らせば揺らすほど扉は動く”)


蓮の歯が、ぎり、と鳴った。


(……俺が揺らしたんじゃない。

 朔夜は、俺を見ただけで……

 胸を裂かれるように痛んでいたんだ)


もう二度と、そんな思いをさせたくない。


蓮は口を開いた。


「副長。

 迎撃なら……俺が行きます」


会議室が静まった。


「黒鋼最速の“読み手”である俺が行った方が確実です。

 桜花の奇襲にも、朔夜の読みにも対応できる」


副長は目を細くした。


「……宗六様から“お前を好きに使え”と言われている。

 ならば任せるが――」


蓮を射抜くような視線。


「裏切るなよ、蓮。

 巫女も、お前も、黒鋼の未来のためにある」


蓮は笑わなかった。


ただ静かに頭を下げた。


「承知しました」


だが、その胸の奥では別の言葉が燃えていた。


(裏切る気しか、ない)


◆ 会議室を出たあと


暗い廊下を歩きながら、蓮は立ち止まった。


結界室の方角に、微かな蒼光の気配。

夕凪が、不安に震えている。


そして――

山岳方面から、風が吹いた。


蒼風。


(……朔夜)


蓮の胸の奥が震える。


(来い。

 お前が来るなら――

 俺はその行軍を止める“ふり”をして、阻害する。

 黒鋼に悟られずに、道を開けることができる)


蓮は拳を握った。


(宗六、お前には従わない。

 朔夜、夕凪……

 俺が二人の道を切り開く)


暗闇の奥、蒼く揺れる結界が微かに脈を打った。


蓮は静かに歩き出した。

影機関最精鋭の迎撃部隊を率いるために。


表では朔夜が動き、

裏では蓮が動く。


二つの“読み”が、

再び、戦場で激突しようとしていた。

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