FILE No3「猿夢」PART3
前回の続きとなります。
予定より長くなったのでまだこの回が続きます。
見てくださってる方ありがとうございます。
「現場研修?」
「あぁ、そうだ。その方が手っ取り早いからな」
木庵は当たり前だろと言いたげな態度でタバコの煙を吐き出す。
怜は木庵のその言葉に思わず顔を顰める。煙たいのもあるが1番はいきなりの事で何を言ってるんだこの人はという割合が大きい。
「でも、私何も知らないんですけど」
「だから、あれこれ教えるより現場に出て学ぶ方がいいじゃねぇか」
「ごめんなさい全く分かりません」
怜の疑問も尤もだ。警察学校に入学した警察志望の新人にいきなり殺人鬼を捕まえろと言ってるようなモノで、しかも今回は異形の存在である怪異を祓えなのだから、どう考えても無理である。
「さっきも言ったが、俺は勉強が死ぬ程嫌いでな。教科書なんて眺めてたら10分もしないでおねんねだ。そんな俺がお前をどうやって鍛える?現場で教えていくしかないだろうが」
「他の人に変わってもらっていいですか?」
「却下だ(コイツの監視の意味合いもあるしな)」
「…」
怜の不安や疑問は木庵の一言で遮られた。
木庵に色々言いたい事や聞きたい事がまだまだあるが、新たなタバコに火を付けだしたのを見て怜は考える事を完全に諦めた。
「で、どうすればいいんですか?」
怜は思考を切り替えて木庵に尋ねる。
「RPGと一緒でまずは武器からだ。大丈夫だ[ひのきの棒]よりいいのがあるから」
「武器ですか…」
「あぁ。という訳で開発課に行くぞ」
「あ、ちょっと待ってくださいよ!」
怜の返事も聞かず、木庵はひとしきりタバコを吸い終わると灰皿代わりにした空き缶に吸い殻を突っ込み、そのまま立ち上がり部屋を出て行く。慌てて怜もその後を追いかけ2人は部屋を後にした。
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「開発課なんてあるんですね」
「そりゃそうだ。俺達の武器は誰が作ってる?って話になるだろ」
2人はエレベーターに乗り込み3階に着いた。怜は辺りを見渡しながら歩いてる為、自然と歩幅が遅れてしまう。そんな怜をお構いなしに木庵は自分のペースで歩いて行く。
しばらく廊下を歩いた2人は右の角にある部屋の前で立ち止まった。
怜がふと上を見上げると鉄製の扉の上にプレートがあり、そこには[開発課]と書いてあった。
「これが開発課…ですか」
「あぁ、中に入ってもその辺のモンに勝手に触るなよ」
「さ、触らないですよ…」
そう言うと木庵は扉を引いた。扉を開けると、中から熱気と機械と油の匂いが怜の鼻を擽ぐる。
中には30人程の作業員がそれぞれ機械を用いて加工したり、恐らく新しい武具だろうか仕上がった刀を軽く振り、その様子を見て納得したように作業員の1人が頷いている。
別の作業員は銃を分解してパーツを付け替えたり、銃弾の弾頭に退魔の術式を慣れた手付きで刻み込みんでいく。木庵や由香が使用した銃弾も元はここで作られたモノである。
ここで保管してある銃火器や銃弾、パーツ類は日本では流通してないモノが殆どで海外から基本仕入れている為、事情を知らない警察に見つかれば当然、銃刀法に引っ掛かるが機関所属の祓い屋達は表向きには非公式の存在だが一応公安所属扱いの組織なので最終的には無罪放免となる。だが、基本は見つからないに越した事はない。
木庵ですら車のトランクを二重底にして誤魔化しているくらいだ。
各々が自分達の世界に入り、様々な武器を道具を作成し加工していく。その様子に怜は思わず圧倒されてしまう。木庵は1人の作業員に近付き声をかけた。
「鉄火場のおっさんはいるか?」
「おやっさんならあっちにいると思います!」
