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カ・ル・マ! ~水の中のグラジオラス~  作者: 后 陸
水の中のグラジオラス 一の章
8/20

憧物欲愛 弐

 高野山。


 念の、、、ちょー念のために言っておくと、高野山は山の名前ではない。

 金剛峯寺を中心とした山号。

 伽藍(がらん)周辺を八つの低い山に、さらに外周を標高千メートル級の八山に囲まれた宗教都市。

 そんな環境で修行できるだけで、僧は幸せである。、、、そうな。


 その幸せな僧も修行のために生活する場所が必要で、その場所が宿坊となる。

 今では観光客を宿泊させるのが宿坊となり、一般の修行僧が寝食をする宿坊は宿坊でも、形を変え、その中の此処は学生寮と呼ばれる場所(ところ)になる。


 小さな二人部屋。

 木村顕正(けんしょう)は、そんな部屋に一つ上の兄僧、泉優(せんゆう)と生活を共にしていた。


 顕正は、同部屋のこの兄僧を好きでは無かった。

 どちらかと言うと、キライ。


 何でか?

 僧とは言えない、不謹慎な発言が多いから。


 年上だが、学生気分のまま此処(ここ)へ来た感じだ。

 マジメにやってる顕正からすると、この泉優という男は不謹慎で悪ふざけが(ひど)い。

 口から出るギャグも、差別的で古い。

 笑えない。


 『何しに来たんや』と思う。

 『ちゃんと修行せぇや』と思う。


 そんな修行の身でも、休みは有る。

 お寺カレンダーなるものがあって、ちゃんと休日が存在している。

 修行僧もしっかり一週間のリズムがある。


 で、その休みの前日になると、泉優は必ず()()を呼ぶ。

 同じ修行僧で泉優と同期の兄僧が、同じく同部屋の後輩を連れて来る。

 顕正が居る部屋に、わざわざ二人で来る。


 二人を呼ぶくらいなら、泉優一人が二人の部屋に行けば良いのに、何故か必ず二人が来る。

 二人部屋に、四人が居る状態だ。

 なんともむさ苦しい。


 むさ苦しい三人は、自分たちしか共感しない内容の話しで盛り上がる。

 毎回、ほぼ同じ話し。

 そして話しに詰まると、泉優が必ず言うセリフがある。


 「なぁ顕正、そう思わんか?」

 、、、だ。


 関係の無い顕正に、話しを振ってくる。

 一人ベッドで本を読んでいる顕正に、振ってくる。

 何のことを言ってるんだと聞き返すと、泉優はとても不機嫌になる。

 それはそれで後々(あとあと)メンドクサイので、背中を向けて二段ベッドで寝ていても、三人の会話を耳に入れて置かなければならない。

 この、しょーもない時間が辛い。


 しょーもない話しは決まっていて、アホな話しか金の話しか女の話し。

 そんな内容でよく笑えるなと思うのだが、三人はとても楽しそうに話して笑う。

 横で聞いてると、つまらない。

 顕正でなくとも、同じ事を思うだろう。

 ちっぽけな世界の身内ネタだ。

 それを飽きもせず、同じような事を話していく。


 毎週だ、、、。


 そして不意に、顕正の背中に向かって泉優が声を掛けてくる。

 「なぁ顕正、そう思わんか?」


 言われたらすぐに応えないと、二人が帰ってからのイビリが非道(ひど)い。

 「そうですね」


 、、、しょーもない時間。


 今日は、ちょっとだけ違っていた。

 やって来る二人っていうのが、さっきも言ったが一人は泉優と同期。

 この二人は昔から仲がよさそう。

 そしてもう一人。

 その同期の兄僧にいつもくっ付いて来る、顕正と同期の修行僧。

 始めは彼もこの二人の兄僧に無理矢理付き合わされてるのかと思ったが、どうやらコイツは顕正と違って、喜んで兄僧二人とツルんで居るようだ。


 尊文(そんぶん)と呼ばれている。

 仲良くはしない。

 この兄僧二人と、同じ人種だからだ。


 ――いや、もっと特殊な奴か、、、


 初めてこの部屋に来た時、連れて来た兄僧がナゼか自慢気に尊文の事を言っていた。

 コイツの親父は、小さいが芸能プロダクションを運営しているらしい。


 ジュエリープロダクション。


 名前が宝田ってんで、そんな名前のプロダクションになったらしい。

 休みに地元へ帰ったら、ぴちぴちのアイドルと一緒にご飯が食べれるらしい。


 ――馬鹿らしい。阿保らしい。羨ましい、、、


 そんな奴がマトモな僧に、成れる訳が無い。

 いつもそう頭の中で悪態(あくたい)を付いては、怒りを収める顕正。

 ただ、今夜はやたらゴソゴソ五月蠅(うるさ)かった。

 尊文がスマホを持ち込んで、なにやら動画を三人で見出したのだ。


 「これですねん、言うてたやつって、、、」

 「ホンマにそんなんしてんのか?」


 一瞬、静寂。

 そして、三人揃って感嘆の声。


