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中央怪異対策機関  作者: Proto1
13/15

FILE No.9「闇病」前編

モチベがある内に続き書いとこうと思ったので、9話目です。


見てくださってる方達、お気に入り登録してくださってる方ありがとうございます。これからも頑張るのでよろしくお願いします。


やっぱスパナチュは最初の方のロードムービーみたいな形式が一番面白い。

黒いコンフォートが、山道を走っていた。

夜霧が濃い。

ヘッドライトに照らされた白い霧が、フロントガラスの向こうでゆっくり流れていく。

 

木庵は片手でハンドルを握りながら、タバコを咥えていた。

車内へ薄く紫煙が漂い、開いた窓から外へ流れていく。

 

木庵は灰皿へ灰を落とす。

そして、助手席に置いた資料を一瞥する。

 

【対象:旧倉橋総合病院】

【怪異等級:下級】

【怪異名称:闇病】

 

下級怪異だが閉鎖空間で長年放置された廃病院。

そして近年頻発していた、不法侵入による事故。

 

怪異は“見られる”事で強くなるタイプもいる。

特に闇病はその傾向が強い。

だから本来なら、とっくに祓われていてもおかしくない案件だった。

 

だが、優先順位の問題で後回しになっていた。

そして今日。営業側から正式に祓いの依頼が来た。

 

木庵は煙を吐きながらぼやく。

 

「……面倒くせぇ」

 

小さく漏らした時だった。

 

山道を抜けた先。霧の向こうに、廃病院のシルエットが見え始める。

 

割れた窓に崩れた外壁。黒ずんだ建物。

 

そして駐車場へ停まっている、一台のワゴン車。

 

木庵の目が細くなる。知らない車だった。

車を見た瞬間、木庵の額へ青筋が浮いた。

 

「クソッタレが」

 

木庵は乱暴にスマホを掴み、即座に電話をかけ始めた。

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーー

 

 

     

同時刻。

 

中央怪異対策機関・営業部。

 

デスク上へ並んだモニターの光が、室内を白く照らしていた。

 

電話の音にPCのキーボードを叩く音が響く。

営業部は夜でも静かに忙しい。

 

その中央。

 

白石は報告書へ目を通したまま、小さく眉を下げた。

 

「……霊感持ちですか」

 

向かい側では、新人営業が青い顔で立ち尽くしている。

 

「すみません……人払い結界の張り方が甘くて霊感持ちまで考慮してませんでした…」

 

声が震えていた。

それを聞いて困ったように息を吐く。

 

「可能性を考慮しなかった私のミスでもあります」

 

柔らかい声だった。

それが逆に新人の肩を縮ませる。

 

「申し訳ありません……」

 

その時だった。 

 

営業部の扉が勢いよく開く。

 

「白石部長!」

 

別の営業部員が、息を切らせながら入ってきた。

 

「ヤバいです!アイツら生配信始めました!」

「⁉︎ モニターに出して!」

 

営業の男がPCを操作して、画面を表示した。

白石はそれを見つめたまま、静かに眉を寄せていた。

 

モニターへ映っているのは、SNSの配信アプリ。

 

『ガチで幽霊が出る廃病院へ凸してみたwww』

 

コメント欄は異様な速度で流れている。

営業部員達も、完全に空気が重かった。

 

「白石部長……」

「これはマズイぞ…」

 

このままの状態で怪異と遭遇すれば一般人が死ぬ。

 

しかも最悪なのは、“生配信中”という事だった。

記録が残る。拡散される。切り抜かれる。

営業側からすれば最悪だった。

 

そして、もう一つの嫌な予感が胸を過ぎる。

 

「映像処理班へ連絡お願いします。転載、ミラー、保存含めて追って下さい」

「はい!」

「警察側にも根回し。最悪、事故処理になります」

 

指示を受けた営業部が一斉に動き始めた。

 

白石のスマホが震える。画面に表示されていたのは、

 

ー木庵 琉洲ー

 

最悪のタイミングだった。白石は静かに目を閉じた。

間違いなくキレている。長年の経験で分かる。

 

「……はい」

『おい白石、どうなってんだ』

 

怒鳴り散らしたりは無いが、確実に向こうの温度が伝わる。

白石は即座に頭を下げた。

 

