第5部 第5話(裏)
――踏み越えさせた者
黒鋼は、高地から陣を見下ろしていた。
動いたのは、中立勢力の方だ。
「……越えたな」
副官が、短く頷く。
「はい。
中立勢力、先に接触。
桜花将、応戦しています」
「それでいい」
黒鋼の声は、冷静だった。
◇
中立を壊すのは、力ではない。
越えさせることだ。
桜花が線を引き、
黒鋼が退路を絞り、
向こうが焦って動く。
設計通りだ。
◇
黒鋼は、剣を抜いた。
桜花が前で受けている。
だから、自分は――
「今だ」
短い命令。
◇
別働隊が、側面に回る。
逃げ道を完全には潰さない。
だが、戻れない形を作る。
「踏み越えた者は、
引き返せない」
それを、身体で教える。
◇
黒鋼は、淡々と言った。
「桜花は、
止めるために剣を振った」
だから、
こちらは――
「終わらせるために、
囲う」
◇
中立勢力の陣に、混乱が走る。
命令が二重に飛び、
隊列が裂ける。
中立は、
もはやどこにもない。
◇
黒鋼は、視線を前に戻す。
「第5部の戦は、
こうなる」
踏み越えた者が、
責任を背負う。
踏み越えさせた者が、
戦を終わらせる。
◇
黒鋼は、剣を構え直した。
まだ、前に出ない。
出る必要はない。
分かりやすい勝負は、
分かりやすく終わらせる。
それが、第5部だ。




