第5部 第7話(裏)
――選ばされた者たち
黒鋼は、撤退する中立勢力の背を、
遠くから眺めていた。
「……残ったな」
副官が、短く答える。
「はい。
全員は逃げ切れていません」
「それでいい」
黒鋼の声は、静かだった。
◇
黒鋼は、知っている。
戦で本当に厄介なのは、
倒れた敵でも、
逃げた敵でもない。
残った者だ。
◇
残った者たちは、
自分で選んだと思っている。
だが実際は、
選ばされたに過ぎない。
踏み越え、
逃げ遅れ、
判断を誤った結果だ。
◇
黒鋼は、地図を見下ろす。
「桜花は、
残った者を抱える」
それは、
優しさではない。
責任を背負うという選択だ。
◇
副官が、慎重に問う。
「……我々は?」
「こちらは、
抱えない」
黒鋼は、即答した。
「使う」
冷たい言葉だが、
感情はない。
◇
黒鋼は、命じた。
「残った者の名を洗え。
誰が、
どこで、
何を守ろうとして残ったか」
副官が、目を細める。
「利用する、ということですね」
「違う」
黒鋼は、淡々と続ける。
「位置を決める」
◇
戦が終われば、
世界は再編される。
勝者と敗者だけでなく、
従う者、離れる者、
居場所を失う者が生まれる。
◇
黒鋼は、前を見据えた。
「第5部は、
戦で勝つ章じゃない」
声は低い。
「世界を並べ替える章だ」
◇
残った者たちは、
もう戻れない。
そして、
桜花も、黒鋼も、
それぞれ違う形で、
その重さを背負う。
戦は、
次の段階へ入った。
誰が前に立ち、
誰が後ろに回るのか。
それを決める戦が、
静かに始まっていた。




