策束静巡 壱 その7
ただユキオンナのこの行動は、タイミング的に最高だった。
モノアイが丁度、ユキオンナの処遇に迷ってる時だったのが大きい。
かくして2人は、休戦状態に入る。
「ブラックマウンドってなぁ、相手の脳の中に“麻薬”を出せんねんて」
2人とも驚いた。
思ってもみない単語が、ユキオンナの口から出てきたから。
「麻薬?」
「脳内麻薬って言葉は聞いた事あるけど、、、」
そう言って、モコはユキオンナを見て、FFも見た。
2人の反応は、、、?
「俺、難しいのんは解らんわ。脳ミソに麻薬? それでどうなんねん?」
「ラリんねんやろ」
当りまえのこと聞くなや的に、即答するユキオンナ。
「、、、それで、廃人?」
モコが噂で聞いてた話しと合致した。
人を廃人にするってのは、どうやら本当のようだ。
「ほんで、モノアイが言うんはな、ブラックマウンドってヤツの能力、“物質化”出来んねんて」
「??!!」
ユキオンナを見た。
笑ってる。
モコとFFが、顔を見合わせた。
そしてまた、ユキオンナを見る。
「マジで?」
先に声に出したのは、FF。
「なぁ? ビックリするやろ?」
確かに、ドびっくりだ。
能力を物質化、、、。
ちょっと何言ってるか解らない。
そんなレベルの話し。
「それが、コレやねん」
眼薬の容器みたいなのを、振って笑顔。
「、、、麻薬?」
「媚薬やって言うたやん」
ケラケラ笑う。
――何がオモロイ?
「脳の中に麻薬を創るんやろ? それが何で媚薬に成んねん?」
「能力を物質化する時に、何でかそうなんねんて。、、、知らんけど」
う~ん、、、と呻るFF。
ジッと見る。
容器と、ユキオンナを、、、。
FFが頷いて、ポンっと膝を叩く。
昭和風、“納得”のアクション。
「なるほど。よっしゃ解った。要は金と女でそのプロダクションの社長を取り込んだって事やな?」
「ま、そういうこと」
戸惑うモコ。
「エラい簡単に納得したな、、、?」
「もう考えんのん、しんどなったわw」
ガハハハッと笑うFFを見て、モコは感心した。
――設定徹底してるな~
「ほんで、捕まえた社長の息子くんは、使えそうなんか?」
FFの態度は変わらない。
いつものように、エラそうに聞く。
「神戸行って見てきたけど、フニャチンやったわ」
そう言いながらコーヒーを飲む仕草は、可憐。
「あれは、ケツ捲りよんな」
「そんなフニャフニャなんか? もう身代わり決定やんけ」
「なんやったら、向こうで落ち合うたらソッコー摘んで良えで」
「え? 場所とか、聞かな解らんのんちゃうん?」
「それはインド人に飼われてる坊主に聞いたら良え」
「いや、、、でも、、、」
「いつ行く? あたしは今からでも良えけど、どうする?」
興奮して、目が潤んでいた。
まるで今から告白でもするような、少女の眼差し。
「遅うても一週間以内に行ける日ぃ言うて。向こうにも言わなアカンからな」
「オッケーや。俺はいっかい帰って段取るわ。次の仕事の都合もあるしな」
ユキオンナが、驚いてFFを見ていた。
「“億”の仕事をこれからやんのに、その後まだ働くん?」
困った顔をして、頭を掻いた。
「ちゃうねん。この仕事の前にやり掛けてたヤツあったやろ?」
確かに。
インド人からこの話しが舞い込んで来たのは、ちょうど3人で別件に取り掛かったところだった。
「おユキがめっちゃ動いてくれてんのん知ってるけどな、先約の方も話し進めんと、、、俺みたいな“フリー”は信用が第一やからな」
「そうなん?」
「そうや。おユキが高野山の件で動いてくれてる間、俺とモコは先約の仕事を段取ってたって事や」
「そうなんや~」
屈託のない、ユキオンナの笑い。
ただ、本当かどうか、、、。
「そうなんやで~」
「2人で?」
その言葉に、モコはドキッとした。
勘繰られてる?
怪しまれてる?
カマかけられてる?
――どれや?
ユキオンナの思考が、読み取れない。
完璧な仮面。
美少女と言う仮面を、見事に被っている。
「そりