第五話
冷たい、雨だった。
風が、雨を連れてきた。
わたしはグレンチェックのチェスターコートをびしょびしょに濡らして、ようやく自分の部屋へとたどり着いた。
時計を見る。
午前四時。
わたしはコートを椅子にかけ、本当に棒が倒れるようにベッドへと沈んだ。
顔の化粧はもう、ほとんど落ちている。鼻をスンスン鳴らした。自分が泣いている、という事実がさらに涙を呼びこみ、やがて視界は薄らとした透明の膜に覆われていった。
わたしは昨日、合コンで、お持ち帰りをされた。
もちろん調子に乗っていた自分が一番悪い。
だけど気づいたら、お酒をたんまりと飲まされて、強引に手を引っ張られてホテルへと入り、「ごめん。こういうの、だめだよ」と言ったところで相手の男にこう言われた。
「うざいわ」
名前は……たしか、リクくんとかいったかな。たぶんそうだった。
リクくんは合コンの間、色んなアルバイトをしているって話してくれた。男の子にも女の子にも優しくて、みんなのお酒を注いだりしてくれた。いい人だな、って思った。
わたしがリクくんを拒否してから、リクくんはわたしに背中を向けたまま、ただのひとことも喋ってくれなくなった。どうしていいのか迷うこと三十分。緊張の静寂は、リクくんがホテルの部屋を出ていく音で破られた。
わたしはホテルにお金を払った。一万二千円。
電車は走っていなくて、タクシーに乗った。八千円。
合計二万円を失った悲しみの百倍くらい、わたしの中でなにものかの感情が暴れた。マクラを殴る。ヘッドボードに置いてあるミニカレンダーを投げ落とす。どうしてわたしはわたしに生まれて、こんな屈辱を味わわなければならなかったのか。
電気を落とす。窓硝子に、雨粒がへばりつきながら流れていく。
わたしは待ち遠しかった。
あの手紙を、心の奥で待っていた。
見もしない誰でもいいから、わたしの昨晩について、意味づけをしてほしかった。