「申し訳ございません」

『知らねぇ車が停まってんぞ』

「……はい」

『どういう事だ』

 

白石は小さく息を吐く。言い訳は出来ない。

 

「…こちらのミスで人払いの結界内に一般人が侵入しました」

『白石テメェ…』

「そして、中で生配信をしています…」

 

木庵の目が細くなる。

 

『おい冗談だろ?』

「本当に申し訳ございません」

 

相手は下級怪異。

だが、今回は条件が悪かった。

 

彼等の恐怖心。

 

そして、“視線”。運悪く生配信をしている所為で更に多くの人の目に晒される。

闇病は、それらを餌に自身の格を上げていくタイプだ。

 

『どうなっても知らねーぞ』

「分かっています…」

 

白石の声は静かだった。

 

『営業側で後処理は全て行います』

 

だが、その声の奥には責任感があった。

 

『ですので、彼らの事をお願いします…』

 

木庵はしばらく黙る。

それから、小さく舌打ちした。

 

『まぁいい。祓いはキッチリやってやる』 

「よろしくお願いします…」

 

そう言って木庵は電話を切る。

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

「――はいどうもぉ!!」

 

ライトが、暗闇を白く照らした。

 

「“オカルト探索ch”でぇす!!シンジと!ユウイチにそして」

「ミユキに!」

「ナナでーす!」

 

茶髪の男――シンジが、カメラへ向かって笑う。

その後ろには、巨大な廃病院。

 

コメント欄が流れる。

 

『病院きたwww』

『また心スポかよw』

『今日ガチっぽくね?』

 

シンジは笑いながら病院へライトを向けた。

 

「今日はマジでヤバい場所来ました」

 

後ろでミユキとナナが笑う。

 

「普通に雰囲気ヤバくない?」

「今日バズれそうじゃん」

 

コメント欄も盛り上がっている。

 

『死亡フラグで草』

『絶対やらせ』

『後ろ誰かいた?』

 

その中で最後尾のユウイチは、一人だけ笑えていなかった。

 

嫌な汗が止まらない。この病院を見ていると、呼吸が浅くなる。

 

静かすぎる。山の中なのに風もない。それに虫も鳴いていない。

まるでこの病院だけが、世界から切り離されているみたいだった。

 

「……なぁ」

 

ユウイチが小さく言う。

 

「今日やっぱやめね?」

 

シンジが笑う。

 

「ん?何言ってんだ?」

「いや……ここマジでヤバいって」

 

『ビビってて草』

『前フリうまw』

『じゃあ帰れ帰れw』

 

シンジはわざとらしく肩を竦めた。

 

「まぁ本当に幽霊出たら神回確定だろ」

 

そう言って廃病院の入口へ、足を踏み入れた。

 

廃病院の中は、外よりずっと寒い。入口を潜った瞬間、空気が変わる。

 

湿っている。

 

古い薬品みたいな臭いと、カビ臭さが混ざり合い、喉の奥へじっとり張り付いてくる。

 

シンジはスマホを構えたまま笑った。

 

「うわ、普通に雰囲気えぐ」

 

ライトが暗い受付を照らす。

 

ひび割れた床。倒れた車椅子。

受付カウンターの奥には、書類が腐って黒く変色していた。

 

コメント欄が流れる。

 

『作り込みすげぇ』

『ここガチ感ある』

『後ろの車椅子動いてね?』

 

「やめてよwwマジ怖いじゃん」

 

ミユキが笑いながら言う。だが声は少し引き攣っていた。

 

自分達の声だけが、やけに響く。

ユウイチは入口を何度も振り返っていた。

 

嫌な感じが消えない。入った瞬間から、ずっと背中が重い。

 

誰かに見られている。

そんな感覚だけが消えなかった。

 

「なぁ、もう帰らね?」

 

再びポツリと漏らす。

シンジが呆れた顔をする。

 

「だから何怖がってんだよ」

「いや、マジで――」

 

その時だった。廊下の奥。

 

カタン、と音がした。

 

全員が止まる。音のした方向にライトが揺れる。

暗い廊下のその奥。何かがいた気がした。

 

ミユキが笑いながら言う。

 

「今の絶対シンジでしょ」

「いや俺じゃねぇって」

 