「あいよ、ありがとさん。邪魔して悪いな」
木庵は慣れた足取りで教えられた方角に向かうが、怜は何度も躓きそうになりながらも着いていく。
声をかけられた1人の作業員が指を差した方向には、熊と見間違う程の巨漢がいた。
「おっさん、今いいか?」
「あぁ?何の用だ?こっちは新しい子の調整してんだ。ギャンブルの話なら明日以降にしな」
髭面の巨漢の男はぶっきらぼうにそう告げて木庵に背を向けると、再度武器の調整を始めた。
木庵も自分が使うかもしれない新しい武器とあって気になったのか机を覗き込む。
「こりゃまたスゲーの作ったな」
木庵のその一言を聞いた瞬間、巨漢の男はバッ!と勢いよく振り返り堰を切ったように次々と喋り出した。
「だよな⁉︎お前なら分かってくれると思ってたぜオイ!見てくれ!この重厚感溢れる無骨なボディ!初期のスペックなら毎分6,000発だが、あまりにも速すぎて弾薬の消費が激しいし動作不良が多すぎるからよ!発射速度が下げられたワケよ!でもよ?やっぱり俺は技術屋でなぁ、そこでこの俺が全力で情熱を注ぎ込んで初期スペックに近い毎分5000発になるよう再調整した!そして驚くなよ?更に!そんなハイスペックなコイツにもう2セット!つまり計3門、合計18の銃身で毎分15000発を一度にブッ放せる用に取り付けたってワケだ!堪んねぇよな!80年代のシュワちゃんやハリウッド映画でお馴染みのこの武器の凄さを!俺は開発課にいれて心底幸せモンだ!」
男が木庵に披露したのはハリウッド映画で常連のM134であるが、作業台にあるのはお馴染みのガトリングガン通称[ミニガン]ではなく、銃身を三角形から為る形でそれぞれ3門の砲身、合計18の銃身が取り付けられたSF映画に出てくるような原型からかけ離れたバカバカしい兵器。普通のミニガンの重量ですら色々な装備込みで100kgくらいだが、この3連式M134とでも呼ぶべき代物は軽く400kgは超える。
ひとしきり喋り終えた男はそのままタバコに火を付けはじめた。
タバコを吸って落ち着いたのか、一旦作業する手を止めた。
「で、何の用だ?さっきも言ったが今はギャンブルしねーぞ」
「ギャンブルはさておき、今日来たのは新人がいるから武器を見繕いに来た」
「あぁ、例の新人か?使えんのか?」
「知らね。ただ、根性と度胸はあるがそれ次第だな」
男は木庵が開発課に来た理由をギャンブル目的と思っていたが、本来の目的は祓い屋となった怜の武器を調達する為だ。
「し、篠山怜です!よろしくお願いします!」
「おう、俺ァ開発課で課長やってる鉄火場辰雄[てっかばたつお]ってんだ」
鉄火場は咥えていたタバコを消し、作業用の手袋を外して手を怜に向けて差し出した。
怜は差し出された手の意図を理解して手を握る。
「(近くで見るとマ・ドンソクより身長高いなこの人…)」
怜は握手している鉄火場の手をまじまじと眺めながらふとそんな事を思っていた。
「とりあえず近接武器は論外だな。となるとお前さんでも扱える武器は銃がいいだろう」
「え、でも私銃なんか撃った事ないですよ⁉︎無理無理無理!」
怜は鉄火場に自身の武器に銃を薦められて思わず驚く。
「仕方ねぇだろ。お前刀持って攻撃避けながらあのバケモン斬れるか?銃を使うにはちゃんとメリットがある。まず、お前みたいな素人でも多少訓練すれば簡単に撃てるし、怪異から物理的に距離が取れる事で接触するリスクも軽減出来る。だから素人はまずは銃で慣れろ」
「でも、そうは言っても…」
怜の慌てる様子を見ながら木庵がそう答えた。
だが、木庵の言う事は尤もだ。全ての祓い屋が銃を使う訳ではない。
術式、武具を使用するが全て本人の努力、経験、卓越した技量やセンス等があってこそ最大限の力を発揮出来る。
