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カ・ル・マ! ~水の中のグラジオラス~  作者: 后 陸
水の中のグラジオラス 一の章
7/20

憧物欲愛 壱 その4

 解ってるが、眼を離せない。

 腕を元に戻そうと意識をそちらに向けたら、スグに攻撃を仕掛けてくるに決まってる。

 解ってるが、この距離では一秒掛からずに攻撃を受ける。


 ス、、、と退がると、同じ速度でス、、、と、モコが同じ距離を詰めて来る。

 右に動いても、左に動いても、鏡のようにモコが毘袁の動きに合わせてくる。

 視線を、、、意識を()らせた瞬間に、一発お見舞い出来る距離。


 間合いの取り合い。

 その間にも、実際の腕と弾き出された腕を繋ぐ糸が、どんどん切れていく、、、。


 哺繼(ぽつ)、、、。

 哺繼、哺繼、、、。


 間違いなく、この糸はブラフでは無く、意味のあるモノ。

 その証拠に、毘袁を見るモコのニヤニヤが止まらない。

 そして、、、。

 モコが両手を、だらりと下げた。


 「??」


 今度は右腕を前に伸ばし、毘袁の左腕を指す。


 「糸、、、全部切れたな」

 「?!」


 ――だから何だ?


 「三秒やる」

 「、、、?」


 不意に後ろを向くモコ。

 後ろ向きでも毘袁に聞こえるくらいの声で、数をかぞえ始めた。


 「い~~~~ち」

 ――チャンスか? 何だ?


 思考が混濁(こんだく)してしまう毘袁。

 背中を向けるモコを襲うより、、、。


 ――腕が先!

 「にぃ~~~い」


 さっき喰らった時のように、二本になった腕を重ねる。

 念じる。


 ――動け!

 「???」


 反応しない。

 何となく、答えは解かっていた。


 ――糸が、、、


 幻と現実を繋ぐ糸が、全部切れている。

 解っているが、理解したくない。

 現実が、毘袁を襲う。


 ――動け!動け!動け!動け!動け!!


 「さぁ~~~ん」

 数え終わると、モコがこちらを向いた。


 毘袁も、モコを見ていた。

 視線が、合う。


 「?!」


 毘袁は、解りたくない“答え”に辿り着いてしまった。

 それをハッキリ解らせるように、モコの拳で弾き出された薄い部分が、幻のように消えていく、、、。

 毘袁を見つめるモコは、やっぱりニヤ付いていた。


 「ほな、再開しよか」


 突進。

 モコの攻撃が毘袁を襲うが、当の本人の思考は全く別にあった。


 ――腕が動かない、、、腕が動かない、、、腕が動かない、、、腕が動かない、、、腕が動かない、、、腕が動かない、、、腕が動かない、、、腕が動かない、、、


 (きた)えられた唱僧(ヴェイソン)の毘袁がここまで動揺するのは、糸が全部切れたと同時に、薄い色の腕が消え行くのを視覚的に観せられた所為(せい)だ。

 残ったのは、自分の意思が全く届かない、感覚の無い腕。


 ――腕が動かない、、、腕が動かない、、、腕が動かない、、、


 もう解ってる。

 解ってるが、もう、自分の腕が、、、。


 ――腕が動かない、、、


 今は戦闘中。

 半身で受けるしかない、モコの攻撃。


 ――腕が動かない、、、


 不意に、軽い蹴りが左足に当たる。


 「あぁ!???」


 その足から、薄い足が弾き出された。


 ――け、蹴りでも、、、?!


 毘袁の思考が荒れる。


 ――足が、動かなくなる! ダメだ! 足を、、、!!


 重ねて、念じる。

 念じれば、スッ、と簡単に感覚が戻り、足は動く。


 ――やっぱりスグに念じれ、、、ば?!


 視線を上げたところに、モコの拳があった。

 左眼に喰らった。

 マトモに喰らった。

 眼底(がんてい)骨折。


 「くそっ」


 強引に右眼を開ける。

 見た。

 モコの攻撃は、止まらない。

 拳が眼の前に、、、!!


