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中央怪異対策機関  作者: Proto1
2/6

FILE No.2「降霊術」

この作品を見て下さった方ありがとうございます。

面白かったかはさておき見て下さった事はめっちゃ嬉しいです。

励みになります。


序盤一人称視点でいいのかな…が続きます。

人によっては不快な描写もあると思いますがご了承ください。


2話目もよろしくお願いします。

私の名前は篠山 怜。都内の高校に通う17歳。所謂、花のJKです。

両親とは色々あって、今は叔母の元で暮らしています。

 

そんな私の日課は放課後、適当な飲食店…大体、ファミレスだけどそこで友達の沙耶ちゃんと毎日女子トークばかりしています。

内容は本当にくだらない事ばかり。

クラスメイトの男の子の話だったり、芸能人がとかドラマがどうとか流行りの音楽とか、そんな取るに足らない話しかしていないけど、沙耶ちゃんが面白可笑しく話してくれるから全然退屈ではない。

 

「でー、最近 知り合った男子がさ、なんか心霊系?とかそういうのハマってるらしくて、色々教えてもらったんだけどキモくてブロックしたー」

 

明るくて誰とでも仲良くなれる沙耶ちゃんからはよく知り合った男の子の

話を聞かされる。でも、付き合ったとかそういうのはあまり聞かない。

ただの友達感覚でいたら相手がマジになるとは沙耶ちゃんの談。

 

「心霊系って例えばどんなの?」

「えっとねー、なんかコックリさんみたいなヤツ」

「つまり、幽霊とか呼んだりする系?大丈夫なの?」

「さぁ?試す気ないし興味もないからどうでもいいやー」

 

まさか沙耶ちゃんから教えてもらったのは幽霊を呼ぶ儀式…えっと、降霊術で合ってるのかな?それだった。

 

「あ、でも気になったのはー… ってヤバ!話過ぎてバイトの時間ギリギリじゃん!ゴメーン!会計、明日払うから!またね!」

「ホントだすっかり話し込んでたね。沙耶ちゃん、また明日!」

 

そう言い残して沙耶ちゃんは慌てた様子で店をでていった。

最後に何か言いかけてたのが気になるけどまた今度聞く事にしよう。

 

 

 

ーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

その日の晩、バイトが終わった沙耶ちゃんと通話してた時に気になってた事を思い出した。そう勿論、降霊術の事。

 

「あ、そういえば バイト行く前に何か言いかけてたよね?アレ結局なんだったの?」

「そういや、そんな話してたね。胡散臭いんだけど、確か霊を呼び出して願いを叶えてもらうんだってー」

「絶対嘘でしょ…」

「だから、言ったじゃん。胡散臭いって」

 

思ったより胡散臭かった。

 

「あ、じゃあさダメ元だし、どうせ願い叶えてもらうならショボいヤツにしとこうよ」

「え、やるつもりなの?」

 

かなり嘘臭いのに何故か沙耶ちゃんは乗り気になった。

 

「だから、ダメ元なんだし大丈夫だよ。こんなの暇潰しだし。という訳で明日やってみようよ」

「あまりそういうのは冗談半分でやらない方がいいんじゃ?」

「大丈夫大丈夫、危なそうならすぐやめるしとりあえずやってみようよ」

「う、うん 分かった… 危なくなったらすぐやめてね」

「よっしゃ、決まり!じゃ、明日の放課後に! おやすみ!」

「分かった、沙耶ちゃんもおやすみ」

 

その場の流れでまさかの降霊術をやる事になってしまった。

私はこの時、意地でも降霊術を止めるべきだったと後に心底後悔する事になる。

 

 

 

ーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

放課後、昨日話してたように私達は教室で降霊術をやってみる事に。

 

「じゃあ、やってみよっか!」

「何か用意するものとかあるの?」

「大丈夫大丈夫。もう用意してるから!」

 

そう言いながら、沙耶ちゃんは机の上に色々出した。

蝋燭2本、器、お酒(家庭科の時の料理酒らしい)、五芒星を鳥居で囲った絵を描いた紙、これを使って降霊術をするそうだ。

 

「これで全部なの?」

「最後に私達の血を器に入れれば準備ok!」

 

そう言って沙耶ちゃんは鋏を指に当て、軽く引く。

簡単に指が切れて器に血が垂れていく。

 

「なんか本格的だね…」

 

私も鋏を用意して同じ様に指を切る。

 

「とりあえず血が止まるまでこのまま続けよっか」

「分かった… 転ぶよりこういう傷の方が痛いよね…」

 

やがて血が止まったので次の段階に行く事になった。

 

「えっとねー確か手順がこの紙の中心に血と酒が入った器を置いて

両側に蝋燭置いて、火をつけて後は霊よ来てください的な事を念じるだけだって」

「え、念じるって そんなんでいいの?」

「さぁ?とりあえずやってみるしかないよ」

「あ、そうだ願いはお試しだし、刺激的な学校生活にしたいにしようよ!」

「なんかショボくない?って思ったけどいいんじゃない?楽しそう!」

 

 

私達は目を瞑り、念じてみた。強く念じた。息をするのも忘れるくらい必死に念じた。

 

しばらくしてからだろうか何かその場の雰囲気が変わったような気がした。

目を閉じても沙耶ちゃんが隣にいる気配は分かる。

 

けど、それとは違う何か、そう重たい何かの気配を感じた。

 

やがて、息苦しくなって目を開けると何故か器が波打っていた。

私は触ってないからあんな風に波打つなんて変だ。

そして、いつの間にか蝋燭の火も消えていた。

 

「え、沙耶ちゃん器に触った?」

「いやいや、触ってないよ!」

「じ、じゃあ まさか本当に成功したって事⁉︎」

「分からないよ!ヤバいかも…すぐ止めよう!」

 

私達はそれぞれ器に触ってないと言う。多分、沙耶ちゃんも触ってないと思う。ノリはいいけど、変な悪戯とかはしない子だから。

 

「とりあえず、私は器の中身捨ててくるから、怜は紙と蝋燭処理して!」

「わ、分かった!!」

 

沙耶ちゃんは慌てて教室を出て行った。私は紙を丸めて捨てた。

 

どうしよう、まさか本当に成功するなんて思ってもいなかった。

 

「後始末はしたし、大丈夫な筈…ヤバくなりそうだし帰ろう…」

「う、うん…気をつけて帰ってね…(なにか嫌な予感がする…)」

 

教室を出ようと踏み出した時だった。

 

「⁉︎」

 

窓の外から視線を感じて思わず振り返るが当然何もない。

 

