FILE No.1 「 八幡の藪知らず」
学生時代温めいた作品ですが今回、初めて頑張って書いてみました。
文法や展開、その他粗が目立つと思いますが勉強不足な為ご了承ください。
少しでも見た人の暇つぶしになればと思います。
よろしくお願いします。
「お、先読みからの保留変化、これキタんじゃねーかな」
くたびれたボロボロのトレンチコートに無精髭が目立ち死んだ魚のような目でダルそうに椅子に座っていた男、木庵 琉州が急にビシッと姿勢を正す。
先程とは打って変わったように目をカッと開いて食い入るように画面を見つめる。
『ユニコオオオオオオオン!』
『右打ち!』
図柄が揃い、玉を打ち出す方向が左から右に変わる。
「キタキタキタキタ、いい流れ来てるわ」
その後も着々と当たりを重ね、気付けば負け分を余裕で取り戻せた上にその倍以上の出玉に達していた時だった。
通路を歩く雰囲気だけでも凄い不機嫌なのが伝わる。紫と白のツートンカラーの派手な髪色のロングヘアに前髪ぱっつんにパンク系の服、この時代でもかなり目立つ1人の女が男の背後に忍び寄る。
「おはよおおおおございまああああああす!!」
「⁉︎」
「えっ…ちょ、なにうるさ… 由香かよ。おいなにすんだ、いや苦し… ギブギブガチ締まってるから!」
突然、男の耳元で大声を上げた由香と呼ばれた女は続け様に右腕を首に回して左上腕を掴み、左手で相手の後頭部を押して絞めあげる。
「さっきからずっと何回も何回も電話してんのに無視してんじゃねーよ!
用事があるから電話してんだろがパチンカスが!さっさと出ろや!」
実は先程から男の携帯に断続的に着信が来ていたが流れにノっている時だったのでそのまま無視していた結果、酷い目に遭う事になった。
「ちょちょちょ く、くるし… ま、待って この分だけ…」
「知らねーよ!仕事なんだよ!もう終わりだっての!」
絞めあげられているこの状況でも玉を打ち出そうと足掻くが抵抗虚しく筐台からチャンスが終わる警告が流れ、そのまま終わった。
『左打ちに戻してください』
「ああああああああああ…嘘だろぉ…終わっちゃったじゃん…お前これ…萎えるわ… もうダルいわぁ…もういいわ… うん、仕事ね…いいよ、行きます行きます…」
「早く換金してこいって。あ、ここまでのタクシー代と今日の飯奢りな。玉数見たけど12万分はあったよな?」
先程までの気分の昂りから一転してドン底の気分になる男だが由香と呼ばれた女はそんな事お構いなしと言わんばかりに続ける。
「仕方ねぇな… まぁ、今回はかなり勝ったから好きなモン食わせてやるよ 何がいい?」
「焼肉、全部特上な」
「…人の奢りって分かった瞬間スゲー食うね…」
「当然、だってアンタの奢りだし」
換金を済ませて、車に乗り込む。
手慣れた手付きでジッポでタバコに火を付けて思いっきり煙を肺に吸い込み吐き出す。
車を走らせながら由香に聞く。
「で、目的地どこよ?」
「千葉県の八幡の藪知らずってとこ怪異の詳細はなんにも分からず。多分、地縛霊が悪霊に変異したパターンだと思う。千葉には天狗の伝承あるけど八幡で出たってのは聞いた事ないし」
「八幡に出たって話が無いだけで天狗の伝承自体はあるから天狗の可能性もあるけどな。ま、とりあえず現地に行くとするか」
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日本の総人口約1億2000万人の内、全国での年間死亡数は100万を超え、行方不明者の数は毎年約8万人。その行方不明者の半数は怪異と呼ばれる怪奇現象によるものが多い。
人の負の感情から生まれる負の念により、呪いが生まれる。
それは死んだモノが生前に接した場所に蓄積され、「業」となる。
その呪いに触れたモノは命を失い、新たな呪いが生まれる。