 ――ガード、、、! 右手まで使えなくなったら?!


 恐怖が、毘袁の動きを鈍らせる。

 迷いで遅くなったガードの隙を、モコの拳がすり抜ける。


 顎にヒット。

 揺れる脳。


 フッと力が抜けて、その場に片膝を付く毘袁。

 その立てた左膝に向かってローキック。


 「ああああ、、、!!!」


 足が、、、薄い足が、飛び出た、、、。


 「も、、(もど)さんと、、、(はよ)(かさ)ねて、、、!」


 飛び出た足を見ながら、必死に念じる。

 殺気。

 その瞬間、毘袁の視界いっぱいに、モコの膝があった。


 潰れる音。

 鼻が、ひしゃげる音。

 毘袁の首が()()り、そのまま身体ごと後ろに倒れた。


 「あ足、、、足足あ俺のああ足、、、」


 痛さより、足が動かなくなる恐怖が(まさ)っていた。

 首を起こして、足を見る。


 ――糸は、、、まだ二本繋がっている!!


 そう思った時、顔面を靴底が襲う。

 遠慮のない力が口を踏み付け、毘袁の後頭部をコンクリートに叩きつける。


 「が、、、!ゴホゴホ、、、」


 ()()()()()()()()を、血と共に吐き出す。

 幾度か咳をしながら、口の中に溢れた血を吐き出すと視線に気付いた。

 モコが、上から見下ろしていた。


 「足の糸、、、全部切れたで」


 その言葉に、痛みを忘れて上半身を起こす毘袁。

 慌てて自分の足を見る。

 濃い足と、薄い足を繋ぐ糸が、、、全部、切れてる。

 意思が伝わる方の薄い色の足が、消えていく、、、。


 「足、、、俺の足、、、もう、、、」


 絶望、、、と言う言葉では足りない思いが渦巻いた。

 色を失った眼、、、毘袁の視線が定まらない。

 無防備の側頭部に、モコの廻し蹴りが入る。

 幸せな事に、毘袁の意識がそこで途切れた。


 くるっと反転し、モコは金属バットを肩に担ぐ美少女のもとに行く。


 「おユキ、そろそろ行かんと騒ぎに気付い、、、て、、、て?」


 ユキオンナの足元で転がる男を見て、モコは驚いてさらに(あき)れかえる。


 「ん?」


 振り返ったユキオンナの表情を見て、モコはダメだと頭を抱えた。

 完全に興奮状態。

 眼が、イっちゃってる。


 「おユキ、もええから、行こ」

 「え? コイツ()()()()()()()


 金属バットで指し示された魯甫の、()()()()()()()

 何でこうなったかは、簡単に想像がつく。


 ユキオンナと呼ばれる女の拷問好きは、ちょっと引くくらいのヤバい性癖。

 手足を砕かれた魯甫の精神が、崩壊していた。

 涙、涎、血を流し、精神が壊れている。

 あれはもう、痴呆の表情(かお)だ。


 「今新手(あらて)来たら、ちょっとしんどいわ。それにほら、、、」


 ハイルーフの運転席に、視線を送る。


 「FF助けたらんと、圧死(あっし)すんで」

 「ん~~、FFは死んだらちょっと嫌やな」

 「そやろ? ()よ助けたろ」


 二人は運転席へ廻り、何とかFFを車外へ引き擦り出す。

 意識を朦朧(もうろう)とさせるFFに、肩を貸すモコ。

 さぁ行こうとしたら、あの女が、手足を砕かれた男にまた近付いていた。


 「ユキ!」


 震えて、(おび)える魯甫にお願いしていた。


 「生きてたら、偉い人に言うといて、、、」


 耳元に、可憐な唇を触れるほど近付ける。


 「()()()()()


 ごめんごめんとモコに舌を出して謝ると、FFを挟んでモコの反対側に立ち、同じように肩を貸して歩き出していた。



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