FILE No.3「猿夢」PART4
すいません。書き溜めた分がいくらか出来たので投稿します。長くなりましたが、これを含めて後2回投稿したらこの話は完結します。見てくださってる方ありがとうございます。
2人と別れた木庵はある用事を済まし携帯を取り出すと、1人の人物に電話をかけだした。
4コールで相手が電話に出る。
『お疲れ様です木庵さん。どうされました?』
「白石、次の指令こっちでやるから詳細教えてくれ」
『え、中央の祓い屋の方達に詳細をPCと携帯の両方にメールしたのですがご覧になってませんか?』
「何?もっと早くに連絡してくれよ」
『いえ、2日前には連絡をしているのですが…』
「…細かいとこは置いといて、とりあえず俺がこの案件担当するから。
後、俺が使いそうなアレあるか?」
『えぇ、一応色々な方達に要望に対応出来るようある程度は準備してます』
「助かる。ならもう用はねぇ。じゃあな」
『え、あっちょ木a』
一方的にそう告げると白石の返事を待たずに木庵は電話を切った。
自分の都合極まりない態度だが、昔からこうなので言っても無駄である事を知っている中央の人間達は慣れっ子だった。
木庵は携帯のメールの受信BOXを確認する。
「(確かにメール来てるな…)」
[都内の女子大生が殺害された事件について]
[ お疲れ様です。営業の白石です。]
[◯月◯日水曜日、被害者宅からの騒音の苦情を言う為に第一発見者の大家と隣人が部屋内にて被害者が殺害されているのを発見。その後、警察に通報。遺体は下半身の損傷が激しく何かで擦り潰されていた模様。残穢と現場状況から術式を行使する怪異と思われる。術式の詳細については確定ではないが術式効果は恐らく精神に干渉、またはそれに準ずるものと思われる。
霊視と現地調査の結果、被害者の乗っていた電車に怪異の術式発動の引金があると思われるが、術式発動条件までは不明。現地にて確認するしかないのが現状である。鉄道会社には該当車両のメンテナンス及び部品交換の理由で現在運行を中止し、車庫にて管理。今回は上記の名目にて怪異を祓うものとする。また、本案件は怪異の術式の詳細が不明な為、中級以上が望ましい。
皆さん、よろしくお願い致します。]
「(とりあえず業者用の社員証探すか…いや、新しいの貰う方が早いな。篠山の分もいるし)」
木庵は散らかっている自室から探し物をする事を考えただけで面倒になったので怜のダミー会社用の社員証も貰いに行く必要もあり、営業課に向けて歩き出した。
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「つーかあのアホ何してんの、もう1時間も経ってるし」
「確かに中々戻ってこないですよね」
怜と由香の2人は部屋で中々戻ってこない木庵を待っていた。
痺れを切らした由香が電話しようとしたら時だった。
「わりーわりー待たせたな。いるモン用意してたら時間かかった」
ドアが開かれ当の本人が帰ってきた。そして部屋に入るなり、タバコを吸いながらソファーに座り込む。
「おっせーよ。時間かかるなら早く言えっつーの」
「仕方ねぇだろ、篠山のダミー用の社員証貰いに行ってたんだから」
「ダミー用?」
「そーそー、だから遅くなったんだよ。おい、篠山コレ」
由香の文句を流しつつ、木庵は怜に紐が付いたプラカードを投げる。
「何ですかコレ?」
「業者用の社員証。お前未成年だけど中卒で働く人間はいるし大丈夫だろ。そんで俺達は基本存在しない組織に属してる。ある時は警察、ある時は役所の人間ってな感じでその場に応じた身分を名乗る。なんでだか分かるか?」
「えっと、分からないです」
「私達は所属不明の怪異の専門家でーすって大っぴらに言えないから、怪しまれないようにするのにこうした手順踏む訳よ」
「大体、そんな感じだな。一応補足すると警察と自衛隊、政府と一部の協力者は怪異の存在を認知してるが公には絶対してない。怪異による死亡事故は全て通常の事故扱いで片付けるのが昔からのルールだ」
