第十二話 巫女の覚醒 ― 蒼い脈動、割れる世界
黒鋼連邦・第七研究区。
その地下最深部は、
今日ほど強く“脈動”したことがなかった。
――ドゥン……ドゥン……ドゥン……
壁という壁が微かに震え、
蒸気管の灯りが一斉に明滅する。
「……ッ、これは……!」
研究員たちが慌てふためく中、
蓮は夕凪の収容区画へ駆け込んだ。
胸が潰れそうだった。
(夕凪……!
昨日の戦場のあの蒼い光……
まさか……こんなにも……!)
結界室の中。
夕凪は膝を抱え込むように座り、
その身から――
淡い蒼光が漏れ出ていた。
「ゆ、夕凪!!」
蓮が結界の前に飛びついた瞬間、
その光が脈打って彼を弾く。
「くっ……!」
夕凪は苦しげに顔を上げた。
瞳には涙が浮かび、
その奥で“何か”がゆっくり目覚めていた。
「……蓮……兄さん……どこ……
兄さん……呼んでる……」
蓮の心臓が刺されたように痛んだ。
(夕凪……!
兄さんを……感じているのか……?
朔夜の心と、夕凪の力が……繋がり始めている……!)
突然、結界室の最奥の石盤が
強烈な蒼光を放ち始める。
蓮は思わず叫んだ。
「夕凪! そこから離れて!!」
「いや……行かなきゃ……
だって……兄さんが……!」
蓮は結界に手を叩きつける。
「ダメだ!! そこに触れたら――!」
だが夕凪の小さな手は
蒼い石盤へと伸びてしまった。
――触れた瞬間。
世界が、揺れた。
蒼光が爆ぜ、夕凪の体を包み込む。
「……ッ!! 夕凪!!」
蓮が結界にしがみついたその時、
背後で足音が響いた。
「始まったな」
宗六だった。
老人だというのに足取りは軽く、
その瞳は光を浴びて狂気すら含んでいた。
「これが……《扉》の胎動……!
蓮よ、見ておけ。
この光こそ“世界が変わる始まり”だ」
蓮は怒りに震えた。
「宗六様!!
夕凪が苦しんでいる!!
止めてください!!」
「止める?
これは“祝福”じゃ。
夕凪の力が真に目覚める瞬間だ」
宗六は薄く笑う。
「兄の心、
弟子の揺らぎ、
そして巫女の願い――
三つの心が呼び合った。
これこそ《扉》が求める“鍵”よ」
蓮は叫ぶ。
「夕凪は道具じゃない!!」
宗六は哀れむような声を出した。
「蓮よ……
夕凪を道具にしておるのは“黒鋼”ではない。
この世界の方だ。
力なき者が潰される……
そんな愚かな世界を壊すためにこそ、
夕凪の力が必要なのだ」
(違う……違う……!!
夕凪は……夕凪は……ただ家族を……!)
蒼光が収束し――
夕凪の目が静かに開いた。
その瞳は、
かつての柔らかい色ではなかった。
淡く、蒼い。
《扉》の力に“触れてしまった者”の瞳だった。
だが夕凪は、微笑んだ。
「……兄さん……
迎えに来てくれる……
わたし……分かるよ……」
蓮の胸に激痛が走る。
(夕凪……!!
朔夜を……感じているんだ……
本当は……会いたいだけなのに……
どうしてこんな……!!)
宗六が静かに告げた。
「蓮。
巫女は目覚めた。
次の戦場で“兄妹の再会”が起こる。
だがそこに“隙”が生まれる。
それを我らが掴むのだ」
蓮はゆっくり振り返った。
その目には、怒りでも憎しみでもなく――
深い哀しみと覚悟が混じっていた。
「……宗六様。
僕に、兄妹を利用しろと言うのですか」
「利用ではない。
導くのだ。
正しい未来へと」
蓮の喉が震えた。
(こんな未来……望んでない……
でも……夕凪を……朔夜を……
守るには……!!)
蓮は深く頭を下げた。
「……任務、承知しました。
次の戦場……
僕が、必ず“揺らします”」
宗六は満足げに頷いた。
「良い。
それでこそ、黒鋼の刃向蓮よ」
夕凪の蒼い瞳が、
霧の向こうの空を見つめる。
「兄さん……
私……行くね……
あなたのところへ……」
蒼光が、
地下の闇を裂いた。
それは、
世界が壊れる“前兆”だった。
読んでくださって、ありがとうごさいます。
こちらは黒鋼連邦から見た“裏の戦場”。
蓮の揺れる正義や、黒鋼の影の動きまで追っていただけて嬉しい限りです。
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これからも蓮の選ぶ未来と、黒鋼連邦の闇を
一緒に追いかけてもらえたら嬉しいです。
次の更新でまたお会いしましょう。