怪異が最も猛威を振るっていた平安時代、安倍晴明をはじめとする陰陽師達や源頼光とその配下の武士達の活躍により怪異相手に対抗していた。
だが、人である以上いつまでも強いままではいられない。いずれ老いてその命が尽きる。
そして、人が存在する限り呪いは消えずその業もまた消える事はない。
怪異は永久に祓う事は出来ないと晴明はそう考えた結果、ならば少しでも人の世が続くようにと各地を周り陰陽道を伝え、数多くの術師を育てた。
その教えを請けた術師が更に教えを広め、やがて、術師達による祓い専門の組織が各地に結成された。そして時は経ち、形を変え今日にいたるまで祓い専門の組織 [中央怪異対策機関] の存在は続いていた。
1000年以上の歴史がある中央を含むこの組織は日本の奥深くに根を張り政府を含めたあらゆる機関、警察、自衛隊等の徹底した秘匿により怪異の存在自体を人々の与太話で済む程度にはなっていた。
それでも怪異の被害は絶えない。
政府や警察の根回しにより被害地域及び建物には事件解決までの徹底した人払いや封鎖、情報操作により人々は怪異の存在を知る事もない。
被害者の遺族や関係者には記憶を消す術式を施し、記憶から怪異という存在を抹消し新たな呪いを生み出す事を避ける為でもある。
そして表向きには公安所属になる為、怪異の際の人的被害、物的被害等全ての真実が闇に葬られる事となる。
故に彼等の存在は誰一人として知る人間はいない。
ちなみに余談だが1980年代完全にノリで[ゴーストバスターズ]と名付けた機関もあったが、運悪く所属していた術師達は全員殉職した。
閑話休題。
「おーおー、人の金だと思って美味そうに食いやがって」
「なに?文句あんの?」
「いや、ねーけどさつーかよぉ。今の俺達さ、周りから見たら冴えないオヤジとバンギャの組み合わせで完全にパパ活にしか見えねーと思うんだ」
「え、なにそんな目で見てんのキモッ」
「あぁ⁉︎ テメーみたいな貧乳興味ねーんだよ!もっとデカいモン積んで出直してこいや!」
「んだとコラ。テメー今、地雷を踏み抜いたなツラ貸せ。網で根性焼きしてやる」
「やれるもんならやってみろや。オメーの実力じゃ、俺に勝てねーだろが!つーか、予想より会計高いんだけど!」
「うるせーよ、お前さ夜道に気をつけろよマジで。いいだろ別に普段安い肉しか食ってないんだから偶にはさぁ」
「へいへい分かった分かった。クソッタレが」
車を走らせる事1時間程。
千葉県に入り、要望通り焼肉に行く事になった木庵達は周りの注目を浴びていた。何故ならくたびれた38の男と派手な髪色をした21の女では勘繰られるのも無理はない。
宣言した通り本当に高級な焼肉の極上のシャトーブリアンやサーロイン等のコースメニューを注文した時には容赦ないなと思う木庵だが、38年生きてきて高級な肉を食べた事がないのもあって普段なら文句を言う筈だが肉の誘惑には勝てなかった。
「食い終わったな。おい、出るぞ」
「ご馳走様でしたパパ☆」
「ブッ飛ばすぞテメー。あ、スンマセン会計で」
伝票を眺めながら、今日木庵の財布にお迎えした諭吉4人とお別れする事になった。
会計を済ませ、店を後にした2人は車で午前2時まで時間を潰していた。
「午前2時に行動開始だ。俺は寝る」
「はいよ、私も仮眠取る」
千葉には一度足を踏み入れたら最後、二度と出てこれなくなる禁断の地があるとされている。今なお残る禁足地として「八幡の藪知らず」という神隠しの伝承が伝わる場所。周辺は開拓されているのに、あからさまに手付かず状態になっている異質な場所になっている。
昨今の時代、ネットの発達により情報の伝達具合が異常に高い為、例えそこにいるのが浮遊霊や地縛霊だとしても人々が認識する事によって伝承にまつわる怪異が霊の存在を使って実体化する事もある。