 

不気味さを感じながら、私達は日が暮れた教室を後にする。


ーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

晩、家に帰った私は沙耶ちゃんに電話したが繋がらなかった。

あんな事があったから、疲れて寝ているのかと思い また、翌日に話す事にした。

 

 

その夜私は夢を見た。輪郭しか分からないが何故か、見ようとしてもぼやけて見えない。その影みたいなのが何か言おうとしていた。

言ってる言葉は分からないが何かを言おうとしているの分かる。

 

その影は私に向かってきていた。私は動こうとするが何故か動けない。

ゆっくりとだが、着実に私に近づいていた。

遂に影が私に触れようとした時だった。

 

目覚ましのアラームで目が覚める。

 

「(変な夢見ちゃった…)」

 

昨夜の出来事の所為で体が重く気乗りしない中、支度を済ませて学校に向かう。

始業時間になってもまだ、沙耶ちゃんの姿はなかった。

 

「(沙耶ちゃん、遅いなぁ 今日休みかな…)」

 

さっきから妙な胸騒ぎが止まらない。昨日の出来事を思い出して心拍数が上がってくる。

 

遂にHRが始まったのだが、先生の雰囲気がどこかおかしい。

 

「えーと…皆に悲しいお知らせがある クラスメイトの横田 沙耶が

昨日亡くなったそうだ… でーーー」

 

私は頭の中が真っ白になった。先生が何か言っていたが、何を言っているか分からなかった。沙耶ちゃんが死んだ?嘘だ。

 

だって昨日まで元気だったのに死んだなんて有り得ない。

 

 

その日は一日中、何もする気が起きなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

夕方、私は家に帰る為に帰宅していた。

 

沙耶ちゃんが死んだ。先生は言わなかったけど、ニュースを見てたら強盗に殺されたそうだけどなんとなく違うって分かる。

断言は出来ないけど、どう考えても昨日の出来事の所為だ。

 

「あ…ごめんなさい 前見てなくて…」

 

考え事しながら、歩いていたら誰かにぶつかってしまった。 

ぶつかった人は倒れ込んでしまう。

 

「あの…大丈夫です…か…? えっ…?」

 

ぶつかった人は無言のままだったが、何か様子がおかしい。

というか全体的になにかおかしい。その人は手を使わず倒れたままの体勢で起き上がってきた。

 

まるで関節がぐにゃぐにゃの人形みたいだ。

身長2m以上はあるし、異常に痩せ細った体に地面に着くくらい大きくて長い。手なんか私の鞄くらい大きい。

 

その人形みたいなナニカがこっちに向かって近付いてくる。

 

動かないといけないのは分かっているのに、体が重たい。耐えれない。

立っていられない。気分が悪くなって吐き気が止まらない。

 

「いや…こない…で…」

 

ソレが私に触れようとした瞬間だった。

 

鈍い音と共にソレが大きく吹き飛んでいった。

 

「大丈夫か?」

 

私はくたびれたヨレヨレのコートを着た、男の人がソレを殴り飛ばしたのだと気付いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

「お、ボタンバイブ来た。よっしゃ投資少なくて済んだな」

 

木庵はいつものように死んだ魚の目で台の液晶を眺めていたが、

チャンスを知らせる告知が来た瞬間、目に生気が戻り液晶を食い入るように見つめる。

 

『Aim to Right!』

 

やがて演出を重ねて図柄が揃い、玉を打ち出す方向が左から右に変わる。

 

その後も次々と当たりを引き続け、顔からニヤニヤと笑みが溢れる。

 

「今回はめっちゃ出たな。帰るか」

 

当たりが終わり、景品を交換して店を後にする。

 

車に向かって歩きながら懐からタバコを取り出し、火を付ける。

煙を思いっきり吸い込んで、煙を吐き出す。

 

車の鍵を開けて、座席に座り込んだ時だった。

 

「はい、木庵です。分かりましたー。現地に行くんで詳細またくださいー。それじゃ」

 

次の任務の電話が入る。どうも情報によると学校に怪異が発生したそうだ。

 

怪異というモノはどこにでも居てどこにでも居ない。

そして普段、なんでもないような一般人が数多くいる学校、夕暮れの帰り道、路地裏、駅、雑居ビル、そういったところに怪異は存在している。

 

人ある所に怪異有り。とも言うべきかそれ程に怪異という存在は当たり前のようにソコに居る。

 

そんな人ならざる存在を祓う為に木庵のような祓い屋達が日夜、命を懸けて怪異と戦っている。

 

「場所は学校か。大方、ガキ供か降霊術かなんかで変なモン呼びやがったな」

 

そんな木庵が次向かう場所は都内の学校である。

情報によると一家殺人事件の原因が怪異によるモノだという。

 

被害者の女子高生の遺体が1番損壊が激しかったので恐らく降霊術で呼ばれた怪異が術者を狙ったのだと判断した。

 

異常な死に方をしていたが怪異の存在は秘匿な為、警察に手回しをして通常の殺人事件扱いとなっている。

 

タバコに火を付けると、木庵は事件現場に向かった。

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

「かなり禍々しい気配だな。ったくナニ呼んだんだか」

 

封鎖された事故現場に着いた木庵はテープをくぐり中に入ろうとする。

 

「あの、何かこの家に御用ですか…?」

「… あぁ、こういう者です。現場検証は終わってますが、まだ捜査は終わってませんので」

 

すると、その様子を見ていた1人の男が木庵に声をかける。

一瞬、面倒な顔をするがコートの懐に手を入れながら中から警察手帳を

取り出す。

 

「あ、そうでしたか。怪しい雰囲気だったのでつい…」

「よく言われるんで気になさらず」

 

木庵達、怪異対策機関は調査の為に事件現場によく出入りする事が多いので、怪異の痕跡や調査を円滑に行う為に予め 警察、政府、自衛隊から身分を偽れるように籍だけ置いてこのような対策をしていた。

 

「足止めしてすいませんねぇ」

「いえ、捜査があるんでそれじゃ」

 

会話を早々に切り上げて、家の中に入った。

 

「絡んでくるなよクソが、めんどくせーな…」

 

家の中に入るなり、悪態を吐きながらタバコに火を付ける。

怪異が関わる事件には現場を全てそのままにするよう警察に伝達している為、現場は事件当時のままである。

 

流石に遺体だけはそのままに出来ないので、警察が回収した。

 

「ご愁傷様だ」

 

一家の遺体は猛獣か何かにやられたかのように体を真っ二つに食いちぎられていたそうだ。辺りに飛び散った大量の血痕が事件の凄惨さを物語っている。

 