怜は祓い屋とは言っても先程なったばかりで術式は勿論無い。そして怜の中にいる怪異もまだどういう存在か分かっていない。そんな状態でも可能な限りのリスクを回避しながら使える武器といえば銃が1番最適解だろう。
「おっさん、どの銃がコイツ向きかは全部アンタに任せる」
「任せとけ!俺がオススメすんのはだな… そうだな、そんじゃまずはコイツだ」
鉄火場はそう言うと、大量の銃火器を飾っている棚の中から1丁を取り出し、机の上に置いた。
「やっぱり、怪異を相手にすんなら威力は大事だ。威力ならコイツの右に出るヤツぁいねぇだろ。マグナム44だ。あのダーティー・ハリーも使ってた銃だ」
「おっさん、話聞いてたか?素人が使うって言ってんだろ。こんなモン小枝みたいに華奢なソイツが撃ったら反動で吹っ飛んじまうだろうが」
「あぁん⁉︎ お前さん、俺に任せるって言ったじゃねかぇか」
「あぁ、確かそう言ったけど常識で考えろよ。どう考えても無理だろ」
「…そりゃそうか、確かにリプリーみたいな女じゃねぇと無理だわな…仕方ねぇ。じゃ、お次はコレだ」
鉄火場はしぶしぶ先程出した銃を棚に仕舞い、別の銃を取り出し机の上に置いた。
「ベレッタか」
「あぁ、拡張性もあるし物足りなきゃパーツを付け替えて最適化も出来る。コイツならお嬢ちゃんにも扱えるだろ」
「なるほどな。おい、コレ持ってみろ」
木庵はそう言って怜に銃を渡す。怜は手渡された銃を恐る恐る手に取った。
「 (重たい…)」
怜が映画でよく見るお馴染みの拳銃。重量約1kg程だがフィクションとは違うホンモノの"重み"を改めて体感した。
「よし、武器は決まったなお嬢ちゃん。これで悪い子の仲間入りだな。次は実際に撃ってみるか。ついてきな」
「はい…分かりました」
歩きだした鉄火場の後ろを木庵と怜はついていく。部屋を横切り、別の扉を開ける。中には幅1mくらいのスペースがいくつもあり、同じ数だけ仕切りもある。その先には人型の射撃用がターゲットが設置されており内装は至ってシンプルな作りだ。よく映画で見るようなザ・射撃場をイメージすれば分かりやすいだろう。
「ここは射撃場だ。ゴチャゴチャ説明しなくても理解出来るな?物は試しよ。一発撃ってみな」
「は、はい!」
「おし、あそこのブースまで行ってこい。そんで必ず耳当てしろよ」
「えっと…構えとかは」
「いいか篠山、構え云々とか姿勢がどうとかは後で教える。まずは撃ってみろ」
怜は不安げに後ろを振り返るが、木庵にあっさり言われてしまう。
「(構えなんか知らないし、撃ち方も知らない… でも散々映画で見てきた光景でしょ… 確か…)」
記憶を辿り、なんとか見様見真似で銃を構えてみた。深く息を吸うとそのまま息を止める。そして引き金を引いた。
「ッ‼︎」
乾いた音と共に薬莢が床に転がり落ちた。反動を抑えきれず両腕が跳ね上がる。
「こ、これが本物…」
「よし、まずはこんなモンだ」
初めて銃を撃った反動、手に伝わる振動が手だけでなく全身に衝撃がきたような錯覚に陥る。
呆然とする怜にニヤけた笑みを浮かべながら木庵が肩を叩く。
「銃を初めて撃った感想はどうよ?」
「…そんなの分かりませんよ」
「そりゃそうだ、楽しいとか言うならそれはちょっと引くな」
怜はブースの後ろにあるベンチに座りながらそう言った。離れたベンチに木庵も座りタバコに火を付けだす。
「そんじゃ、俺は作業場に戻るぞ。必要なモンがあるならまた来な」
「助かった、礼代わりに今度カートン買ってくる」
「あ、ありがとうございました!」
今までの様子を見ていた鉄火場はそう言い残すと、自分の仕事は終わったとばかりにその場を去って行った。