『うしろ誰かいたぞ』

『白衣いた』

『ガチで映った』

 

コメント欄がざわつく。

 

シンジは笑いながら廊下へライトを向けた。

 

「やめろってマジで」

 

白い光が、暗い廊下を照らす。

 

誰もいない。

 

……はずだった。

 

廊下の突き当たり。

 

一瞬だけ。

 

白い何かが見えた。

 

長い髪に白衣を来た俯いてる女。

だが、ライトが当たった瞬間、消える。

 

空気が止まる。

 

「……え」

 

ナナが小さく声を漏らす。

シンジも笑顔が止まっていた。

 

コメント欄だけが加速する。

 

『今いた』

『白衣の女いたぞ』

『え、怖』

『やらせならクオリティ高すぎ』

 

それを見たユウイチの顔色は完全に死んでいた。

 

呼吸が浅い。喉が締まる。

 

病院の奥から、何かがこっちを見ている。

そうとしか思えなかった。

 

「……帰ろう」

 

今度は本気の声だった。

だがシンジは、逆に興奮していた。

 

再生数。コメント。同接。

全部が伸びている。

 

「いや待って、これマジで神回じゃね?」

 

その時だった。

 

パチッ。

 

ライトが一瞬暗くなった。それを見た全員が固まる。

 

「……は?」

 

シンジがライトを叩く。幸いにもすぐ戻る。

だが廊下の奥が、何故かさっきより暗い。光が届いていない。

 

いや。

 

届いているのに、“見えない”。そこだけ、異様に暗い。

 

ユウイチが後退る。

 

「おい……」

 

喉が震えている。

 

「なんかいるって」

 

『奥なんかおる』

『ライト届いてなくね?』

『暗すぎる』

 

コメント欄がざわつく。

 

その暗闇がゆっくりと動いた。

 

ぐちゃり。

 

湿った音。

 

壁から、黒い影が剥がれるみたいだった。

細長い腕。異様に長い首。赤黒く濡れた身体。

 

人間じゃない。

ソレが、廊下の暗闇から這い出してくる。

 

悲鳴が響いた。

 

「なにあれッ!!?」

「ヤバいヤバいヤバいヤバい!」

 

シンジのライトが激しく揺れ、影が動く。

その影が勢いよく、四つ這いで天井を走る。

 

コメント欄が爆発的に流れ始める。

 

『え?』

『こっっわ』

『CG!?』

『AIだろ』

『待って無理無理無理』

 

ユウイチが無意識に後ろへ下がる。

だが、何故かぶつかった。

 

「……え?」

 

全員の顔から血の気が引く。入口がない。

さっき通ってきたはずの場所が、壁になっていた。

 

シンジが笑いながら言う。

 

「……いやいや、待って待って」

 

だがその声は震えている。

 

ミユキが泣き始めた。

 

「帰れないってどういう事!?」

「歩いてる時に別の場所に来ただけだろ!?」

「でもそのドア、ここに入る時に見たヤツじゃん!」

 

有り得ない、そんな状況が続きパニックになる。

病院全体の照明が、一瞬だけ点いた。

 

バチバチッ!!

 

白い蛍光灯。廊下が照らされる。

 

そして。

 

“ソレ”が見えた。

 

廊下の天井。壁。床。

 

そこら中に。

 

黒い人影がいた。何十体も。全員、顔がない。

白い目だけが、光っていた。

 

再び照明が落ちる。

 

辺り一面を包む闇。

女の笑い声みたいな音が響いた。

 

ユウイチの膝が崩れる。

 

「……ぁ」

 

息が出来ない。空気が重い。

 

瘴気。

 

だが一般人の彼らに、そんな言葉は分からない。

ただ、ジワジワと蝕む感覚だけは身体を通して分かる。

 

そして廊下の暗闇が、ゆっくりこちらへ近付いてきた。

 

思わずライトを向ける。

照らしてる筈なのに真っ暗のままだ。光が届いていないんじゃない。

 

違う。

 

ライトの光そのものが、飲み込まれている。

シンジの手元でLEDライトが激しく明滅する。

 

パチ、パチッ、と不安定な音を立てながら、白い光がどんどん弱くなっていく。

 

「お、おい……」

「ねぇ、どうすんのコレ!」

 