木庵は線香の代わりに吸っていたタバコを机の上に立てた。

端から見れば、死者を冒涜しているように見えるが木庵的には一応弔いのつもりだ。

そして、また新たなタバコを取り出し火を付けた。

 

被害者の女子高生の遺体を調べる為に家の中を進み、2階に上がる。

 

「ビンゴ… やっぱりか」

 

被害者の部屋を開けた木庵は被害者の遺体の損壊が両親に比べ特に激しかった事から、この子が発端であると確信した。

 

「さてと、お嬢ちゃん。昨日何があったのか見せてもらおうか」

 

木庵は懐から古びた懐中時計を取り出す。指を軽く切り付け、血を時計に擦り込み、そして遺体の血も同じように擦り込んだ。

遺体の血は時間が経って固まっていたが、唾液で少し馴染ませて使った。

 

時計の針を現在の時刻16時から事件が起きた時間であろう21時に合わせる。そして木庵は目を閉じながら念じた。意識が段々遠のいていく感覚が分かる。

 

 

木庵は再び目を開けるとさっき目を閉じた部屋と同じ場所だった。

明確に違うのは時間が午後21時なのと、被害者がベッドに横になりながらスマホを弄っている事だろう。

 

今、木庵が行ったのは霊視の一種である。

特殊な術式を刻み込んだ時計に自身の血と被害者の血を混ぜ合わせ、意識だけを事件発生時の時間に飛ばして、追体験するモノだ。

霊能力がない木庵は霊視が出来ない為、事件を調査する際にはこうした術式や道具を使う必要がある。

 

今回、霊視に時計を使ったのもあくまで木庵がイメージしやすいという理由で使っているだけなので他の術師は別の手段を用いる事もあるが大体は持ち前の霊能力で霊視する事が多い。

 

事件発生の時間に戻った木庵は被害者を見下ろしていた。

 

うつ伏せの体勢でスマホを弄っていたので木庵はスマホを覗き込む。

なにやら、降霊術の事を色々調べていたようだ。

 

『なんなのよ…全然アテにならないじゃん…どうしよ…』

 

恐らく、降霊術によって呼ばれた霊の対策でも調べていたのだろうか

役に立ちそうな情報が無かったのか諦めた様子でスマホを放り投げる。

 

被害者は布団を被り、寝る為に部屋の電気を切ろうとした時だった。

電球がチカチカと点滅しだす。

 

『もう、なんなのこのタイミングで… お父さーん!』

 

部屋の電球がおかしいので父親を呼ぶが、返事はなかった。

 

『アレ?割と大きい声で呼んだのにな… お母さーん!』

 

続けて母親を呼ぶも先程と同じように返事はない。

不審に思い、ベッドから立ち上がったと同時に部屋の電気が切れた。

 

『えっ…ちょ…最悪…』

 

慌ててスマホを取ろうとするが、真っ暗な為何処にあるか分からない。

 

コンコン… コンコン…

 

『⁉︎ お母さんなの⁉︎』

 

聞き間違いじゃなければ今、部屋をノックされた。

 

コンコン! 

 

強めにノックされたので耳を澄ませてよく音を聞く。

部屋の外ではない部屋の反対側つまり窓から音は聞こえる。

 

『ねぇ!冗談はやめてよ!シャレになってないって!』

 

バンバンバンバンバン…

 

ノック程度の軽い音から窓を叩く音に変わる。

音は止まないどころか、どんどん大きくなる。

 

 

バン!バン!バン!バン!バン!バン!バン!バン!バン!バン!バン!

 

バンッッッ!

 

窓が割れる勢いで叩かれ続けた後、一際大きい音の後音は止んだ。

不気味な程の静寂さと、暗闇が部屋を包む。

 

『もう、スマホどこよ⁉︎  あった!』

 

スマホを見つけ、掴み取る。ここには居られない、早く出ようとベッドから降りてスマホの灯りを頼りに部屋のドア目掛けて走る。

 

『なんで開かないのよ⁉︎ ねぇ!お母さん開けて!お父さん!』

 

ドアノブを捻ってドアを開けようとするが何故か開かない。

何度やってもビクともしない。

 

ペタリ… ペタリ…

 

『誰⁉︎ なんなの⁉︎』

 

部屋を照らすが音しか聞こえない。

 

ペタリ…ペタリ…

 

また足音がする。さっきよりも近い場所でだ。こっちに近付いてきてるのが分かった。もう一度、部屋の中を照らすと目の前にソレはいた。

 

真っ暗でよく見えない筈なのにソレはハッキリと見えた。天井に届くくらい長身に異常に痩せ細った体、そして床に着くくらい大きくて長い腕。手だけでも枕と同じくらい大きい。

本来なら顔にある筈の目や鼻といったものも無い。そんな顔の殆どが巨大な口だ。

 

『ああああああああああああやだあああああ!』

 

異常さのあまり、その場に座り込んでしまう。

ソレはゆっくりと近付く。被害者にその長くて大きい手を伸ばす。両手で胴体を押さえつけられる。

 

必死に逃げようともがくがソレは押さえつける力をどんどん強くする。

 

骨が軋み出す音が聞こえる。更に力は強くなり、遂には体のあちこちから骨が折れだした。骨が突き出て血が噴き出す。

 

『いたいいたいいたいたいたいたいたいいたいいたいいいおかあさんたすけておとうさんたすけてたすけてたすけてたs」

 

ソレは巨大な口を開けて、被害者の顔を食いちぎった。

 

口から上の部分が一口で食いちぎられて無くなった。

夥しい血が噴き出し、その場に血溜まりが出来る。

 

被害者は糸の切れた人形のように動きが止まった。

ソレはもう死んでいる被害者を力の限り、握った。

握られたとこからプラスチックのように簡単に骨が砕ける。

 

辺り一面に血が飛び散る。飛び散った血がスマホにも付着する。

被害者のスマホに着信が来る。液晶には着信相手は怜と表示されていた。

 

何コールかした後、着信が止まった。待ち受けが見えたので木庵は画面を眺める。2人の女の子の待ち受けだ、友達同士だろう。

待ち受けのもう1人が怜だと木庵は判断した。

 

ソレは興味を無くしたのか、被害者の死体を放り捨てるとぎこちない動きで部屋を出ていった。

 

しばらくしてから、下の階で2人分の悲鳴と肉を引き裂く音の後に断末魔が響いた。

 

木庵はこの霊視が嫌いだった。何故なら、記憶の追体験なので目の前で死んでいく被害者達に何もしてやれないからだ。

 

