策束静巡 弐 その1
木村顕正には、とても仲の良い異性の同級生が居た。
とても可愛い。
健康的で、学校ではちょっとした有名人。
同級生はもちろん、下級生にも人気があった。
桐野愛花。
『将来は日本を代表するアイドルになる』
自分で言うのも憚らない、天性の明るさを持っていた。
いつも元気で、この可愛さなら大勢で居るグループの中に入っててもおかしくないと、顕正は本気で思っていた。
努力も惜しまない。
金曜日と土曜日の夜になると、愛花は小学校時代に通っていたダンス教室の片隅を借りて、映像を片手に、自己流だが歌や踊り、演技のレッスンを繰り返す。
『辛いけど、楽しい』
愛花が顕正に、口癖のように言っていた言葉。
実際に会えなくても週末のラインで見る文字は、愛花の声が聞こえて来そうだった。
スマホでその文字を見ると、顕正は自分も頑張れる気になれる。
言葉だけで満足できる、未熟さの美徳をまだ持っている年頃だった。
愛花がアイドルになりたいって思ったのは、中学の頃。
テレビの影響。
それに親からは、『人生の目標は、早いうちから決めておきなさい』と常々言われていた事も影響した。
親としてはちゃんとした職業に就くためのアドバイスとして言ってたつもりが、娘の口から出たのはアイドルだった。
困ったが、娘が目標として言った言葉を無下に否定するわけにもいかずにあやふやな態度をしていると、『中学を卒業したら東京へ行きたい』と言い出した。
それはさすがに止めた。
何の伝手も無く、知らない土地に行ってそこから始めるのに、16歳は早すぎる。と、親で無くとも思うこと。
とにかく、高校三年間は勉強をしなさい。
同時にアイドルの勉強もすれば良いのではないかと、それっぽい事を言って地元の高校へ進学する事を約束させた。
親としてはこの三年の間に何とか他の事に興味が湧いて、マジメに大学まで行ってくれないかな、、、と都合の良い考えをしていたが、愛花の気持ちはブレなかった。
それどころか、さらにヤル気を出してきた。
卒業と同時に上京するためには、今の内から下準備をしなければならない。
親に言われた『何の伝手も無い』ってのは確かに無謀だ。
なので三年間のうちに、“芸能界”という所に何かしらの繋がりを持たなければならない。
でも中学の愛花には、何をどっから始めれば良いのか解らない。
解らなければ、ググる。
地元神戸に、しかも学校帰りに寄れそうな場所に芸能事務所がある事を知った。
ジュエリープロダクション。
調べると、主にイベントなどのコンパニオン、司会、それと広告モデルがメインの小さな会社みたいだ。
所属タレントは3人。
その内の1人が、エキストラから朝ドラのちょい役に抜擢されたのが一番の売りらしい。
運頼みの活動っぽく聞こえるが、何もないよりかは良い、、、と思う。
宝くじも買わないと当たらない。
とにかく何かしないとなんにも変わらない。
愛花は、ジュエリープロダクションの扉を叩いた。
結果は、会った瞬間、『合格』と言われた。
ホンマかいなと『社長』という人物を見たが、ただの太ったオッサンにしか見えなかった。
事務所に入る時に、条件はしっかり伝えた。
所属は、高校在学中の三年間のみ。
高校を卒業したら、東京の事務所に行きたい。
その間はしっかり働くので、知ってる事務所があったら紹介して欲しい。
自分の都合ばかり言ったが、案外社長は受け入れてくれた。
後で所属している先輩に教えて貰ったのだが、この事務所はタレント志望の卵を篩にかける仕組みが出来てる事務所らしい。
というのも、仕事は主にエキストラ。
関西圏で撮影があると、よく依頼が入る。
設定額が、他のプロダクションより安く設定されているからだ。
エキストラで現場に所属タレントを連れて行き、関係者に売り込む。
そして、気に入って貰えたら投資した金額よりも高い値段で買ってもらう。
それが社長の目的。
初めから、売ろうとはしない。
転がす気で、タレントを飼っている。
そうやって儲けを出している事務所。
愛花で言うなら、エキストラに行くときの服代、見栄えが悪ければ美容室にも行かせる。
他の事務所の話しだと、エキストラは自前で必要な物を準備していくらしい。
殆どが自前になるのだが、それを社長が用意してくれる。
それが、この事務所の投資。
で、細い、薄い繋がりを必死で手繰り寄せて、自社タレントを売り込む。
気に入って貰えたら、“移籍”と言う形でお金を貰う。
これが儲け。
だから、意外にもちゃんと面倒は見てくれる。
社長の期待(?)に応えるべく、愛花は努力を続ける。
人柄は関係者の評判も高く、地元の衣類関係の会社のモデルになったのをきっかけに、地元ローカル番組のレポーターなんかも時折こなす様になった。
それでお金が貰えると夢が近付いて来ている気になり、仕事の無い週末の自己練習にも気合いが入るってもんだ。
愛花、めちゃくちゃ頑張る。
何でそこまで頑張れるのか?
自分でアイドルに成るって宣言したから?
それだけじゃあない。
約束をしたから。
顕正と、、、。




