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カ・ル・マ! ~水の中のグラジオラス~  作者: 后 陸
水の中のグラジオラス 三の章
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策束静巡 参 その1

 テーブルの上に、水珠。

 ピンポン球より、ひと回り大きな水珠。

 聖の(つく)った、水珠。


 カンペキ。

 綺麗な真球体(しんきゅうたい)

 聖は回転させた。


 「?」


 声に出そうとして、()めた鈴木。

 思わず聞きそうになった言葉は、『これ、回ってる?』だった。


 綺麗過ぎて、透明過ぎて、眼の前の水珠が自転しているようには、鈴木にはどうしても観えなかったのだ。


 完璧な、真球体の回転現象。

 マジ完璧。


 「今のん、もっかい出来る?」


 離れの宿坊で、2人きり。

 持て余す時間を潰す様に、、、いや、鈴木は若い女の()との気まずい時間を誤魔化(ごまか)す様に、必死で(しゃべ)り続ける。


 オジサンが若い()に気を遣うの図。


 鈴木頑張ったが、ジェネレーションギャップは途方もなく大きい。

 どうしたって話しが合わない。

 それでも何とか共通の話題を探ると、結局、術の話しが一番盛り上がった。


 盛り上がったと思っているが、実際に盛り上がっていたのは鈴木だけ。

 聖の口から出る言葉に感動し、興奮する。

 術に対するアプローチが、宗興寺で習ったモノとは根本的に違うのではないかとさえ思った。

 一つの術に対する考え方が、どれも深く、しかも繊細(せんさい)

 術式公式の組み立て方を聞いて自分と比べると、雲泥(うんでい)の差がある事に気付かされる。


 ――童子って、こんなにも術に対して真摯(しんし)なモンなんか、、、


 鈴木、感心。

 聖と鈴木の差は、構築する術式の造詣(ぞうけい)の差。


 この差は、“誰に教わるか”で大きく変わったりする。

 あくまで考え方の違いとして例を()げるとすれば、、、。


 鈴木は、『1』と『2』を足せば『3』になる。

 と教えられたのに対し、聖の師は、こう教えた。

 『3』になるためには、()()()()()()が考えられる? 考えられるだけの術式を構築せよ。


 この差は、大きい。

 特に、考え方に大きな差が出る。


 述べた例文で言うなら、鈴木に対する教え方だと『3』にするには、『1』と『2』を使った足し算が“正解”という固定概念が出来上がり、思考がソコで止まってしまう。

 それ以上、脳が知識を要求しなくなる。

 対して、聖に対する教え方なら『3』にする方法は、引き算もあれば掛け算も割り算もある。

 さらに分数(ぶんすう)平方根(ルート)も使えるなら、()()()()()()()ために用いる数字は無限になり、幾らでも式を生み出す事が出来るし、数式を複雑化してもオモシロい。


 可能性が見えると、知識が脳を刺激する。


 今まで自分が習い、覚えて来た術式構築がいかに幼稚だったのかを思い知る。

 (うらや)ましく、(くや)しくも感じた。

 正直、スゴイ。


 鈴木は聖を見て、『スゴイ』と『マジか』を連発し、何度も感心していた。

 凄い事には、素直に『スゴイ』と言える鈴木もある意味凄かった。


 そんな鈴木に、聖の評価は普通のオッサンよりも好感度の高いオッサンに昇格。

 講義ほどではないが、師から得た知識を話すと知らなかった事は素直に知らないと言うし、感心するところは『マジか』と本当に心底驚いてくれる。


 話してて、ちょっと楽しい。


 聖が年上に対して感じる、しかも中年のオッサンの反応としては新鮮だった。

 そこらへんの中年のオッサンだったら、ピアスだらけの顔をした生意気で年端(としは)も行かない小娘(こむすめ)から自分の知らなかった事を言われたり指摘されたりしたら、『エラそうに言うな!』と急にデカい声で怒鳴って不機嫌になる。


 そんな経験、(くさ)るほど()る。

 オッサンとは、そんな生き物だと思ってた。


 鈴木は違った。

 話してて解かったが、鈴木の反応は同年代の男子と話している雰囲気に近いと思えた。


 ――これが、“大人になっても少年”ってヤツなんか?


 (ハラ)の中でそう思い、笑いを必死に(こら)える聖。

 ついつい鈴木を見ちゃう。

 見て笑っちゃう。


 ――無邪気というか、(たよ)んないっていうか、、、


 屈託なく、笑う。

 そんな男が、眼の前に居る。

 見つめられて笑われてるのに、テレる鈴木。


 「え? 出来るけど? そんな驚く事か?」


 さっきの聖のセリフに、テレ隠しで(あわ)てて返事をしていた。

 何でか?

 タイプじゃなくても、見つめられるだけで相手を好きになるタイプ。

 鈴木、それが鈴木。


 で、2人が何の話をしていたのかと言うと、術式公式の応用展開の話しで盛り上がっていた。

 観た方が早いと、聖が例としてテーブルの上に展開して創った水属性の術。

 それの解説が終わったので解除しようとしたら、鈴木が何気(なにげ)に右手で《《払った》》のだ。


 聖は、それに驚いた。



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