木庵が言うように[中央]だけでなく各地にある対怪異の組織の発端は平安時代ではあるが、堂々と怪異を祓っていた時代は時を経るにつれ細分化し、人々が怪異の存在を忘れ始めるも怪異の脅威は止まる事を知らずになっていった結果、対策機関は怪異の存在を秘匿にした。
そうして秘密裏に陰から怪異を祓ってきた。長年怪異の存在を秘匿にし続けた今日、無闇に存在を国民のパニックを避ける為、公表すべきでないとなった。
そこで対策機関は政府と提携し、各機関と協力体制を取る事にした。
そのお陰でスムーズに怪異を祓えるようになり、祓う際に警察を動かし周辺の封鎖や人払いが出来るようになったからだ。
だが、問題もあった。いくら怪異の存在に箝口令を敷いても末端の人間までは止める事は出来ずに存在が漏洩した事もあったが、その際見せしめとして秘密裏に機関によって処理された。この経緯があった為、今では存在を認知しても誰一人怪異の事を話す関係者はいなくなった。
「なるほど…そんな経緯があったんですね」
「必要に応じて、他所の身分名乗るならまた色々用意してやる。今日はそれ持ってろ」
怜は渡された社員証を眺めながらそう答える。社名は[OO電鉄中央営業所(株)]と書かれていた。
「下に車を回してある。行くぞ」
「さーてサクッと終わらせますかね」
タバコを吸い終えた木庵は火を消すとその行動を合図に3人は部屋を後にした。
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「今日お世話になるハイエース君だ。中に必要なモンは詰めてある。あ、そうだ。これ着とけ」
そう言って木庵は目の前の白いハイエースの中から作業着の上着を2人に投げる。由香は慣れた様子で上着を羽織る。怜もそれに続く。
「(見た目はただのハイエースだけどこれも祓い屋的な何かがあるのかな…アレ?見間違いかなさっきのもしかして…)」
車に乗り込んだ怜は車内を見渡した。見た目はなんの変哲もないただの車。後部座席部分には工具や道具が積み込まれているが、怜は隅の方に隠されてはいたがホルスターに納められていた銃を見つけてしまいやっぱりただの車ではないと再認識した。
車のエンジンをかけた木庵はタバコに火を付け、走り出した。
そのまま車で走る事15分、目的地の鉄道会社に着いたのか木庵は車を止めた。
「おい、着いたぞ。手続きするからついてこい」
車を降りた木庵達は中に入る手続きをする為、入り口に向かって歩いて行く。
「すいませーん、お世話になってますー[OO電鉄中央営業所]のモンです。本日、車両の部品交換で伺ったのですが担当の志村さんはおられますかー?」
「あ、志村ですね。社内にいますので少々お待ちください」
受付の事務員はチラッと3人を見渡す。気怠いオーラ全開の木庵はともかく、紫と白のツートンカラーの由香に未成年の怜を見て訝しげな表情をするが最近は多様性だからそういうものなんだろうと思い担当を呼び出した。
「間もなく来ますのでお掛けになってお待ちください」
「スンマセン、お手数かけますー」
言われたように3人は受付近くの椅子に座って待つ事にした。
「…なんかアレですね違和感が凄いというか、木庵さんでもマシな話し方出来るんだなと」
「分かるわー、普段の態度見てるとマトモな対応1番しそうにないから余計に違和感が凄い」
「うるせぇ黙ってろ」
一連の様子を見ていた怜は内心思っていた事を漏らす。
「コイツがマトモな対応するのこういう時か本部長と後は…」
「おい、俺の事はいいんだよ」
「お待たせしました、志村です」
「あ、どうもーOO電鉄の木庵です。本日はよろしくお願いしますー」
木庵と由香が睨み合っていると、担当の志村という人物が来た。
声をかけられた木庵は立ち上がり挨拶をする。
木庵の畏まる姿を見て2人は笑いそうになる。木庵もそんな2人の状態を分かってるのか、志村に見えないように後ろで中指を立てた。
「本日は車両のメンテナンスと部品交換と伺っているのですがなにか問題がありましたでしょうか?」
「使用している部品が経年劣化しやすいんですよ。普段メンテされてる会社さんも言ってたと思うんですが、ちょっと今回は予定が合わないいう事で我々が担当させていただきますんで」