そしてその場所に肝試し感覚で来た被害者達の念が溜まり呪いを生み出し、やがて業となる。
こうした被害が日本各地で後を絶たない為、警察から怪異対策機関に連絡があり事件解決の為、今回祓い屋が派遣されたのだ。
通常、祓いの依頼が来た際怪異の等級、術師の等級が加味されて
怪異を祓いに行くのだが全国的に増え続ける怪異に対し、術師の数が圧倒的に足りない為、等級を超えた危険な任務となる事もある。
ただでさえ死と隣り合わせのこの仕事、進んでやりたがる者もいない為、少しずつだが怪異対策機関の規模は縮小しつつあった。
低級、下級、中級、上級この4つが基本等級となる。今回、派遣された木庵と由香はそれぞれ中級の術師であり実力もあるこの2人は仕事を選り好みしないというお陰でよく機関にこき使われていた。
「お、時間か…起きろよ行くぞ」
「こんな時間に起きて活動って、お肌悪くなりそう…」
「今更だろ、もう曲がり角くらいじゃーのか」
「黙れよお前。まだ21だボケ。ニキビだらけになる呪いかけるぞ」
「え、そんな呪いあんの?」
「知らんけどやるったらやる」
起きて早々、くだらないやり取りをしながらタバコに火を付ける木庵と由香。
傍から見れば仲が悪いように見えるが2人にとっては平常運転のやり取りである。
「さてと、何を持って行くかな。とは言え大体 物理系ばっかだけど」
「私はライフル無いしいつもの拳銃かな使いやすいし。あっ弾の在庫無くなりそう。帰ったら資材部に補充してもらって」
「分かった。とりあえず式神用の触媒とメリケンサック あ、新作のコレも持っていこ。塩、松明、聖油、魔除けの像 俺も一つ銃持っていくかな。まぁこんなもんだろ」
慣れた手付きでバッグに道具を詰め込んでいく。どの道具も一見、祓いに使われるようには見えないがどれもれっきとした祓いに用いる道具である。
「今回は道路工事の名目で周辺は固めた。後は俺達が中に入って結界を張る」
「結界の準備出来たから張るよ。よいしょっと。はい、完成」
「じゃ、結界が安定したら異界入りするぞ」
由香が結界を張る為に使ったのは車のタイヤ程の大きさの円形状の筒で、それを地面に叩きつけると結界術式が描かれた焼印が浮かび上がる。
「あー使いやすい。最初にスタンプ考えた術師マジで尊敬するわ。どいつもこいつも伝統に囚われた古い奴多いから」
「だな、比較的ウチはマシな方でよかった。怪異ってのはいかに効率よくかつノーリスクで祓えるかなんだからな」
怪異というものは普段は現世と黄泉の間の異界にいる為、認識する事は出来ないが向こうがこちらを認識するかもしくはこちらが異界に入れば怪異と邂逅する事が出来る。
通常、一般人が思う結界はアニメや映画であるような複雑なモノと思われがちで実際複雑なのだが、技術は常に進化している。
ある術師が考えた「最初から術式構築してスタンプみたいに使えば手間が省けるのでは?」と提案したところ使い勝手が良すぎたので各国の術師はこぞって真似をした。
今回、2人が使用した結界も同じ技法である。
地面に構築済みの結界術式を描いた焼印を刻む事で余程の事がない限り
術式は消える事なく安定する。
また、便利な技術がある一方でそれを疎ましく思う術師も少なからず存在する。伝統を重んじるあまり思考が偏ってしまうのだ。
最大派閥である京都の陰陽衆がその例である。
彼等は安倍晴明が結成した最初の祓い屋組織であり、人数も術師の質も桁違いである。
だがそれ故に伝統を神聖視するあまり、良く言えば確固たる誇りと信念を持ち、悪く言えば融通が効かないのが難点で、あまり他所の祓い屋達との交流もないが実際の所、わざわざ他所から力を借りるまでもないと言い切るくらいには京都の守りは全国でも最強と言われており、京都が堕ちれば
日本は終わると言われる程の実力がある為、わざわざ交流するまでもないのだ。
