峩々吠我 壱 その7
勘空は、ユキオンナを見た。
腹に穴を開けて笑っている。
カワイイ。
それに比べて、自分は、、、
腹にツララを刺されて、痛い。
、、、泣きたい。
「逃げんな逃げんな、、、違うな~、動くなやw オマエ動いたらアカンで~」
痛過ぎる。
尋常な痛さではない。
身体が勝手に震える。
止まらない。
何か声を発しようとしたら、きっと悲鳴が出る。
なにせ、腹に穴を開けられたんだ。
氷の刺さった腹を見る。
視覚的にも、痛い。
ユキオンナを見て、勘空は恐怖する。
ユキオンナの腹も、穴が開いているのに、、、
、、、なのに、平気で笑ってる?
――何だ、この女、、、?!
「オマエ、勝手に動いたら、も一発カマすからな」
そう言って勘空を指差していた手を、そのまま澄宗に向けた。
「ほんでオマエも波動繋いでるからな。いつでもチンコ凍らせれるからな」
多勢に対する無勢の闘い方の基本、人質を取る。
隠れる場所も障害物も無いフィールドでは、それも無理な闘い方だと思っていたのだが、、、。
ユキオンナは、見事に成功させていた。
「くっそ痛いわもうっ!!」
悪態を付きながら、歩いて来た。
両手を地面に付く、澄宗の前に立った。
氷のツララで吹っ飛ばされた勘空は少し離れた位置で、両足を前に出した長座の格好で震えながら座っている。
何故だか腹から生えた氷をずっとナデナデしていた。
嬉しそうに、自分を囲う唱僧たちを見廻すユキオンナ。
「あれあれ~? どしたん? さっきみたいに攻撃して来ぇへんのぉ?」
手を拡げ、周りの唱僧たちを煽る。
「今な~~、ガード解いてんで~~~」
天使の笑顔が、肩を震わせて挑発する。
「狙うんやったら、今やで~~」
6秒は待った。
動かない。
動きが無い。
「しょーもなっ!」
吐き捨て、畝りを上げる。
グンっと、温度が下がる。
明かに、自然の寒さではない。
「あ、、、や、め、、!!!」
褐褐褐、、、。
澄宗の手を覆う氷が、腕を昇って来た。
手首までだった氷が、生き物のようにジワジワ這い上がって来る。
肘の、少し下まで。
成す術なく、凍る自分の腕を見つめる澄宗。
その視界の端に、白い厚底のスニーカー、、、。
「はい! ど~~~んっ!!」
にこやかに、ローキック。
地面にくっ付いていた澄宗の左前腕が、粉々に砕かれた。
反動で上半身が起き上がろうとするが、右手は地面に固定されたまま。
「はぁあアああ、、、?!」
血は出ない。
凍っている。
感覚が、無い。
痛みを感じない。
これは、、、夢か?
砕かれた己の腕を見る。
凍って、血も流れない。
現実離れしている。
せめて、痛みを感じたい。
でなければ、眼の前で起こったことを、信じられない。
腕が砕けるなんて、、、信じられない!
「痛たたた、、、。硬いやんっ! 金属バット持って来たら良かったわ」
ローキックした自分の足を大袈裟に痛がって、ハシャいだ声を上げるユキオンナを見上げた。
やっぱり、嗤ってる。
天使の笑顔で、地面を指さした。
見た。
残った自分の手が、地面とくっ付いていた。
砕かれた前腕部とは対照的に手首から先、凍った左手だけがそのまま地面に残っているのを、澄宗は見ていた。
「あああ、、、」
何とか元通りに、、、と、叶いもしない願いを込めて見つめている澄宗を見て、ユキオンナが唇を歪めて笑った。
これは何か、オモシロイ事を思いついたに違いない。
「ジャンピン・ぐぅ~~~~~!」
言いながら、ぴょんっ! と跳ぶと、両足で着地。
愚赦っ、、、!
「ああぁ、、、」
悲望絶望。
澄宗の凍った左手の上に、両足で着地していた。
「えいっえいっ!」
粉々になるまで、何度もその場でジャンプ。
その仕草が、カワイイ。
それを見つめる澄宗の眼が、虚ろになって行く。
「お、オレの、、、手、が、、、」
左手のあった地面を、最後にグリグリっとしてスマイル。
「無くなったー!」
イチゴ味のかき氷を落としたみたいに、地面がじんわり赤くなっていた。
「え~? ここまでやっても誰も掛かって来ぇへんのぉ?」
両手を拡げ、ぐるりと身体を回転させる。
自分を囲う唱僧たちに向けて、一人芝居のように可憐に舞う。
独壇場。
ユキオンナの行動に、勘空が悲鳴を上げていた。
殺される。
この女に、殺される。