「分かりました、それではこちらで書類作成をして頂きますのでご案内します」
志村は先程の事務員と同じようにちょっと浮き気味というか大分浮いてる由香と怜をチラッと横目で見た。
一通りの作成を終えた木庵達は会社を後にし、車に向けて歩き出した。
「由香、うんお前やっぱり浮くわ」
「うるせぇ黙ってろ。私はこの髪色が好きなんだよ」
「はいはい、分かった分かった」
「(あ、やっぱり由香さんイライラしてたんだ)」
由香は自分の好きな髪色が世間では浮くと視線を通して感じていた為、段々イライラしだていた。それでも周りに不機嫌オーラを振り撒かず木庵だけに突っ掛かるのも木庵が気にせずスルーするからだった。
「まぁまあ、タバコでも吸って落ち着けよ」
「アンタが吸いたいだけだろーが。怜ちゃんいるし私はやめとく」
「いいのかぁ?そんな事言って?次いつ吸えるか分からないのにー?」
「あ?」
由香の顔に青筋が浮かび上がる。
「あああああやっぱりタバコ最高だな」
木庵はしみじみとした表情でこれ見よがしにタバコの煙を思いっ切り吐き出す。その表情を見て、由香の顔に更に青筋が浮かび上がった。
「あの由香さん、私の事は気にせずに吸っちゃってください」
その光景を見ていた怜はなんだか由香が可哀想になり、一言告げた。
「由香ちゃんは優しいねぇ…そして木庵テメーはマジでクソ」
その一言を聞いた由香は怜が微笑みの天使に見え、車の反対側にバッと周り、やがてタバコに火を付ける音の後静かになった。
わざわざ少しでも離れてタバコを吸いに行ったのは由香の最後の良心が働いたのだろうと思いたい。
そして、怜は悟った。
「(由香さんはストレス耐性が木庵さんより高いけど限界が来たらドカンとなる人なんだなぁ…)」
「アイツも素直に今、わたしめっちゃイライラしてるからタバコ吸いたーい♡って言えば可愛げがあるのになぁ」
木庵はニヤニヤしながらタバコの煙を吐き出していたら、反対側から車をドン!と叩かれた。
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3人を乗せた車はゲートを抜け、車両の横に付けた。
「おっしゃ、やるか」
車から降りた木庵は車両に人払いの効果がある札を事件の原因となった車両に貼り付けた。
「篠山、今のは人払い用の札だ。これで何かあっても誰にも気付かれる事はない。理由は分かるな?」
「銃声とかがしてもいいようにですか?」
「ビンゴ、篠山怜に5pt」
ここに来る前に車内に銃があったのでもしやと思ったらまさかの正解に怜はなんでかちょっと嬉しくなった。
そして何故か木庵が突然のptを言い出したので気になった怜は尋ねた。
「ちなみにptって言ってたけど貯まったら何かあるんですか?」
「いや、なにもねーけど」
「あ…そーですか…」
「コイツのノリを本気にしてたら疲れるだけだからスルーも大事だよー」
怜はなんだかアホらしくなり、木庵に聞いたのが間違いだったと悟る。
「おい由香、そういや鉄火場のオッサンから預かってるの忘れてた」
「? 預かり物ォ?」
「愛しのライフルちゃんじゃーん!整備から帰ってきたんだねぇお帰りちゃんとメンテしてもらってきた?前より綺麗になってるねぇ」
車内に武器一式を運び込むと木庵は由香に布に包まれた筒のような物を渡した。由香は布を取り払うと目を輝かせながら"ソレ"を愛おしそうに抱える。
「お前の無茶な扱いにも耐えれる用にはある程度は調整してあるが、銃剣は最終手段にしとけよ。前みたく頻繁に使ってるとすぐガタがくるぞ…って話聞いてる?」
木庵の注意も知らん顔で由香は愛用のライフルを手に取り、自分の世界に入ってしまった。
「…まぁ、このバカは放置しといて話を進めるぞ。篠山、まずおさらいだ」
そう言うと木庵は今回の案件の要点を怜に説明する。
ある被害者が怪異に殺害された。怪異は術式を使うタイプで術式の詳細不明。