「安定したな。さてと、原因となる怪異を探すとするか」
「さっさと祓って、帰りたいなーネイルの予約あるし」
「俺も早く帰りたい。新台入るし」
焼印から光が迸り、結界が森全体を包み込む。
結界内の森が異界に変わりだす。
地面の至る所から血が噴き出し草木が枯れ果て、代わりに新たな木が生え始めた。枝のように見えるのは夥しい数の手、そこから枝分かれした手が伸び始める。
果実のように見える程、真っ赤に血走った辺り一面にある目玉が木庵と由香を見つめる。
「相変わらずきったねーとこだな。あーやだやだ」
「早く出たいからもう行こ。怪異はともかく異界のはマジ無理」
「そういや、お前あんま瘴気の耐性なかったな。松明使うから持ってな」
「ありがと… 瘴気だけならマシだけど 異界の瘴気はまだ無理…魔除けの刺青してるのに気分悪くなる…」
異界の瘴気に耐えきれず、由香はその場にしゃがみ込んでしまう。
木庵は松明に聖油をかけ、火を付ける。
怪異という存在は穢れた空気、瘴気を纏っている。
耐性の無い者が瘴気に触れるとそれだけで怪異に取り込まれてしまう。
その為、祓い屋達はそうならないように色々工夫している。
簡単なの部類だと道具を使うのが1番手っ取り早い。
今、木庵が使用した松明もただの松明では無く神社や寺を建てた時の木材の残りではあるが神聖なモノに使われたという概念が宿り、そこに聖なる油を使って火を灯せば、聖なる火を纏った松明となる。
火は古来より不浄なモノを祓う際に用いられた為、低級の霊や瘴気を簡単に祓える。
「松明持ってきてよかった。気分はマシになったか?」
「酷い頭痛からマシな頭痛になった感じかな。今は大丈夫」
松明の火で瘴気を払って幾分か体調が良くなった由香だが、それでも完全にでは無い。
結界を張った異界の入り口からおよそ3kmは歩いた頃、2人は足を止める。
「瘴気が濃くなってきたな。近いぞ、気ィ引き締めろ」
「どうする?誘い出す?」
件の怪異の存在が近くなってきたのか、先程より瘴気が濃くなる。
「そうだなぁ、ここに罠仕掛けたら待機だ。こっちから合流する」
「罠はいつものヤツ?」
「あぁ、それでいい じゃ、先行ってるから」
木庵はそう告げると再び先へと歩きだす。
歩きだしてから5分もしない内に琉州はタバコに火を付ける。
タバコを吸いながら足元を見ると何かを引き摺った跡がある。
それもかなり大きいモノだ。
木庵はしゃがみ込むと徐に痕跡に触れた。
「残穢もあるしすぐ近くにいやがるな。おい出てこいよ、俺はここだ」
バッグから銃身と銃床を切り詰めた、水平2連の中折れ式の散弾銃を取り出す。
コートのポケットに弾の予備を放り込み、指と指の間に2発分の弾を挟んで銃を構える。中折れ式のこの銃は弾倉がない為、2発しか装填出来ない代わりに取り回しに優れ、特に装填が容易でかつ銃のサイズが他の散弾銃と比べかなり小さい為、木庵のお気に入りの一つである。
「かかって来やがれ怪異さんよ。わざわざ出向いてやったんだ」
『オマエモいっショニ行こウ 楽にナろう』
「楽にはなりてぇけど、悪りーがお断りだ」
近くで木が倒れ、その奥から怪異が現れた。6mくらいの巨大な芋虫のようなナニカ。
ナニカと称したのはあくまで形が芋虫に近いだけで全くの別物だからである。模様のように見えるのは全て人の顔である。
それらが皆、血の涙を流しながら苦悶の表情を浮かべ口々に言葉にならない文字の羅列を叫んでいる。触覚がある場所には巨大な手がY字のように生えていて、モゾモゾと動く足は人間の手だ。
子供が描く怖い悪ふざけのような見た目としか言えないナニカ。
「さてと、仕事の時間だ!」
ドン!ドン!と低い発砲音と共に散弾銃から弾が吐き出される。
飛び出していった弾は怪異の顔に命中。黒い血が噴き出す。
