第一話
OP theme:A LETTER(by Aimer)
URL:https://www.youtube.com/watch?v=tqJtDcW-ju8
その奇妙な宅配物が届いたのは、梅雨明けまでもう少しといったくらいの、七月の午下の時だった。
「桐原美紗子さん宛て、で間違いありませんか?」
郵便屋さんもわたしの顔を見て、そう訊いたくらいだ。
わたしは冷凍室くらいの大きさのダンボール箱を、部屋の中へ運ぶ。六畳のワンルームマンション。それでも片づけは定期的にやっているものだから、ダンボールを置くスペースには困らなかった。
「わたしから……?」
弱って、頭を掻く。
その配達証明には、こう書かれていたんだ。
差出人 桐原美紗子
宛先 桐原美紗子
差出人、宛先ともに記載された住所は、このマンション。旅行先から自分に荷物を送ったりすることはあるけれど、今回に関してはまったく覚えがない。
ガムテームをぺりりと破って封を開ける。
中はほとんどが空洞で、一枚の手紙が底に貼りついているだけだった。
『桐原美紗子さんへ』
どう考えても他人の仕業だ。自分に当てた小包なら、こんな手紙は同封しない。
手紙を開けると、そこにはけっこうな達筆で短い文章がしたためられていた。
『肺炎にかかったことを後悔しているのでしょう。
だけど治った。これがまず、よかったことです。
もう治った病気のことを、いつまでも引きずっていてはいけませんよ』
はて。
まず考えたのは、家族からの手紙じゃないか、ということだった。文章の書き方はおかしいけど、わたしが肺炎になったことを知っていて、なおかつ心配してくれるのは家族くらいしかいない。
そこで500キロほど西にある実家に電話をかけてみた。でも、そんな手紙を書いた覚えはないそう。しかも、「ストーカーに注意しなさい」ときたもんだ。ふむ、と唸る。
だとしたら……まだいくつか可能性は残されているけれど、そこに『ストーカー』という選択肢を加えて考える必要がある。……自意識過剰かな。
ただ、用心するに越したことはない。
わたしは手紙をびりびりに破って、ごみ箱に投げ捨てた。
窓を閉め、施錠を確認し、カーテンを閉める。
薄い南風の香りはすぐに、エアコンのかびた匂いへと変わった。