調査の結果、被害者が乗っていた電車に術式発動の引き金があるのでは?と目星を付けたがあくまで推測の域を出ず、術式を行使する怪異な為中級以上が望ましいと判断されたので、中級の祓い屋である木庵が本件を担当する事になった。
説明するのが面倒な木庵だったがそれらの要点を可能な限り簡潔に怜に話した。
「なるほど…それで今回の仕事を私の研修も兼ねて来たんですね」
「そういう事だ。可能な限り俺と由香でカバーもするし守ってやるが、この仕事に絶対なんて言葉はねぇからな。油断すると簡単に死んじまう。今回お前は怪異を祓わなくてもいい。とりあえず慣れろ。そんで死ぬな。それさえ実践してくれたらいい」
相変わらず無表情の木庵だが、言葉には強く想いが込められていた。
それを聞いた怜はゆっくりとだが、しっかりと頷いた。
「じゃあ篠山、最初の仕事だ。お前は銃に弾込めろ。やり方は覚えてるか?」
「まだ覚えてます」
「じゃ、任せた」
そう言うと木庵は大きめのケースから銃火器を何丁か取り出し、怜の前に置いていく。
「それぞれ、拳銃に散弾銃がメインだ。他の銃火器もあるが触るのはまたの機会だ」
「これ以外にも色々使うんですね」
「怪異を祓う為ならなんでも使うからな」
怜は木庵に言われた通り、銃に弾を込めだす。手付きはまだまだ拙いが、特に何も言わずいつまでもライフルと自分の世界に入っている由香のわき腹を強めに突く。
「いつまでやってんだバカ。こっち来い」
「いってーな、はいはい分かってる分かってる。待っててねーライフルちゃんすぐ出番来るからねー」
由香は名残惜しそうにライフルを撫でるが、漸くスイッチを切り替える。
「で?術式使う怪異らしいけど発動条件は分かってんの?」
「いや、全く不明だが俺流でやる」
「つまりいつものゴリ押しって事ね」
今回の祓いのネックとなっているのは怪異の術式の発動条件だ。怪異が憑いていると思われる該当車両に立ち入るのが引き金なら3人が入った時点で怪異に襲われている筈だ。
だが、今襲われていないという事は別の発動条件があると木庵は判断していた。本来なら発動条件を調査して、対策を立てるのが最善ではあるが、面倒くさがりな木庵は別の手立てを用意していた。
「"コイツ"を使う」
「何それ?」
木庵は保冷用の箱から何重にもビニールで包んだ物体を取り出す。
得体の知れない赤黒い物体だが、木庵はソレを床に置くと手を合わせた。
「まさかソレって…」
「あぁ、被害者の肉片だ」
由香は木庵が何をしようとしているのか察しが付いたのか眉を顰めた。
そう、今回木庵が用意していたのは予め営業の白石が調達していた被害者である遺体の肉片だった。
「まだ篠山には言うなよ。説明が面倒くせぇ」
「いやまだ言わないけどさ、アンタ流で教えるならいつか言わないと」
「あぁ、だが今はまだいい」
木庵は隅の方で銃に弾を込めている怜をチラッと見るとまだ言うには早い
+単純に説明が面倒くさいからまた今度でいいだろうと判断する。
「あっそ。で、そういうの使うって事は"釣る"気?」
「そうだ。わざわざ手間がかかる殺し方でやってるからには獲物に執着する筈だ」
木庵の推測はこうだ。被害者の遺体は下半身が擦り潰されていた。
普通の怪異なら力任せに引き裂いたり、喰い殺したり等色々だが今回の怪異は獲物を執拗に嬲るように感じた。
そんな怪異が相手ならば、取り憑いてる場所で被害者の一部を餌にする事により匂いに釣られて顕現するのでは?と判断したのだ。
「弾込めと動作確認出来ました」
「ナイスタイミングだ。これからこの一帯がこの前の学校みたいになる。気ィ引き締めていけ」
「つ、ついにやるんですね…」
木庵は怜が合流したのを契機に、術式の陣が描かれた紙に肉片を置き人差し指で陣を擦る。
車内を静寂が包む。紙を中心に辺り一面に波紋のようなモノが広がる。
波紋は一定のリズムを刻んでいた。怜はまるで自分の心臓の鼓動と連動しているかのような錯覚に陥る。
すると、一定のリズムから少しずつだが早くなってきた。
ドクン、ドクン、ドクン。徐々にリズムが早くなってくる。
更に波紋の広がりの感覚が短くなってきた。
ドクンドクンドクンドクンドクンドクンッ…!
