第5部 第10話(裏)
――締めが効く
黒鋼は、報告を一つずつ切っていた。
「前線、停滞」
「敵側、前進なし」
「残存中立、動きなし」
◇
「……効いてきたな」
副官が頷く。
「はい。
双方、
動けなくなっています」
◇
黒鋼は、地図を見ない。
見る必要がない段階だ。
◇
「止まると、
必ず崩れが出る」
黒鋼は淡々と言う。
「前からじゃない。
内側からだ」
◇
副官が、慎重に問う。
「前列ですか」
「違う」
黒鋼は即答した。
「後ろだ」
◇
「前に立つ者は、
覚悟して立っている」
「崩れるのは、
覚悟を借りている者だ」
◇
黒鋼は命じる。
「補給を、
さらに絞れ」
「一気にじゃない。
段階的に」
◇
「逃げ道は?」
「残すな」
即答だった。
「逃げられると思うから、
耐えない」
◇
副官が息を吸う。
「……桜花側に、
負担が行きます」
「行く」
黒鋼は否定しない。
「だから、
前と後ろで分けている」
◇
黒鋼は、最後に言った。
「止まる線は、
必ず音を立てる」
「その音が聞こえたら、
一つ、終わる」
◇
夜が近づく。
前線は、
まだ動かない。
だが、
締めは確実に効いている。
崩れは、
もう時間の問題だった。