「篠山、銃がどんなモンか分かったろ?ちゃんと構えないとさっきみたいに腕が跳ねたり最悪、反動で体勢も崩れちまう。実戦でそんな隙を作れば一瞬で死ぬ。だからちゃんと撃てるように基礎は教えてやる。慣れだしたら好きな撃ち方でいい、それで怪異を殺せるなら問題ねぇ。ここは警察でも軍隊でもねぇからな、型式通りのお上品な事はしなくていい。ただ…」
「…ただ?」
「俺の元で研修中の時はキチっとやれ。知識、動作全部覚えろ。基礎をしっかりやればとりあえず死にはしねぇ。逆に基礎が出来てない奴はどんな強い祓い屋だろうが俺からすれば雑魚だ。お前はそんな有象無象の雑魚になるなよ」
「は、はい…」
先程までニヤニヤしながら怜に声をかけてきた時とは雰囲気の違う木庵に怜は表情を引き締める。
「その緊張感を忘れんな。このまま射撃訓練だ。銃の撃ち方、構えと動作を軽くだが叩き込む」
「頑張ります!」
それから3時間程、怜は銃の基礎をひたすらみっちり叩き込まれた。
安全装置の有無、照準の合わせ方、構え、姿勢に動作、更にマガジンの弾込めから装填時のスライドの確認を主に重点的に教えられた。
基本的に映画からの引用が多く、あまり教えるのが上手ではない感覚的な説明の木庵の教え方だが、怜も映画好きだったのが幸いして木庵が鍛えた由香よりか話が通じていた。
それがいい方向に作用したお陰で怜は3時間程で明確に動きがよくなってはいた。
あくまで、他の一般人に比べたらだが。
今まで銃を触った事のない少女が少し訓練しただけで銃が撃ててしまう普通なら異常な状況だがこれが"この道"を選んだ人間にはやがて"ソレ"が常識に変わっていく。
「今日はこんなモンでいいだろ。あんまり遅いと保護者が心配するだろうしな。訓練は終わりだ、もう帰れ」
その言葉を聞いた瞬間、怜は緊張の糸が切れてその場に崩れるように座り込む。
「え、もう帰っていいんですか?」
現場研修と聞いていたので早速怪異を祓いに行くと思っていた怜は驚く。
「あぁ、また明日学校が終わったらここに来い。お前の情報を登録したから問題なく本部に入れる筈だ。場所は分かるな?」
「えっと大丈夫です」
「じゃあ、そういう事だ帰れ。明日は実戦だ、しっかり休んで明日に備えろ。保護者には泊まるとかそんな理由で伝えとけよ」
「わ、分かりました」
射撃場を出た怜は木庵に見送られてビルを後にする。
外に出た時にはすっかり日が暮れ、家路に着く人で通りは溢れていた。
そんな状態でも人々は本部のビルは勿論、そこから出てきた怜には目もくれず通り過ぎていく。怜も家に帰る為、駅の方に向けて歩いて行った。
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翌日、授業を終え放課後になった後、怜は機関の本部に到着した。木庵の言ったように本部には問題なく入れた。叔母である紗代子には1人でボーっとしたいから夜の街でぶらぶらすると伝えてある。心配はされたが、怜の友人が亡くなった背景を考慮して「気をつけて」と言われそれ以上は追及されなかった。
「ごめんね紗代子さん、ありがとう」
本当は心配で止めたかっただろうに何も言わずにいた叔母には感謝してもしきれないなと怜は想う。
「とりあえず木庵さんの部屋に行こうかな」
本部の場所は分かったが流石に勝手に中をウロウロするのは不味いと思い木庵に連絡しようとした時だった。
「「あ」」
エレベーターが1階に止まり中からタイミングよく木庵が出てきたのだが
なにか様子がおかしい。怜は丁度いいと思い木庵に近付くが当の本人は
え?なんでお前いるの?と言いたげな顔だった。
「アレ?木庵さんどこか出かけるんですか?」
木庵の手に車のキーが握られていたのを見た怜はどこかコンビニにでも行くのだろうかと思い声をかけた。
「あー…」
「?」
妙にソワソワしているというか面倒そうな雰囲気の木庵の視線が泳ぐ。
「木ぃぃぃぃ庵んんんんんんんん‼︎」