「アンタ達の無念は俺が晴らしてやるからな。安らかに眠れ」

 

もう充分だと判断した木庵は再び目を閉じて念じた。

目を開けると時刻は現在の16時になっている。

追体験を終えた木庵はタバコを取り出し火をつける。

 

木庵は被害者が降霊術を行ったのなら、1人ではやらないと考えた結果、

怪異は降霊術を行なった人間を狙うとするならばもう1人の人間を狙う筈だと判断した。

 

「とりあえず、怜ってJKを探すか」

 

唯一、怜という少女が手掛かりだった。木庵は家を後にし立ち去る。

木庵は少女の事を全く知らない為、怪異の残穢を頼りに少女を追う事にした。

 

車に乗り込み、エンジンをかけると同時にタバコに火を付けた。

まずは1番残穢が濃い学校に向かう事にした。

 

「学校の近所まで来たが、さてとどうするかな  ッ⁉︎」

 

車を走らせる事20分くらいの距離で木庵は急停止した。

間違いない、昨日の怪異の残穢だ。学校まではまだ距離があるのに怪異の反応を察知出来たなら理由は一つ。

 

もう1人の狙われている少女を襲う為に違いない。

 

木庵は近くの公園に車を突っ込んで無理やり停めると飛び出るように出て

車のトランクを開けた。トランクの中から使えそうな道具を探す。

 

「かなり近いな…住宅街じゃ派手な武器使えないし。これでやるしかないか」

 

木庵は大量にある武器や道具の中から適当に掴み取り、公園を走り抜ける。タバコの吸い過ぎで、すぐに息が上がるがお構いなしに走り続けた。

 

公園を抜けると今まさに被害者を殺害した怪異がもう1人の関係者である

怜を襲おうとしていた。

 

「やっと会えたなクソッタレが」

 

木庵はコートのポケットからメリケンサックを取り出すと指に嵌め、ストレートを放つ。

怪異相手に素手は無謀だが、木庵が使用したのは勿論、ただのメリケンサックではない。

 

仏像を溶かした鉄を使い、退魔の術式を刻印し、更に聖職者である僧侶の

法衣を巻き付けた悪ふざけのような祓い用の武器だったが中々使えると発案した木庵は思わずガッツポーズを取る。

 

そんな対怪異の属性を増し増しにした武器で殴られた怪異は顔を拳の跡が残るくらい強烈な一撃を食らい大きく吹き飛んだ。

 

「大丈夫か?」

「…気分が悪くて吐きそうです…」

 

木庵は腰が抜けてその場に座り込んだ女子高生 篠山 怜に手を差し出す。だが、怜は未だに蹲ったままだ。

 

「瘴気の影響か。ちょっと待ってろ」

 

そう言って木庵は塩が入った袋を取り出すと袋の封を開け、怜を囲むようにして大量の塩を円形状に撒く。塩には古来より清めの効果があるとされ

祓い屋達の間ではポピュラーなアイテムだ。その塩で対象を囲めば簡易的だが怪異相手には絶大な効果を発揮する結界となる。

 

そして、木庵はタバコに火を付けた。木庵はそのまましゃがみ込むと怜の顔に向かってタバコの煙を吐き出す。

 

「⁉︎ ちょ…何するんですか…クサッ… ゲホゲホッ… もう、無理吐く…」

「悪いな、魔除けだ」

 

タバコの煙を吹きかけられて限界が来たのか堪らずその場に嘔吐する。

ひとしきり嘔吐した怜は先程より頭痛や体の怠さがマシになっていた。

 

「いきなり、塩ぶち撒けてタバコの煙を吐くなんて…なんなんですか一体…警察呼びますよ…」

「だから魔除けだって言ったろ。死にたくないならその塩のサークルから出るなよ」

 

言うのが面倒だったから言わなかったがタバコの煙にも魔除けの効果はある。古来、モノノケや妖の類に化かされたらタバコを吸うと正気に戻るとされていた。一般的には線香やお香等がそれに含まれる。

 

先程、木庵が行ったのはタバコと塩を用いた簡易的な魔除けである。

 

当事者の怜からすればいきなり中年の男が来て化け物を殴り、塩を自分の周りに撒いた挙句、タバコの煙を吹き付けられたのだ。

普通なら事案モノだからたまったものではない。

 

「…こんな怪しい事いきなりするなんて、不審者極まりないですよ…」

「まぁな、俺もそう思う。だが、さっきよりマシになったろ?」

 

そう言われてみれば吐いた時より体調が良くなっていると怜は自分でも分かるくらいには快復していた。

 

「言われてみれば確かに…」

「魔除けが効いたんだな。そこに居ろよ、あのクソッタレをぶっ飛ばしてくる」

 

怜の体調が良くなってきた事を確認した木庵は怪異に向き直る。

 

怪異は起き上がると先程までのぎこちなさが嘘のように素早い動きで駆け寄り、木庵を叩き潰そうと手を振り上げ一気に振り下ろす。

 

木庵は最小限の動きで怪異の攻撃を躱す。叩き付けられた一撃がアスファルトを砕く。人間が食らえば軽くミンチになるような攻撃だが木庵は攻撃を避け、怪異にボディブローを叩き込む。そして続け様に左フックをお見舞いした。

 

「殴り合いは俺よりもアイツの方が得意なんだがな」

 

木庵は仲間の1人である、徒手空拳を用いて怪異を祓う祓い屋の女性を思い浮かべる。

 

怪異は今度は腕を横凪に振るうも木庵は姿勢を低くして難なく避けた。

懐に入り込んだ木庵はガラ空きの胴体にストレートを叩き込む。

怪異は衝撃に耐え切れず、体をくの字に曲げる。そして木庵は隙だらけの怪異の顎にアッパーカットを放った。

 

怪異特効のメリケンサックで殴られ続けた怪異は黒い血を吹きながら限界が近いのか体がひび割れていく。木庵はそれを見逃さず次々に胴体に攻撃を加えていく。ひび割れの箇所が先程よりも大きく広がってきた。

 

そして、木庵はひび割れが最も大きい箇所目掛けて渾身のストレートを放った。

 

『ーーーーーーーー!!」

 

遂に今の一撃で限界が来たのか怪異は声にならない断末魔のような叫びを上げて砂になりながら霧散した。

 

 

「木庵選手、TKO勝ちだ。クソッタレが」

 

怪異を祓った木庵はタバコを取り出し、火を付けた。

タバコの煙を吐き出しながらまずは一仕事終えた余韻を感じる。

 

「あの!」

「なんだ?」

 

怪異が祓われた事で瘴気の影響が無くなったのか怜は木庵に話しかける。

 

「今のってなんなんですか!ちゃんと説明してください!」

「説明する前に俺からも質問だ。 お前、降霊術やっただろ?」

「⁉︎ どうしてそれを⁉︎」

「まぁ、待て。軽くだが説明してやる」

「昨日起きた横田一家の殺人事件、ソイツを引き起こしたのが今、祓った怪異…幽霊みたいなのが原因だ。俺はそういうバケモン退治の仕事をしてる」

「つまり、霊能者的な人ですか?」

「あー…まぁ、それでいいや」

「じゃあ、今ので全て終わったって事ですか?」

「いや、まだだ。お前の学校に元凶が憑いてる。今祓ったのは元凶がよこした下っ端みたいなモンだ。 とりあえず時間がない。下っ端とはいえアイツの配下を祓ったんだ。何をするか分からねぇ」

「学校って一体どうするんですか⁉︎」

「学校に憑いてるなら学校に行くしかないだろ」

 

木庵はそう言い踵を返し、車の方に向かおうとする。

 

「待ってください!わ、私も行きます!」

「…いいのか。自分から危険なとこに行くんだ。安全は保証出来ねーぞ」

「私達の所為でこうなってるんです。何も出来ないけど、私には見届ける義務があるんです!」

「めんどくせーな…何が起こるか分からない。俺は責任取らねーからな」

「分かりました…!」

「行くぞ。来い」

 

無力ながらも責任を取ろうとする怜の気持ちも木庵はよく分かる為、それ以上は何も言わなかった。

 

木庵達は車に乗り込む。木庵はエンジンをかけ、窓を開けると即座にタバコに火を付ける。その様子を見ていた怜は木庵に対して顔を顰める。

 

「あの… 未成年なんで配慮してもらえると…」

「無理だ。タバコは俺の生きがいだからな。嫌なら車から降りろ」

「ア、ハイ…」

 

今のやり取りだけでタバコを止めさせるのは無駄だと判断した怜は学校に

着くまでの間、煙と戦う事になった。


学校の前に車を停めた木庵は学校の様子を見るなり眉間に皺が寄る。

 

「マジか、思った以上にヤバい」

「え、どうヤバいんですか?」

「学校が異界と化してるのはまだいい。まさかここまでとはな…」

 

ヤバいと判断したには理由があった。夕方の学校なら教員や部活の生徒がいる筈なのに誰一人としていなかった。

怪異が学校全体を異界化させていた。そして木庵程の祓い屋が顔を顰めるくらい禍々しい雰囲気が漂っていた。

 

「そんなにヤバいなら、他の人達は⁉︎」

「大丈夫だ、怪異を祓えば元に戻る。この学校はお前が知っているいつもの学校じゃない。怪異が支配する別の空間みたいなモンだ」

 

木庵は車のトランクを開けて、道具類をバッグに詰め込む。

 

「異界化してるなら好都合だ。派手なヤツも使える」

「何持って行くんですk… うわ…」

 

トランクに詰め込まれた祓い道具を見て怜はドン引きする。銃火器、弾薬、刃物、瓶に入った得体の知れないナニカ、他にも大量の何に使うか分からないモノ。このドン引きされる様子も木庵は慣れっこだった。

 

「こんなの職質されたら一発アウトですよ」

「大丈夫だ。問題ねーよ」

「いやいやアウトですって」

「だから大丈夫なんだって」

 

確かに怜の言うように職質でもされれば間違いなく逮捕されるが、実際のところ怪異対策機関は警察に目を瞑れと言い聞かせてる為、逮捕はされない。だが、木庵は単純に説明するのが面倒なだけだった。

 

「おい、これ持ってろ」

 

木庵はそう言うと、布のようなモノを渡す。

 

「なんですかこれ?」

「異界に入るんだ、さっきみたいに瘴気に充てられたらヤバいだろ。坊主の袈裟だ、魔除けになる」

「こんなので防げるものなんですね」

「いいから持ってろ」

 

異界は瘴気が充満している為、耐性のない者が入ると危険だ。

魔除け代わりの聖職者の袈裟があれば、ある程度は一般人でも耐える事が出来るのである。

 

校門を抜けて、中に入ると外とは様子が明らかに変わった。

 

「あれ、夕方なのにだったのに中は真っ暗…」

「この中じゃ今までの常識は通用しない。気にすんな」

「気にするなって言われても…」

 

怜がそう思うのは無理もない。校舎は赤黒く錆付き、地面は真っ赤に染まり目玉のようなモノが砂の代わりに敷き詰められている。

中は真っ暗だったが、木庵が持ってきていた松明のお陰で暗くても問題は無かった。

 

「さ、さっきの化け物ですよ!どうしよう…」

「ほっとけ、お前が袈裟羽織っている限り雑魚は寄ってこれねーよ」

 

先程、木庵が祓った低級の怪異が何体も校庭を徘徊していたが、魔除けの松明の効果でこちらを見てくるだけで何もしてこない。魔除けの松明も説明をするのが面倒だったので袈裟の効果という事にした。

 

歩く度に目玉が潰れ不快な感触が伝わるが、木庵はお構いなしに校庭を抜け、校舎に進む。怜もやっとの思いで校舎に入った。

 

校舎の中も外と同じように辺り一面、血と錆だらけだった。そして先程、木庵が祓った低級の怪異が何体も廊下を歩いていた。木庵は気にする事もなく、怪異の側を通っていく。

魔除けの効果で怪異は襲うどころか離れていった。

 

 

「降霊術はどこでやった?」

「私の教室でやったから… 3階です」

「階段か…仕方ない。それとどんな降霊術だ?手順は? 」

「えっと、確か、紙の中に鳥居を描いて五芒星で囲って、私達の血を混ぜた酒を用意して強く念じて、刺激的な学校生活になるようにって願いました…」

「…一つ教えてやる。お前等がやった降霊術は間違ってる」

「え、どこがおかしいんですか?」

 

怜から降霊術の詳細を聞いた木庵はため息を吐く。

 

「いいか、鳥居を五芒星で囲んで、生贄代わりの血液、供物の酒、こんなの出鱈目もいいとこだ。」

「まず、ただの降霊術じゃない。術者の血液で意図的に他の霊より力の強い悪霊を呼び寄せ、鳥居を潜らせる事で擬似的に神扱いして更に神であると概念を植え付ける為に供物の酒を使った。この手段で悪霊を神格として

扱い使役するのがコイツの手順ってとこだ。」

 

「そんな危険な術だったなんて…私…」

「知らなかったか?いいか、2度と遊び半分でこんな事するな。」

「お前達みたいな遊び半分で危険な事するアホの所為で俺達の仲間にも死人が出るんだ。お前達は遊び感覚だが俺達みたいな奴が尻拭いをしてんだ

自覚しろ」

 

肝試し然り、降霊術然りで遊び半分でやったとしても怪異はそこにつけこんで対象を取り殺す。そしてそんな怪異を祓うのが木庵達、怪異対策機関である。   

 

だが、木庵が言ったようにこの仕事は基本、命懸けだ。

 

皆、仕事だから仕方ないと割り切ってはいるが、自業自得の被害者を助けるのは正直なところ嫌だったりする祓い屋も少なからず居る。

 

「くだらない事話し過ぎたな。行くぞ」

「は、はい…」

 

木庵は怪異の発生源と思われる教室に行く事にした。階段を登る事2分。

 

目的の階に到着した木庵はタバコを取り出し、火を付けた。

こんな時でもタバコを吸う木庵を訝しげに見るが言っても無駄なので怜は何も言わない。

 

「そこの教室です」

「だろうな。この教室だけ"濃い"からな」

 

木庵は怪異の大元がいるであろう教室の扉を勢いよく蹴破る。

蹴破ったドアから濃い瘴気が漏れ出す。

 

袈裟を羽織っている怜ですら思わず立ち竦む程の濃い瘴気。

だが、木庵はタバコを吸いながら平然としていた。

 

「そこにいろよ」

「は、はい…」

 

木庵はそう言い残し、教室の中に入っていった。

 

「お前もここまでだ、覚悟しやがれクソッタレ」

 

中に居たのは、配下の下っ端とあまり変わらない2m以上の長身、痩せ細った体に長い手、だが、配下とは違い能面を被っていた。だが禍々しさは配下とは比べ物にならない。怪異はただこっちを見ているだけだ。

 

木庵は様子見に散弾銃を構え、引き金を引く。2発分の弾が叩き込まれるが怪異は無反応だった。

 

「(コイツ… 退魔の弾丸が効いてないだと? やっぱり神格扱いされて霊格が上がってやがるのか… )」

 

本来なら怪異の階級問わず、退魔の術式を刻んだ銃弾は効果はあるのだが

降霊術の影響で怪異の霊格が上がっており全く効果がなかった。

 

今、木庵が持っている武具は恐らく、効果がないだろう。

銃がダメならと、バッグに銃を仕舞いポケットからメリケンサックを取り出し嵌める。

 

「何涼しい顔してんだテメー。今度は殴り合いといこうや」

 

怪異は素早い動きで一気に木庵に肉薄する。そして両手で腕を振り下ろすもそれを予想していた木庵は椅子を怪異に投げ付ける。

 

怪異は投げ付けられた椅子を片手で破壊すると木庵に向き直る。

一瞬とはいえ、隙が生じた。木庵はすかさず、ボディブローを叩き込んだ。怪異は少しだが怯む。

 

そして怯んだ体勢を見逃さず、更に左のボディブローを放つ。流石に耐え切れなかったのか片膝を着いた。

殴られた箇所に拳型の焼印が浮かび上がる。

 

「よし、やっぱり物理が1番だな」

 

メリケンサックの方は効果があったようで、木庵はニヤリと笑う。

 

再びを立ち上がった怪異は体を小刻みに震わす。両腕の付け根がボコボコと泡立ち始めた。やがて体を突き破り、左右の新たな腕が生えてきた。

 

「来いよ」

 

木庵は咥えていたタバコをぺっと吐き出し、構えを取る。

怪異は4本に増えた腕を木庵目掛けて一斉に伸ばす。

それぞれの腕は木庵を殴りつけようとタイミングをズラして攻撃してくる。

 

「ッ…!」

 

だが、木庵はサイドステップ、ダッキングを駆使して攻撃を全て躱す。

 

「殴り合いは俺の専門外だがラウンド2と行こうや」

 

余裕のある素振りを見せるが木庵の内心には焦りがあった。

本来なら木庵の戦い方は一芸に特化した祓い屋ではなく、あらゆる術式をオリジナリティを交えて使いこなす器用さが祓い屋としての強みだが本人が自負するように、殴り合いは得意では無かった。本人が苦手というだけで腕前は確かであるが。

 

間髪入れずに次の攻撃が木庵を襲うも、体を半身捻り避ける。

 

バッグに手を突っ込み少し探した後、ある道具を取り出す。

そして怪異の腕が伸び切った関節部分にソレを突き刺した。

突き刺した数秒後、爆音と共に4本の腕の内一本が吹き飛んだ。

 

「神格化しても所詮は悪霊か」

 

先程、木庵が怪異の腕を吹き飛ばした道具は神木の杭に爆弾を括り付けたお手数の武器である。  

 

硬い肉質でも刺しやすい杭の形に削り、突き刺した後も怪異が杭を抜けれないように塩水に浸してある為、怪異には杭を抜く事が出来ずに爆弾をゼロ距離で爆発させる事が出来る。

 

爆発後は神木が対象の奥に入り込むようになり、爆弾本体には護符を何枚も貼り付けてあり爆風自体にも対怪異の有効打となる。

 

「借りるぞ」

 

砂となり始め消えそうになっている吹き飛んだ腕を拾い上げ、鈍器の要領で怪異の顔に思いっきり振り抜く。

 

アスファルトを砕く力を持つ、一種の呪具と化した自身の腕で殴られた怪異は被っていた能面を砕き、顎を吹き飛ばされ大きく仰反る。

 

「かなり効くだろ?材料お前製の即席の呪具だちゃんと味わえよ」

 

怪異にダメージを与える手段の一つである、怪異そのものの力を利用する事で呪具と扱い攻撃するのは怪異相手でも充分な威力を誇る。

怪異の力を使い、怪異を祓うのは業界では珍しい事ではなく割と一般的である。

 

木庵は殴った反動で消える寸前の怪異の腕を放り、追撃を加える為踏み込むが…

 

「ぐあっ!」

 

腕を鞭のように振るい、ガードの体勢を取り更に後方に飛ぶも威力を完全に殺し切れず、教室を突き破り吹き飛ばされる。

 

「野郎、やりやがったな…久しぶりに玉が沢山出たと思ったらこれかよ…ツキがなくなったか…」

 

木庵は起き上がろうとするも体に激痛が走り、起き上がれなかった。

感覚的に左腕と肋骨が折れているのが分かる。

普段からズボラだが、たまに肝心なとこでポカをやらかすのが木庵という男である。一応、キメる時はキメるのだが今回は運が悪くポカの方を引いてしまった。

 

「だ、大丈夫ですか⁉︎ 」

「見ての通りこれから反撃開始だ」

 

木庵はそう言いながら、タバコを取り出して火を付ける。

 

怜はいきなり教室を突き破って廊下まで吹き飛んできた木庵を心配して駆け寄る。素人目に見ても左腕が反対方向に向いて血を吐いてる様子を見て木庵は強がっているのが分かる。

 

「で、でも腕とか折れてるし…大丈夫に見えないですよ!」

「怪我なんてしょっちゅうだから気にすんな」

 

怪異は木庵に動けなくした事で余裕なのかわざとゆっくりこっちに向かってきている。

 

「クソッタレが、余裕ぶりやがって」

「は、早く逃げないと!」

「先に行ってろ、あの野郎に嫌がらせしてから行くから」

「え、でも…あなたはどうするんですか⁉︎」

「いいから行けって ゴホッゴホッ…」

「分かりました… 私、あの時助けられた事を絶対忘れません。あなたがいないと私はあの時死んでました。ありがとうございました」

 

怜はそう言い残し、その場を去る。

木庵はバッグから拳銃を取り出し怪異に向けて発砲する。1発、1発と怪異の体に銃弾が突き刺さるもまるで意に介さないでゆっくりと近づいて来る。

 

木庵は次の一手をどうしようかとタバコを吸いながら考えていた。

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

「なんとかしないと…私がなんとかしないと…!」

 

 

怜はある場所に向かう為、廊下を走っていた。異常な状況が立て続けに起こるが、怜は何故だかこの状況に慣れつつあった。普通なら恐怖で絶叫し

気が触れてしまうようなこの異常な状況。

 

怖いとは思うが不思議と平気だった。自分達の所為で友達が死に命の恩人が死にそうになっている。そんなのは嫌だ、死なせる訳にはいかない、怜の中で恐怖より責任の方が勝ったからだ。

 

 

「あった! あ、けど鍵がかかってる… じゃあこれで!えいっ!」

 

怜は近くにあった消化器を手に取り、ドアの窓に叩き付ける。窓はいとも簡単に割れた。中に手を突っ込み鍵を開けた。割れた窓で手を切るがお構いなしにドアを開ける。

 

 

「材料は覚えてる…これで大丈夫…」

 

 

今、怜が入った部屋は家庭科室である。部屋の中にあった適当な紙を掴み取り、準備室から料理酒を取り出して、蝋燭を用意した。

 

怜は紙に鳥居を描き中に五芒星で囲む。蝋燭に火を灯し、器に酒を入れ怪我をした腕から血が流れていたので酒が入った器に入れる。

そして、怜は目を閉じて念じた。あの時と違い、今回は適当な願いではない。願いは決まっていた。

 

「お願いします、学校に取り憑いている怪異を祓ってください。私の命の恩人を助けたいんです。私が今回の責任を取らないとダメなんです。どうかお願いします」

 

 

息をするのも忘れるくらい強く念じた。時間にして1分くらいだが怜には

1分が永遠のように感じた。

 

息苦しさから目を開けると蝋燭の火が燃え盛っていた。血と酒が入った器が激しく波打ちだした。鳥居を描いた紙が端から塵になり始める。

激しい揺れが教室の中で起こる。椅子が倒れ、机が裂け、壁が潰されたようにひしゃげる。

 

怜は直感で理解した。家庭科室で起きた激しい揺れの原因が学校に憑いている怪異ではないと。もっと強大で恐ろしい存在。ソレが今、自分の手によって呼び出されたのだと。

 

前回は降霊術を中途半端に止めてキチンと終わらせなかった。そして、今呼び出した存在は封じ込め用の五芒星の結界から解き放たれようとしている。また周りに被害が及ぶそんな事は絶対に嫌だ。

 

「こうするしかないよね」

 

怜は怪異が封じ込められた紙をクシャクシャにして呑み込んだ。

その後、怜は意識を無くし覚えていなかった。

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

「あーあ、弾が尽きちまった。どうするかな、"アレ"をやるか?」

 

予備の弾倉も使い果たし、大量の薬莢とタバコが木庵の周りに散乱していた。弾切れで役に立たない拳銃を放り捨て、咥えていたタバコを吐き出し次のタバコに火を付ける。この状況を打開できる手段が今のところ最後の手段以外、特に思い付かなかった。

 

ただ死ぬだけじゃムカつくので怪異も道連れにしようとした時だった。

 

「ッ⁉︎」

 

廊下の奥にある教室から尋常じゃない程の濃い魔の存在を感じた。

神格化した悪霊である目の前の怪異が霞む程の存在。

 

「おいおい、コイツよりヤベーのが来たな。これ上級案件だぞ」

 

 

最悪のタイミングで最悪の存在。木庵は最後の手段の準備を始める。道連れだとか言っている場合ではない。ヤツ共々、今この場で祓わなければならない。

 

目前に迫っていた怪異が突然、動きを止めた。やがて小刻みに震え出す。

すると、怪異の体から刀が生えた。体から突き出た刀は刃を上向きにして

そのまま胴体から頭まで一気に引き上げた。

 

怪異は断末魔を上げる間もなく真っ二つに両断された。断面から黒い血が

雨のように降り注ぐ。黒い血を撒き散らしながら怪異は体の端から砂となり始め完全に消滅した。

 

異界を作り出した元凶の怪異が消滅した事により異界化した学校も元に戻り始める。空を覆っていた闇は硝子が割れるように砕けていく。血と錆だらけの校舎も砂になり、元の校舎に戻った。

 

 

外はいつの間にか夜になっていた。

 

 

「俺が油断したとはいえ、ソイツを一撃か。お前一体なんだ?」

 

 

怪異が消滅した後、そこに居たのは全身甲冑姿の鎧武者。顔は黒い靄がかかり、よく見えないが両目だけは真っ赤に光っている。そして最早神霊の域にある程の魔の力。中央の上級の祓い屋を全員集めれば祓えるかどうかの相手。ソレは刀を抜いたまま木庵を見下ろしていた。

 

 

木庵も相手の出方を伺いつつ、即座に術式を発動出来るようにしていた。

お互いに見合ったまま一歩も動かないがやがて鎧武者は刀を収めた。

 

「利口だな、お互いその方がいいだろ」

 

