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悪逆の限りを尽くしたのに、バッドエンドになりません!  作者: るーく


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6/10

第五幕 矛と盾

もし。

もしも。

マイア・ラグドールがゲルディーナ・ブラッドウェルの能力を完全に知っていたら。

もし天国で、平等に神とゲルディーナの会話を聞かせていたなら。

こんなことにはならなかったかもしれない。


今更言ってもしょーもないのだけれども。

言っちゃえばよかったかなぁ・・・。




 *




時間が巻き戻るのは、決まってゲルディーナ・ブラッドウェルが敗北を悟った時だ。


小説と同じように、マイア・ラグドールの勝利が決まったらそこで物語が終わったように。


まるでお話のように。


まあ、元は()()の作り上げたお話だけれども。

ハッピーエンドに至り、初めに戻る。


この98回に及ぶ巻き戻りで、小説の最後の日にちを超えたことはない。

どんなに筋を違えても、必ず物語は同じ日に終わっているようだった。


小説ならいい。


一言一句が決まっていて、戻ったら全く同じ世界線が繰り返されるのだから、バッドエンドは変わらない。

ハッピーになど、なるはずがない。

登場人物の行動思考全ては、作者()の指示した通りに遂行されるのだから。



98回の繰り返しを思い出しながら、16歳になったゲルディーナは重い溜息をついた。

(初回は良かったわ、まだ・・・)

結構な悪さはできていたんじゃないかと思う。


巻き戻り回数一桁台辺りはそこそこハッピーエンドでもあったが、まあまあバッドエンドだったようにも思う。


悪事がばれてすぐに、不慮の事故とか。

全然関係のない王家がらみの事件に絡まれたりして退場とか。

暴動が起きて、崩れた城壁に巻き込まれたりとか・・・。


どうかと思うが、悪事はうまいこと働けていたのだ。


メイドの弱みに付け込んで、悪事を働かせたり。

地下牢とか、物騒な武器とか鎖とか鞭とかなんだとか色々。


しかし、回を増すごとにゲルディーナ・ブラッドウェルの悪事の成功率は下がっていった。非道っぷりに至っては尻すぼみにすぼんでいった。別に情にほだされたわけではない。

「・・・・」

マイア・ラグドールのバッド耐性が飛躍的に伸びたからである。

(どんどんどんどん・・・・)


どんどんどんどんマイア・ラグドールはゲルディーナ・ブラッドウェルの悪行を善行に塗り替えていった。

ゲルディーナの能力はおそらくまるでバレていなかったのに、だ。


(記念すべき50回目はひどかったわよね・・・)


この辺りは特にひどかった。

はじめ、家を奪われ悪事を断罪されたゲルディーナはほくほくだった。

嫌悪のこもった瞳で貴族から国の人々から見られ、城から連れ出された。

宰相に連れられ、幽閉塔に連れていかれる。


その時、婚約者だった王子は隣国の姫を王妃に迎えることになっていた。


ゲルディーナは一人寂しく・・・。


「待っていたよ、ゲルディーナ」


宰相の息子が待っていた。


「・・・・・」


ずっとずっと好きだったのだと、彼は言った。

(嘘をおっしゃい・・・)

苦しい幽閉生活を満喫しようとやってきたのに、何不自由のない生活のはじまり。

途中の悪事があったのに、あまり追及されずこの男の愛は変わらなかったとかいうゲルディーナがそこそこ嫌なハッピーエンドになってしまった。


その次は伯爵家へ引き取られ、山間部の領地へ幽閉だったか。

労働とか、鉱山かと思いきや、城から年中帰ってくるからとゲルディーナに笑いかける騎士の青年。

先も幸せが続く。しかし我に先無しと分かってしまったゲルディーナの目は死んだ。

心も折れた。


商人の息子が国外追放されるときにさらいにきたこともあった。

豪華な商船に乗せられたときの船酔いといったら最悪だった。


あまりの酷さに、なぜか船に乗りあったマイアたんを、死んだ魚のような目で見たことは新しい方の記憶だ。


いずれもすぐに目の前が暗転し、赤子に戻っていたのは唯一の救いだったかもしれない。


ハッピーエンダーとバッドエンドメイカー。

まるで最強の矛と最強の盾だ。


どちらかというと、矛の方が強い気がした。

だから、盾の存在を知らせなかったのだろうか?


ゲルディーナはあの神様を思い出す。

あの方、ゲームでもしてるつもりなのかしら?

どちらが壊れるか、神の手の中で転がされる盾と矛。


どこまでいっても納得のいく終わりが来ない。

98回目、前回に至っては女王にされる有様。


何?女王って・・・。


ゲルディーナはマイアが何をしたいのか、分からなくなっていた。

ただ、このくだらないお遊びに終止符は打たねばならないだろう。

矛盾。

それを断ち切らねばならない。

最強の盾になって、この物語の繰り返しを終えるには、ゲルディーナ・ブラッドウェルの断罪あるのみ!


パーフェクト・バッドエンド。


完全なる敗北(勝利)


周りの人間をことごとく追い詰めて葬った。

完璧だった。


マイアたんもそう・・・


「でっぷりと肥えた極悪伯爵の後妻にねじこんだ・・・」


胸の奥が痛んだ気がした。


「・・・・・」

今回は今までで一番上手くいっている。

ゲルディーナは初心に戻り、物語の通り悪行を起こすことを決めた。

バッドエンドメイカーの能力を使い、皆への情は排除した。

マイア・ラグドールの能力が使われる先を予想して、すべてハッピーの芽を摘んだ。


(物語の通りに・・・)


あまりに上手くいきすぎて少しの不安がよぎるが、それは無視した。

どうせマイアはゲルディーナの能力に気づいていない。

「どうして」

あの時、婚約者を舞踏会において切り捨てたゲルディーナにマイアが放った言葉は本物。

(あの涙は嘘じゃないわ)

婚約者の王子の愕然とした表情ではなく、マイアたんの涙にぐっとこみあげてしまったのは秘密だ。


あともう少し。


ゲルディーナは明日17歳になる。


公爵家は人の気配すらなく、真っ暗だ。

全ての<家族たち>が捕らえられ、ゲルディーナ・ブラッドウェルが一人屋敷に戻るシーンまで来ていた。

その手には象牙色の美しい封筒が在る。



ゲルディーナがここへ戻ってくるのを彼女は知っているのだ。



親愛なる公爵令嬢ゲルディーナ・ブラッドウェル。



封筒には整った文字で、そう書かれていた。



差出人はマイア・ラグドール。



最後の戦い。



この国で一番格式高い教会裏にある・・・



断崖で断罪への招待状だった。

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