怜はしばらく木庵の様子を伺っていると、遠くから階段を駆け降りる音と共に怒号がホールに響き渡る。
「あ、やべ」
「オルァ!」
怒号の主は階段を駆け降りた勢いのまま、木庵目掛けて飛び掛かり腕を首に回し固定した後、そのまま自由落下で顔から床に叩き付ける。
マトモに受け身を取れない体勢の木庵は大理石の床と豪快なキスを交わした。
更にうつ伏せで倒れた木庵の両足を、それぞれの脇の下に挟み込み、そのまま相手の身体を跨ぐようにして背中を反らせて背中と腰を極めた。
「いっつあああああ!スマン由香悪かったギブギブギブギブ」
ノーリアクションで一連の技を受けた木庵も流石に限界が来たようで悲痛な叫びを上げる。
「あぁん⁉︎何が悪かったんだァ⁉︎言ってみろやあああああ‼︎ 祓いの指令来てんのにどーこ行こうとしてたのかなァ⁉︎」
「仕事前の気晴らしに外の空気吸いに出ようとしただけだってばあぁ⁉︎」
「お前がそんなおセンチな野郎か!どうせ玉転がしに行くだけだろうが!
結局その後、私に見つかって〆られるのがパターンなんだよぉぉぉ‼︎」
由香と呼ばれた声の主の怒りは収まらず、更に木庵の背中を反らせた。
背中を極められた木庵は何か思い付いたように怜に視線を向ける。
目が合った怜は微妙な雰囲気から即座に目を逸らした。
「いや違うんだ本当は新人が来るから迎えに来たんだっての」
「新人〜? あ…」
由香は怜の方に視線をやるとなんとも言えない微妙な表情の怜を見るや否やパッと木庵から離れた。
「新人さんなんだね〜!私は由香!よろしく!」
「えぇっ⁉︎ は、はい!私は篠山 怜です!よろしくお願いします!由香さん!」
紫と白のツートンカラーの派手な髪色にパンクな服装の見た目からしてヤバめの雰囲気の女性が、先程まで顔に青筋を浮かべながらキレていた人物とは思えないくらいニコニコしながら手を握ってくるが怜はリアクションに困り果てるも向こうがフレンドリーに接してきたので勢いに任せてそれに乗っかった。
その光景を見ていた木庵は由香の猫被りに呆れた表情で眺めていた。
あまりの豹変振りにあえて効果音を付けるなら、きゅるるるん♡と言わんばかりの変わり身だった。
なんとなくエントランスで話し続ける雰囲気ではなくなったので3人は木庵の自室に向かう事にした。
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「お前ら鉄火場のオッサンに用があるから待ってろ。篠山、オッサンから銃預かってる。今渡しとくぞ」
昨日怜が選んだ銃を渡した後、木庵は部屋を出て行った。
由香と2人きりになった怜はどうしようかと思っていたが、由香が部屋の中の冷蔵庫からエナジードリンクを取り出した後、椅子に遠慮なく座ったのを見て怜もそれに続いた。
椅子に座るなり、由香はタバコに火を付けようとしたが怜の姿を見て思い留まった。
「あ、タバコ吸うなら木庵さんで慣れてるから私は平気ですよ」
「いやいい、気にしないで。普通は未成年いるなら配慮するけどね。普通は」
未成年の前だろうがタバコを吸う木庵に由香は思わずイラッとした。
「君の事はある程度あのバカから聞いてるよ。大変だったね。この業界にいる人間は半分以上がワケアリの人多いから、ある意味では君と同じような人達ばっかだから安心してよ」
「半分?何か意味があるんですか?」
「単純に残り半分は家系とか素質アリとかそんな感じかなー」
「じゃあ、木庵さんもワケアリって事ですか?」
「アイツ全然話さないから詳細は知らないけど多分ね」
「あの適当さからはそうは見えないですね…」
先程、由香が言ったように祓い屋界隈は昔はともかく最近では大なり小なりのワケアリの祓い屋が多くなってきていた。勿論、由香もその1人である。怜は適当極まりない木庵もワケアリかもしれないと聞いた事で少し親近感が湧いた。
