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藤のある庭  作者: 46(shiro)


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10/10

藤のある庭 10

 私には、翠を救うことができなかった。

 姉である華椰さんを愛していた翠。

 弟である翠を愛していた華椰さん。


 はたして翠が、庭の蔓薔薇の棘を抜いていたのだろうか? 崋椰さんのために。


 異様なまでに手入れの行き届いた、膨大な数の薔薇だった。

 そして、その身に群がる数千の棘。

 摘み取るその手を傷つけないようにと、一体翠はどんな思いで削いでいたのだろうか……。


 どんなささいなことで壊れるかも分からない、恐ろしい愛し方だった。

 終わりの見えた、恐怖。

 行き着く先のない、閉鎖された想い。


 そんな翠の愛がどうして歪んだ愚かさだと言えるだろうか。なぜ私たちの信じる常識がすべてなのだと確信できる?

 それが正しいと、どうして……。




 翌朝。


 私は翠の元へは行かなかった。

 そこにはもう翠はいないのだと、漠然と感じ取っていた。


 あの日、あの嵐の夜に、翠の愛した華椰さんは逝ってしまった。

 あのとき、その持てる精一杯の愛で翠を抱き締め、そして永遠にこの世から去っていったのだ。


 翠はいない。

 もう、きっと、どこにも。


 華椰さんのいない世界など、翠には何の価値も見出せないものでしかないのだから、翠にとどまることなどできるわけがない。


 のちに、親族のだれかの通報によって、駆けつけた警察の者があの屋敷で眠るように寄り添った2つの遺体を見付けたということを伝聞として聞いたけれど、私は、確認にも行かなかった。


 あれは、翠ではない。

 翠はいない。

 そしてあの庭も、ただの藤の庭でしかなくなっている。


 もうどこにも存在しないのだ。

 あの空間は。

 わずかに狂った、乱れた空間。


 時間すらも押し黙る孤高さで、彼らのみが確立している世界だった。

 まどろむ、かすかに酔いしれるがごとく、こことは違う世界……。


 翠も華椰さんもいない今、だれがそれをとどめられるだろうか。


 私は決してあの庭になど行かない。

 翠はもう、どこにもいないのだ。






【藤のある庭 了】

ここまでご読了いただきまして、ありがとうございました。


これは1988年、わたしが10代のときに書いた小説です。

たしか、改訂版を何かに載せたような記憶がかすかにあるのですが……思い出せず。


元の文章はあまりに稚拙すぎたため、このままでは公開できないと思い、ところどころ文字を修正しましたが、それでも8割はそのままです。


昭和の小説です。

ご笑覧いただけたら幸いです。

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