シンジの声が引き攣る。

隣では、ミユキが半泣きでスマホを握り締めていた。

 

「なにこれ……なにこれぇ……」

 

ナナは、完全に呼吸が乱れている。

肩を震わせながら、何度も後ろを振り返っていた。

 

「帰ろ……もう帰ろって……」

「泣くなよ!入口がねぇんだって!」

 

出口がない。さっきまであったはずの入口は、灰色の壁へ変わっていた。

 

窓も開かない。

ガラスの向こうは真っ黒だった。

 

まるで病院全体が、巨大な箱へ変わってしまったみたいだった。

 

コメント欄だけが流れ続けている。

 

『演出やばw』

『クオリティ高すぎ』

『怖すぎて逆に笑う』

『え、これガチ?』

 

誰も信じていない。

画面の向こう側では、全部“配信”での"演出"扱いだった。

 

その時だった。

 

ぐちゃり。

 

湿った音に全員の視線が止まる。

 

廊下の壁。

そこから、“何か”が這い出していた。 

 

赤黒い塊は人の形をしているのに、人間じゃない。

 

顔の半分が潰れた患者。首が折れた看護師。

白衣を着た女。

 

それらが壁の中から、ゆっくり滲み出るみたいに現れる。

 

ナナが悲鳴を上げた。

 

「いやぁぁぁッ!!」

 

シンジがライトを向ける。

光が当たった瞬間、怪異達が一斉に顔を上げた。

 

白い目。

 

そこだけが異様に光っている。

ユウイチの全身から嫌な汗が吹き出す。

 

「見るな……」

 

無意識に呟いていた。

 

「目ぇ合わせるな……」

 

そして病院の奥で暗闇の中、“何か”が動く。

 

ぐにゃり、と。

 

空間そのものが歪むみたいだった。

 

そして。

 

廊下の奥から、黒い闇が流れてくる。

液体みたいに光の届かない場所そのものが、這い寄ってくる。

 

ミユキが泣きながら叫ぶ。

 

「無理無理無理無理ッ!!」

 

シンジも完全に顔色を失っていた。

さっきまでの余裕は消えている。

 

再生数も。コメントも。全部どうでもよかった。

本能だけが叫んでいた。

 

逃げろ。

 

ここにいてはいけない。

そう思い、シンジは配信を終了しようと停止ボタンをタップするが何故か反応しない。

 

何度も何度も試したが配信が終了にならず画面はそのままだ。なのにスマホを自身の正面に向ける。

 

「いつまで配信なんかしてんの!?早く切ってよ!」

「分かってる!でも、終了押しても反応しねぇんだよ!」

「スマホ向けて何言ってんだよ!」

「知らねぇよ!俺がやってるんじゃねぇって!なんか手が勝手に!」

「意味わかんない!」

 

空気が更に重くなる。

肺へ泥を流し込まれているみたいだった。

 

ユウイチが壁へ手を付く。

吐き気がする。頭痛。耳鳴り。

 

視界の端で、白衣女が笑った気がした。

 

コメント欄が急加速する。

 

『おい後ろ後ろ後ろ』

『天井』

『待ってなんかいる』

『今絶対映った』

 

シンジが震えながらカメラを上へ向ける。

 

その瞬間。

 

全員の悲鳴が重なった。

 

天井に黒い影が張り付いていた。

細長い腕に裂けた口。人間の倍以上はある頭部。

ソレが、逆さまのままこちらを見下ろしている。

 

ぽたっ。

 

黒い液体が落ちた。そして続けてベチャッ!と怪異が目の前に落ちてきた。

 

「うわぁぁぁぁッ!!」

 

シンジが転ぶ。

ライトが床を転がる。光がぐるぐる回っていく。

 

その白い光の中で、怪異の姿だけが不自然に伸び縮みして見えた。

ユウイチが咄嗟にシンジを引っ張る。

 

その直後。

 

怪異の腕が振り下ろされ、コンクリートの床が割れた。

 

普通の人間じゃない。

そんな事、もう誰の目にも明らかだった。

 

ミホが泣き叫びながら走り出す。

 

「いやぁぁッ!!」

「待ってミユキ!!」

 

ナナが叫ぶ。

 