「そういや、木庵からなんか銃の事教わったりした?」
「基礎は少し…でも、まだ的にちゃんと当てれなくて…5発撃って1回当たればいい方です」
「今まで銃撃った事ないんだからそれは仕方ないって。むしろ、アイツの感覚的な教え方にも問題あると思うかな」
「そうですか?確かに木庵さんの教え方はフワッとした部分も多いですが私は分かりました」
「へー、アイツのあの教え方で通じる子初めて見た。あ、そうだアイツどうせまだ戻って来ないし射撃訓練見てあげる」
「え!いいんですか⁉︎お願いします!」
由香は木庵の映画の引用ばっかりのあの感覚的な教え方に随分苦労したなとしみじみ思っていた。
そんな中で怜は珍しい部類だった。あの教え方で理解はしているのだから。
「じゃあ、また射撃場に行くんですか?」
「いや、動くの面倒いからココでいいよ。ちょっと待ってて」
「大丈夫なんですか…?」
「大丈V。どうせ散らかってるしアイツもよくここで撃ったりしてるから今更だよ。適当な癖に防弾加工とか防音してたし、発砲音もこの部屋なら大して皆気にしないしさ」
由香は椅子から立ち上がると机の上にあったPC等の貴重品の類を適当にどかして先程飲んでいたエナジードリンクの空き缶を机に置いた。
「じゃあ、木庵に教えてもらった通りにしてみて。自分のタイミングでやればいいから」
怜は由香の言った事に不安になるが、当の本人はどうやら本気のようだ。
諦めて机に置いてある銃を手に取り、木庵に教えられたように動作確認をしていく。そして、空き缶目掛けて引き金を引いた。
だが、放たれた弾は空き缶から大きく逸れて壁に当たった。
「よしよし動作確認と構えは問題無さげかな。流石あの教えを理解しただけはあるね。じゃあ、お遊びはこの辺で次は絶対当ててみようか」
由香はそう言うと空き缶の隣側に移動した。
「これなら絶対に外せないし、撃ってみて」
「何してるんですか⁉︎ 外れたら怪我じゃ済まないですよ⁉︎」
「大丈夫大丈夫。絶対当てればいいだけだから」
由香の正気とは思えない行動に怜は焦る。
無理もない。一歩間違えれば死んでしまうからだ。そして由香の生死は今この場では怜次第。
「焦る気持ちもよく分かる。とりあえず目を瞑ってイメージしてみよっか。そうだな、今狙ってる目標は君の仇とも言える怪異。そいつが今まさに誰かを殺そうとしている。さぁ、どうする?」
パニックになる怜に由香は諭すように言う。
まず、怜は言われたように目を閉じてみた。そして、そこから深く息を吸い込む。由香の言う通りにイメージしてみた。
「(沙耶ちゃんを殺した怪異が憎い。沙耶ちゃんを守れなかった私も憎い)」
今、自身が狙っているのは自分の親友を殺した憎い怪異。元凶は木庵が祓ってしまったが、怜はあの頃に戻れるならとあの場にいて仇を取れるなら迷わず引き金を引く自信がある。
自身の奥底から"憎い"という感情が小さな炎のようにチラつく。
やがて、怜はもう一度深く息を吸い込んだ。そして銃を構え、発砲した。
その表情には迷いが無かった。先程とは違い、目標の空き缶を撃ち抜いた。
「やるじゃん。これなら実戦に出てもすぐには死なないと思うよ。よしよし無理言ってごめんね。よく頑張ったねぇ偉い偉い」
そう言って由香は怜の頭をわしゃわしゃと撫で回す。
「さっきは本当に焦ったんですから…もう、あんな事やめてくださいよ…」
とは言いつつも単純に褒められた事が嬉しい怜だった。
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ここまで見てくださってる方ありがとうございます。
励みになるので気長に見てもらえたらと思います。
よろしくお願いします。