『イたいイタイいたいたいたたいたいたいイイイイ‼︎』
「だろうな。祓い屋が使う弾がただの弾な訳ねーだろ」
今、怪異に撃ち込まれた弾は退魔の術式を弾頭に刻んだ、対怪異用の特注の弾丸である。
タバコの煙を吐き出しながら、空の薬莢を捨て、弾を装填する。
『ぜゼ絶対二こ炉シテやルアあああアア‼︎』
想像以上のダメージだったのか、怒りを露わにして怪異は木庵に迫る。そのまま叩き潰そうと巨大な腕を振り上げる。
振り下ろされた腕を難なく躱すと続け様に怪異の腕に散弾銃の引き金を引く。
放たれた弾丸の威力に耐えきれず、手首から上が吹き飛ぶ。
『瘀あアアあああアアあアアあああ!!』
「ったく、芸がねーなお前は物理だけか?術の一つも使えねーのかよ。じゃ、飽きたから帰るわ」
木庵は手傷を負った怪異を無視して元来た道に引き返していった。
ここまでコケにされて怪異も黙っている筈は無く巨体を揺らしながら木庵を追いかける。
『Maテマてまてとまテ コろしてやるうウウゥうう!』
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一方、罠を張り終えた由香は8本目のタバコに火を付けて木庵が来るのを待っていた。
「何やってんだよあのオッサン。暇なんだけど。連絡ないから状況全然分からないし」
口ではこうは言っても、手には拳銃が握られており油断はしてない。
「暇なのか?」
「うわあああああああああ!」
まさか真横にいると思わず、由香は反射的に引き金を引いてしまうが木庵は咄嗟に手首を掴んで銃口を別の方向に向ける。
「ちょ!あぶね!マジで!」
「その割には余裕で避けてんじゃん!でも、撃ったのはマジごめん!」
「危うく味方に撃ち殺されるとこだったじゃねぇか…」
「アレ?怪異は?祓ったの?」
「飽きたからこっちに来た」
「はぁ⁉︎そんな段取りだっけ⁉︎」
まさの飽きたから祓ってない発言に由香の顔に青筋が浮かび銃を向けそうになるが、ギリギリのとこで踏みとどまる。
「お前、異界での怪異祓った経験あんま無いから経験値稼がせようって思ってな」
「なら最初に言ってくんないかな!じゃあ、その怪異は今どこ?」
「もう、来るんじゃーねかな 殺すって息巻いてたし」
『あアああアア亜阿ああああああアアアあああああ!』
「あ、ホラ来た」
木を薙ぎ倒しながら怪異が木庵を追ってきた。
「うわ、虫っぽいヤツじゃんキモ…」
「はいはい、言ってねーでさっさとやるぞ」
虫が苦手な由香にとって今回の怪異は最悪の部類に入る相手だった。
怪異は木庵目掛けて巨大な口を開け、噛み砕こうとする。
木庵は避けようともせずにその場に立っていた。
巨大な口は木庵を噛み砕く事はなく、その場に微動だにしないでいた。
『⁉︎』
怪異は何故動けないのかと体を動かそうとするが身動き一つ出来ない。
「なんで動けないか不思議だろ? お前が今、踏んでる場所な。その一帯に魔封じの術式を仕掛けておいた」
怪異の周りに巨大な五芒星が描かれていた。
五芒星とは陰陽道では魔除けの呪符として伝えられている。印にこめられたその意味は、陰陽道の基本概念となった陰陽五行説、木・火・土・金・水の5つの元素の働きの相克を表したものであり、五芒星はあらゆる魔除けの呪符として重宝された。
そんな魔除けの陣に踏み入った怪異は動けなくなってしまう。
『コんなモノデずぐに壊シテやる』
「どうやって?お前、動けないじゃん」
「由香、お手並拝見だ。次はどうする?」
「私はコイツを清めて焼く」
由香はお手製の火炎瓶を怪異に投げつける。
炎に耐えきれず、耳をつんざくような叫びをあげる。
『おア阿ああああアアあああああアアアアアアアあ』
この火炎瓶も対怪異用で中身は聖油と清めの塩と至ってシンプルだが、それ故に怪異には絶大な効果を発揮する。