だが遅かった。

廊下の奥の光の届かない暗闇。

 

そこへミユキが踏み込んだ瞬間だった。

暗闇そのものが、“口”みたいに開く。

 

ミユキの身体が止まる。

 

「……え?」

 

闇の中から、真っ黒な無数の腕が伸びた。

それがミユキの全身へ絡み付く。

 

「たすけ――」

 

ミユキの身体が、暗闇の中へ引きずり込まれた。

 

ぐちゃり。

 

湿った音だけが辺りに響く。

 

シンジの喉が引き攣る。

ナナは腰を抜かしていた。

 

ユウイチは完全に顔面蒼白だった。

 

コメント欄だけは無情にも流れ続けるが、演出の一環だと思っているらしい。

 

『演技うますぎ』

『怖すぎて鳥肌』

『神回じゃん』

 

闇の中で、ナナの嗚咽だけが響いていた。

 

「み、ミユキ…?」

 

返事はない。

廊下の奥は真っ黒だった。ライトを向けても、光が途中で沈む。

まるで暗闇そのものが、そこに溜まっているみたいだった。

 

シンジは床へ尻餅をついたまま動けない。

スマホだけが、まだ配信を続けていた。

 

コメント欄が流れている。

 

『え、今の何?』

『怖すぎるって』

『演技じゃない?』

 

誰も、本気で信じていない。

ユウイチだけが、荒い呼吸を繰り返していた。

 

今のは演出じゃない。アレは幽霊じゃない。もっとヤバい存在。

 

“触れちゃいけない何か”だ。

 

近くで再びぐちゃり、と湿った音が響く。

全員の身体が跳ねる。

 

暗闇の中で白い目だけが、ゆっくり浮かび上がってきた。

ナナが悲鳴を上げた。

 

「いやぁぁぁッ!!」

 

シンジが震えながらライトを向ける。

そして暗闇の中から、細長い腕が何本も伸びた。

 

壁。床。天井。

そこら中から黒い影が滲み出してくる。

 

ユウイチが後退る。

喉の奥が焼けるみたいに苦しい。

 

息が出来ない。視界が暗い。

一般人の身体はもう限界に近い。

 

その時だった。

 

――パァンッ!!

 

乾いた音が廊下へ響く。

 

次の瞬間、先頭の怪異の顔面へ何かが突き刺さった。

 

札だった。白い紙が燃える。

化け物の顔が、内側から焼けるみたいに爛れていく。

黒い肉が泡立ちながら溶ける。

 

「……え?」

 

シンジは呆然とする。

暗い廊下の奥。誰かが歩いてくる。

 

カツ、カツ、と硬い足音。

 

色褪せたトレンチコートに気怠そうな目。

 

片手には、細長い鉄杭みたいな呪具。

男は近付いてきながら、廊下を塞ぐ怪異を無造作に殴り飛ばした。

 

ゴキッ、と嫌な音。

 

殴られた怪異の首が、あり得ない方向へ折れる。

そのまま鉄杭を振るう。

 

ガァンッ!!

 

鈍い音と共に、化け物の頭部が壁へ叩き付けられた。

そして絶叫しながら崩れていく。

 

シンジ達は、ただ呆然と見ていた。

タバコを咥えたまま、低い声で言う。

 

「……おい」

 

その声だけで空気が張る。

 

「何してんだテメェら」

 

シンジの喉が引き攣る。

 

「え……」

 

男は怪異を踏み潰し、ゆっくり振り返った。

その目に、苛立ちが滲んでいる。

 

怪異の悲鳴が、まだ廊下へ残響していた。

 

その中で、男はゆっくり煙を吐く。

 

「マジで死にてぇのか」

 

ナナが震えながら言う。

 

「だ、誰……」

 

男は答えず、廊下奥を見た。

 

暗闇。

 

そこに、“何か”がいる。病院全体へ染み付いた黒い気配。

まだ本体は奥にいる。

 

男――木庵は小さく舌打ちした。

 

「面倒事増やすんじゃねぇよクソッタレ。おい立て」

9話目終わりました。次もまた怪異を祓う話になります。


にしても文字数多いな…削ったと思ったのに…

長くなったので後編に分けます。


ここまで見てくださった方達、ありがとうございました。

暇潰しになれば幸いです。

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