一瞬の静寂の後、波紋が止んだと同時にキィィィン…!と耳鳴りがした。
「はい釣れた」
木庵のその一言の直後、紙が捲れていくように車内中の塗装が剥がれていく。剥き出しになった箇所から血と錆が混じったような金属が露出する。
辺りは真っ暗な筈なのに色素の薄い夕暮れのような光景と化す。
なのに少し離れた先は一切の光が差さない漆黒だった。
車庫の一部や地面が崩壊を始め、落ちていった瓦礫は底が見えない真っ暗な穴に吸い込まれていくように消えていった。
様変わりした辺り一面は誰かが想像するような悪夢のようだ、と形容するしかないような光景が目の前に広がる。
「なんか気分が…」
そして怜に訪れる強烈な負の感情。次々と死にたい、死んで楽になりたい。そんな思いが怜の頭の中を塗り潰していく。段々と呼吸が荒くなってくる。
「篠山しっかりしろ。前と同じようにこれ羽織ってろ」
木庵は蹲る怜に学校の時にも使った坊主の袈裟を頭から被せた。
「これで楽になるだろ」
「ありがとうございます…」
「由香、篠山と一緒にいろ。異界化してるのに本命の気配がねぇからちょいと見回りしてくる」
「あいよー、じゃまた後で」
そう言いながら木庵はバッグに弾丸と道具を適当に詰め込み、車内から出て行った。
「さてと、私も異界の瘴気苦手だし袈裟羽織っとくかな」
「あれ?木庵さん何も羽織らずに出て行っちゃいましたけど大丈夫なんですか?」
「あー、ほっといても大丈夫。私達より瘴気慣れてるし。私達はアイツが戻ってくるまでの間に出来る事しようか。とりあえず、そこの青い鞄に呪符入ってるから、四隅に貼ってくれる?」
「あ、分かりました」
由香は怜に指示を出しながら袈裟を羽織り、自身もライフルに手をかけた。
「(何気に新人と組んで仕事するの初めてなんだよなー。ちょっと不安)」
怜が指示通り、呪符を貼りながら準備をしていた時だった。
遠くからだが微かに何か音が聞こえてきた。
「あの由香さん、何か聞こえません?」
「ん?何か聞こえた?」
少しずつだが音はこちらに近付いてきている。場所はハッキリとしないが
怜が聞いた時より確実に接近している。何かを一定のリズムで小刻みに叩くような音だ。
「あ、ホントだ。聞こえるね。この音何処かで聞いた事あるような…」
怜だけでなく由香にも聞こえだしたこの音。由香は聞き覚えがあるのかこめかみに指を当てて思い出そうとしていた。そして怜も何となくだが聞き覚えのあるこの音を由香と共に記憶を辿る。
「うーん、なんだったかなこの音」
「あ、もしかしてこの音って楽器を叩く玩具の猿じゃないですか?」
そう、2人が聞き覚えのあったこの音。幼少期の頃、おもちゃ屋で聞いた猿のぬいぐるみがシンバルを一定のリズムで叩く見る人によっては少し不気味な玩具。
その音が今まさにこんな似つかわしくない場所で音を出しながら徐々にだが近付いてきていた。素人の怜ですら流石におかしいと思えるこの状況でだ。
「来たかな。後方待機、念の為いつでも撃てるようにだけしといて」
怜は言われた通り車両後部に這うように動いた後、緊張した動作で拳銃の撃鉄を起こす。