次々と火炎瓶を投げつけられ、怪異は焼かれて徐々に炭化していく。
由香がトドメを刺そうと次の火炎瓶を投げようとした時だった。
『嫌だ!死にたくない!助けてくれ!』
『どうして死なないといけないんだ』
『嫌だ』『誰か助けて』『どうしてこんな目に』
『まだ死にたくない!』
それまでは文字の羅列を呟くだけだった怪異の体の模様の顔が
一斉に叫びだす。
「木庵、これって…」
「あぁ、コイツに取り込まれた被害者達だ」
痛みと恐怖によって、怪異に取り込まていた被害者達の自我が戻る。
『『『『『『『誰か助けてええええええええええいやだあああああああああ死にたくないいいいいい』』』』』』』
皆、一様に助けを求めて叫ぶ。
「このタイミングで自我が戻るのは運が悪いとしか言えないが残念だ。アンタら、怪異に取り込まれた時点でな。もう、死んでるも同然なんだよ。助けてはやれないが成仏はさせてやる」
「大丈夫 もう終わるから」
最後の火炎瓶が怪異目掛けて投げられる。
炎が燃え尽きるまでの間、2人は被害者達の痛みによる絶叫を聴きながら
タバコに火をつけ、煙を吸い込み吐き出した。
「よし、真っ黒焦げだな。最後の仕上げだ。生死確認するぞ」
あれから2時間くらい経った頃、怪異を焼き尽くした炎は自然と鎮火した。完全に焦げて炭化した怪異に木庵と由香は近付く。散弾銃と拳銃の引き金をそれぞれ引く。銃弾が体を穿つがピクリとも動かない。
「あれだけ燃やして更に弾ぶち込んでなにも反応ないし、死んだんじゃない?」
「あぁ、魔除けも反応してないし、こいつは完全に祓った」
辛うじて形を保っていたが、やがて端から砂のように崩れていく。
「終わったな よし撤収するか」
「私、モーニング食べたーい」
2人は踵を返して出口へと向かう。
異界から現世に帰ってきた、木庵は結界の術式を解いた。
アレからかなり時間が経っていたのだろう夜が明け、朝日が登ろうとしていた。
「結界も消したし、これにて任務終了だ。連絡して業者も下がってもらおう」
「何がダルいかって任務終わった後の報告書が1番面倒臭い。今回は私が祓った形になるし」
「それで評価されるからいいじゃねーか」
車のトランクを開け、道具を仕舞う。
車に乗り込んだ2人はタバコに火を付けた。
「任務明けのこのタバコの時間が堪らないんだよなぁ」
「私達、任務関係無しにタバコ吸ってばっかだけどね」
「こういうのは風情だ風情」
「そんな風情ないっての」
キーを回しエンジンをかける。アクセルをふかし車を走らせる。
しばらくすると木庵の携帯に着信が来た。
「はい、木庵ですー。怪異はバッチリ祓いました。今から帰るとこです 業者の人間も下がってもらって大丈夫なんで。へい、報告書はまた出しまーす。じゃまた後で」
「本部長?」
「そうそう、ちょうど電話しようと思ってたとこだったからよかった」
「とりあえずさ、東京戻る前にモーニング食べたいからどっか寄って」
「あいよ、タバコ切れるからコンビニの後な」
コンビニでタバコを買って新しいタバコに火を付けた時だった。
木庵の携帯に再び電話がかかってくる。
「あん?誰だこんなクソみてーな時間に。はい、もしもし。えぇ、そうです。合言葉ですか。分かりましたー。また、折り返し連絡しますんでー。はいー」
「え、なに まさか次の任務?」
「あぁ、モーニング食べたらすぐ帰るぞ」
「マジかぁ…下手したらネイルの予約キャンセルじゃん…」
一息つく間も無く次の依頼が入った。
「仕方ねぇ、行くかー」
to.be.continued
全体的に既視感あったりで、今の時代に投稿してもパクリって言われるのが目に見えてるので投稿するか迷いましたが頑張っていきます。
基本、ホラー映画や作品をイメージして書いてるつもりです。分からない事だらけですがよろしくお願いします。