 「おおぉ~~~!」×3

 「アホ! 声デカい! いつ見廻り来るか解らんねんから」


 自分も声を出しといて、急に怒り出す兄僧。

 背中で聞こえる声と雰囲気から、どうやら三人はスマホでエロ動画を見ているようだ。

 マジでチクって、コイツら此処(ここ)から追い出したい。


 「よう見えへんわ」

 「おまえ近付き過ぎやねん!」

 「見えへんねんって!」


 アホ三人の声の隙間から、女の喘ぎ声が(かす)かに聞こえる。

 間違いなく、エロ動画。


 「うっわ、、、マジや」

 「アカン、、、()ってくる、、、」

 「どうしよ、、、シコリたいねんけど」

 「便所行けや!」

 「でも見たいねん」

 「頭に焼き付けとけ!」


 背中越しに聞こえる会話は、自分を苛立たせるため聞こえるように、ワザと言ってるのかと思えてくる顕正。

 、、、爆発しそうになる。


 気配がした。

 三人がこっちに来る。

 顕正は、思わず振り向いた。

 泉優が、スマホの画面を顕正に向けて近付いてきたところだった。


 「顕正、オマエも見ろや」


 何を考えてるんだと思うよりも、振り向いた顕正の耳に届く喘ぎ声が脳を刺激する。


 ――やめろやめろやめろヤめろやめろやめろやめろ、、、


 「見ろって。スマホで撮ってるから、()()やぞ」


 兄僧が顕正の居るベッドにまで入り込み、画面をこれでもかと顔に近づけてくる。

 いや、そんなに近付けたら見えるもんも見えないし。


 「()()やんけ、、、見ろ!」


 嫌がる顕正の姿が、どうやら兄僧を興奮させてる。

 歯向かえない弱者を見て、興奮している。

 その後ろから、尊文の解説が始まった。


 「これな、親父やねん。恥ずかしわぁ。おやじのちんこ、何で息子が見なあかんねん」


 笑う兄僧二人。


 「見ろって顕正」


 あまりにしつこくされたので、目線を画面に送って、見てますよって態度を取った。

 眼のピントを合わせたりズラしたりして、ハッキリとは映像を見ないようにした。

 それでも、雰囲気で解る。

 自撮りってやつだ。


 スマホを持って撮影してるのが、尊文のバカ親父なんだろう。

 たまに下半身は映るが、顔は映らない。

 その画面に三人の女性が映ってる。


 女性、、、なのか?

 若すぎる印象。


 「コイツらな、うちの事務所のアイドルやねん。売れてへんけど、名前はまぁまぁ知られてるで」


 アイドル、、、。

 10代、、、?

 これが枕営業ってやつなのかと、顕正は思った。


 「そんでな、飯食わした(あと)事務所帰って、もっかい乾杯ってしてんて。そん時にな、飲み物に()()()入れてんて、、、」

 「?!」

 「何のクスリと思う? 教えたろか? 全身性器になるクスリ。もうドコ触っても『気持ちええわ~』言うて、自分から股広げてくるクスリやで」


 そう言うと、バカ笑いをした。

 ――何が可笑しい? 笑うトコか?


 「ほら見て顕正くん、アイドル同士でもレズってるし、コイツはちんこ()れられて喜んどるし、たまらんやろ?」


 尊文がそう言って、顕正に要らぬ解説をしてくる。

 へらへら笑ってしてくる。


 ウザい。

 尊文の話しが終わると、泉優が低い声で言う。


 「顕正、ホンマはオマエもこんなんしたいんやろ?」


 肩を組まれた。

 今度は、泉優の同期の兄僧が楽しそうに言ってくる。


 「見てみぃこの女、アホみたいな顔してオッサンのちんこしゃぶりながら自分でおもちゃ挿れて喜んでるわ! たまらんの~」


 顔を近づけてくる兄僧の手前、顔を画面から逸らす訳にはいかずに、自然と画面を見る形になった。


 「、、、?!」


 身体が、強張った。

 眼で見ながら、信じられなかった。


 「何や? タイプなんか?」


 瞳孔が開く。


 ――何でや、、、?


 ()()()が、どうしてスマホの画面に映ってるのか理解できなかった。





 ――な、ん、、、でや、、、?!





 射精した性器を、それまでレズっていた二人の女がしゃぶりに来た。

 精液で汚れた男性器を、交互に舐め合う顔が順にアップになる。


 、、、その、一人の顔に、見覚え、が、あった。


 「オマエ、こんなんが好きやったんか? フェチやの~」


 間違い無かった。

 奥歯を噛み締めた。

 拳を強く握った。

 それでも足りず、見えないように、自分の太腿に爪を立てた。

 熱いモノが流れ出す。


 、、、血だ。


 顕正は叫び声を上げる衝動を、必死に()えた。

 画面に映った女の顔が、網膜(もうまく)に焼き付いて脳にこびりついていた。



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