由香は素早い動きで車両の出入り口付近に移動した。そして後ろ膝を床につけ、前膝に肘を固定してライフルを構え音のする方角に銃口を向けた。
「でも、真っ暗なのに見えるんですか?」
「大体200m先かな。大丈夫よーく見えてるよ」
「由香さん⁉︎ 目がなんか…」
そう言うと由香は一瞬目を閉じた。そしてその様子を見た怜は驚く。
開かれた由香の目には大きな円の模様の中に小さい円。それらを四方から囲む模様のようなモノが瞳に映し出されていた。
「あー、大丈夫大丈夫。これ私の術式だから」
由香の術式は魔眼の一種で、中央の本部長である皚々の魔眼は過去を覗く種類だが、彼女の魔眼は視力に特化した魔眼だ。
通常人間の視野は正常で片目につき上方60° 下方 70° 鼻側 60° 耳側 100°の範囲を見る事が出来る。
しかし、その範囲が全て鮮明に見えている訳ではなく、見ている点は最も感度が高いため、はっきりと見えているが周辺に向かうにつれ感度は低下していく。しかし、由香の場合は違う。
常に最適な感度、鮮明さに加え遮蔽物があろうと熱探知、暗視効果、そしてそれらの術式効果は範囲限界は3kmだが、由香が視認可能な範囲全てに及ぶ。また一度魔眼で目標をマーキングし、かつ特殊な銃弾を用いれば理論上、遮蔽物を関係無く術式範囲を超えて狙撃可能となる。
照準を絞り、由香はライフルの引き金を引いた。銃声と共に銃口から飛び出していった7.62mm弾は目標を確実に撃ち抜いた。
着弾の様子を確認した由香は遊底を操作して、薬莢の排出を行い次弾を装填する。
「(どうせ今の使い魔みたいなのでしょ。大体、雑魚は群れるからなぁ。次はどうくるか)」
思考を重ねながら相手の動きを探る。由香が言ったように基本、怪異が使役する使い魔は単独で行動をする事は基本的に無い。だが、木庵と組んで色々な経験を積んだ由香はある程度の予測はついた。
すると先程の玩具の猿を撃ち抜いた方角から、今度は別の5体の猿のぬいぐるみがそれぞれ手に錆びた刃物や鈍器を手にしながら、こちらに駆けだしてくる様子をスコープ越しに由香は覗いていた。
「やっぱ読み通り複数で来るか。しかも一直線、単純すぎ」
由香の用いるライフルはボルトアクション方式の為、1発毎に薬莢を排出して、再び構えてから発砲までのラグがあるにも拘らず由香は手慣れた様子で次々と使い魔を正確に撃ち抜いていく。
「(…さっきまでの緩い雰囲気が嘘みたい)」
「無理しなくていいよ、その行動に移しただけでも嬉しいから」
怜はその光景を目の当たりにして、何か自分も役に立たなければと銃を構えようとするが構えた時には、最後の使い魔を由香が始末したところだった。銃声が鳴り止み、硝煙と静寂が2人の周辺を包む。
「(小出しが終わったから次は本体かな)」
そう言いながら由香は射撃体勢のままスコープから目線を逸らす。
そして、周囲の警戒は怠らずに魔眼で暗闇を凝視する。
その時――。
ここでは動いてる筈のない電車が、暗闇から滑り込んできた。
遅くなりましたが、続き投稿しました。
見てくださった方ありがとうございました。
今後もよろしくお願いします。