そしてこちらに何もしないまま、鎧武者は砂となり消えていった。

まるで獲物はお前じゃないと言わんばかりに特に敵意は感じなかった。

 

「なんだ還ったのか?おーい、出てこいよー」

 

話し合いが通じる相手でもないと思っていたが、案の定木庵の呼び掛けには反応しなかった。

 

「つーか、あのJKどこ行った?」

 

木庵は怜を探そうと重たい体を起こし、新しいタバコを取り出し火を付ける。

とりあえずは先程の鎧武者の気配を感じた奥の教室に向かって歩き出す。

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

「あれ、ここどこ?教室じゃないよね?」

 

 

一方で怜は夢を見ていた。いや、正確には夢ではなく自身の深層心理とも言うべきところに意識はあった。何もない真っ暗な空間に怜はいた。

 

「私もしかして死んだ?」

 

ガシャ…ガシャ… 喧しい音が後方からするので怜は思わず振り返る。

 

「あ、あの誰ですか?」

 

全身甲冑を着込んだ、鎧武者の男が後ろに立っていた。顔は靄みたいなのがかかっていてよく見えない。だが目だけは真っ赤に光っていた。

その男はザラザラとノイズ混じりに話し出した。

 

『ヲ前が私を呼ン惰乃da』

「そうか、私が呼んだのがあなたなんですね」

 

代償に自分の命を取りに来たのかと思い、怜は不思議と怖い気はしなかった。

 

「私は死ぬのは怖くありません 責任を果たしただけです」

『…』

 

鎧武者は何も言わず微動だにしない。

 

『ソ野命を貰ウニハま拿早イ』

「え、」

 

怜の聞き間違いじゃなければ今、確かに鎧武者は"その命を貰うにはまだ早い"と言った。

 

『ヲ前の魂波まだ穢レ手イ内 我ガ欲しイ野は穢れタ魂ガ欲しイ野打」

『此ノ先、あラ夢流試練ガ訪レ留駄路ウ 其ノ先にハ破滅が待ツ、20年ゴ

ヲ前野魂を貰ウ煮に相応しイ 2住年五ダ』

「20年後に私は死ぬんですね、今じゃないだけよかったです」

 

20年後に怜は死ぬ。そう告げられたのに怜の気持ちは晴れ晴れとしていた。責任を果たせる為、怜はその運命を受け入れる事にした。

そう言い残し、鎧武者の男は消えていった。

 

「…い お…い だい…か」

 

 

 

ーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

木庵はあの時魔の気配を感じた奥の教室、家庭科室に辿り着いた。

倒れていた怜を発見した。周りに散らばっていた降霊術の形跡を見て、木庵は全てを察した。怜本人は傷はないようだが意識がない。

 

「おい、おい大丈夫か?」

「⁉︎ わ!大丈夫ですか⁉︎ 私、アレ?なんか終わって…? え?」

 

 

木庵は怜の頬を叩く。何度か叩いた後目を覚ました。

怜は鎧武者を呼び出してから今まで意識を無くして、眼が覚めると全て終わっていたので軽くパニックになる。

 

「お前…自分が何したか分かってんのか」

「勿論分かってますよ。責任取るって私は決めてましたから」

「あなたの所為じゃないです。私が招いた事です」

「その果てに死んだとしてもか」

「悔いはありません。あの時に親友を助けれなかった時点で私はどうなろうと構いません」

 

 

怜は既に最初から覚悟していた。どうなろうと自分の命で贖うつもりだった。そして結果、怪異と契約をしてしまった。

 

一点の曇りも無い、怜の強い眼差し。

木庵はかつて全て勢いだけで祓い屋として駆け抜けた学生時代を思い出しし、思わず懐かしさが込み上げる。

 

「分かった、お前をこれから本部に連れて行く。境遇はともあれ怪異をその身に宿しているんだ、そこで全て決まる」

「何がですか?」

「行けば分かる」

 

木庵は怜を本部に連れて行く事にした。とりあえず、まずは検査だろう。憑いている怪異の正体、その後の処遇。憑いている怪異の力は尋常じゃない。もし祓い屋として生きていくならどれだけ強いだろうか。思わず笑みが溢れる。

 

「あ、そうだ。あなたの名前は何て言うんですか? 私は篠山 怜です」

「木庵 琉州だ」

「木庵琉州… あれ… なんか…もしかしてキアヌ・リーブスのファンだったりします?」

「ゴホッ!ゲホッ!」

 

木庵は怜の疑問に吸いかけたタバコで思わず咽せてしまう。

 

「あの、大丈夫ですk」

「うるせぇ、文句あんのか?」

「いや無いですけd」

「ならいいだろが気にすんな」

 

怜の疑問も最もである。偽名にしか見えない名前だが事実、ある映画を見てからそれ以降キアヌ・リーブスのファンになっていた。

この偽名も彼から捩ったモノである。

 

「名前聞いた時になんか妙に引っかかるなって思いました」

「おい、その下りもういいだろ。ちょっと待ってろ本部に連絡するから」

 

木庵は事後処理と怜の処遇を決めてもらう為、本部長に連絡する事にした。何コールかして本部長と電話が繋がる。

 

「木庵です。はい、任務完了です。事後処理頼みます。それとワケアリ見つけたんで、処遇決めてもらえたら。はいー、それじゃ」

 

電話を終えた木庵は学校を後にする。この先、怜がどうなるか分からないが道を歩み出した。そうなると後は進むしかない。自身の経験から怜に訪れる未来を想像した。

 

 

「あの木庵さん、私はどうなるんですか?」

「今日は帰れ。明日学校終わったら名刺に書いてある住所に来い。応急処置はしたけど俺重症だし早く治療したいんだよ」

「でも、その割には平気そうですね」

「だから言ったろ応急処置だ。腕はともかく体だけは動けるようにした」

 

そういうと木庵は名刺を怜に渡した。

 

「じゃあな、俺は帰る。タクシー代やるからお前も帰れ」

 

木庵は車に乗り込み、タバコに火を付けそのまま去って行った。

1人残された怜はタクシー会社に連絡して手配してもらった。

来るまでの間、木庵に貰った名刺を眺める。

 

 

「最後までマイペースな人だったなぁ… 中央怪異対策機関…か。明日になれば分かるかな…?」

 

怜もタクシーが来たので乗り込み家に帰る。帰りながら叔母への言い訳を考える事にした。

 

 

 

to be continued...


なんとか2話目出来ました。

想定の倍以上の量になってしまった…

色々駆け足だったり展開に無理があるだろと思いますがご了承ください。

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