藤のある庭 3
翠はそれからもたびたび欠席した。
まるで学校とは何かの合間に来る、暇つぶしをするための場所だとでも思っているような感じで、ひょいと現われては私たちの日常での歯車の噛み合いを狂わせる。
それが表面を華やかに見せる美のせいだけではないと気付いたのはいつのことか……。
翠はよく、突然思い立ったように私の席を顧みては、私に話しかけてきていた。
それがまた時と場合を見ず、窓際とはいえ最前列であるというのに一向に悪びれたふうでもない。
ところが私は元来小心な臆病者であるくせに妙なところで姑息で、いつも皆からはみ出してはいないかとびくびく気にするたちであったために、そんな、豪胆な翠のふてぶてしさを感心するどころか、それにより私まで叱責を受けるということが怖く、話など早く打ち切ってしまいたくてたまらなかった。
だから、もっぱら翠からの言葉を聞くだけで、適当に相槌を打つこともせずに私はただ黙して聞く以外何も返さないでいた。
それが翠の気に召したようだったのは間違いない。
そして話の内容はといえば、それは今言うことかと疑問に思うような、実にくだらないものから哲学的なものまでさまざまだった。
そしてこれは私の記憶する、まるで写真のように鮮明な翠の遠影のひとつとしてあるのだが、あるとき、同じように気まぐれに振り返った翠が、こんなことを切り出した。
「法とは一体何のために存在しなければならないのだろうね?
ああ、いや、きみの答えは分かっているよ。
人という見栄っ張りで自賛美好きな、それでいて無駄に年月を過ごしてきたと公言しているも同然の幼稚な詭弁ばかりを振りかざすようなやからが徒党を組み、集団で過ごすための規律、場の秩序を守り、安心を得るためだとでも言いたいんだろう?
でも、それならなぜそれは個人の私生活まで束縛しようとするんだろうね。
たとえ僕やきみが何を考え、何をしようとも、それが集団――あるいはほかの個人の者になんら害意を与えなければ、それはそれで許されるのではないのかい?
っと、これは表現がまずいかな。
でも、違う? なぜひとは、他の者にまで干渉し得る権利として、あるいは義務とお仕着せて、当然顔をしてずかずかと他人の中へ土足で踏み込むのか。それを当然と思い込めるのか。
滑稽にも」
翠はそこで言葉を止めると、頬杖をして自らの思いにふけった。
そしておもむろに窓の向こうへと飛ばしていた視線を前に戻し、そこに私がいるということをあらためて認識したように目をしぱたかせる。
「和明。
僕はね、もうじき死ぬよ。
きっとね」
翠は、あのとき何を言いたかったのか……そのことに対し、私は、大した嘘だなと、心の中で考え、苦笑を返した。
あまりにさらりと口にしたそれが、到底本当のこととは思えず――それでいて、実はそれは冗談などではなく、ふと翠が見せた弱さ、本心であるかのような不安も感じていなかったわけではなかったのだが、そういったものは取るに足らないことと隅へ追いやって、ふざけた気持ちを浮かべていた。
翠への侮辱、嘲りのように。




