終幕 逃亡で逃走
場面は変わって、星々煌めく星月夜。
そう、ゲルディーナと第一王子の結婚式の夜。
寝所に彼女の姿はなかった。
*
「じょ、うっだんじゃ」
すさまじいスピードで夜を駆ける旅装の淑女が一人。
「ないわ!!」
乗馬は貴族のたしなみ。
純白の馬を走らせて、目立つのも構わずゲルディーナは疾走し続けた。
*
最高の終わりで、ゲルディーナは再び気づく。
「あら・・・?」
悲劇は私にとって最高のバッドエンド。
でも。
私、今幸せを感じちゃってるわ。
これは勝ちなの?
それとも負け?
マイアたんの勝ちなの?
私の勝ちなの?
思考がぐるぐると頭をめぐる。
だって、悲劇が叶うって最高のハッピーエンドになっちゃうし、ハッピーエンドが悲劇って分かったらバッドエンドになっちゃうし。
どっちなの???
でも。
だ・け・ど。
*
「どっちにしたって、あの男の妃はイヤよ!!」
というか、取り巻き連中も別にどうでもいい。
同じ国でぐるぐるぐるぐる巻き戻るのはもう御免だ。
巻き戻り人生で彼らとの思い出は、身の毛のよだつ黒歴史と化していた。
当然のごとく、ゲルディーナは逃亡を企てる。
もしかしたら、途中で赤子になっているかもしれないが、やり切るだけやってみようと行動に移った。
深夜を過ぎたが、今回時が巻き戻る気配はない。
(神の手の中からはきっと逃れられないのだろうけど)
暮らすなら別の国がいい。
国境へ最短ルートで馬を進めていると、丘の上に一つの影がたたずんでいた。
月のない夜なのに、遠目からでもよく分かる美しい目には、あふれんばかりに涙を浮かべているのが見える。
「・・・マイア、たん!!」
いつもの上等なドレスではなく、目立たない国の民たちと同じような格好で、震えていた。
(待って・・・たの?)
背中には小さな荷物を背負っている。
「ゲルディーナ・・・」
小さく、名を呼ぶ声が聞こえた。
ゲルディーナは視線鋭く馬を駆り、丘を越えて行く。
後にはさわさわと草のたなびく音と、遠ざかる蹄の音だけが響いていた。
*
ゲルディーナは迷うことなく手を差し伸べ、
マイアは迷うことなくその手を取った。
後に、隣国のそのまた隣の帝国で、二人の女性の活躍が世界中に轟いたという。
どちらが凄い女性なのか。
どちらも賢く、美しく、善く、悪く。
その様はまるで一対の盾と矛のようであったという。
おしまい。




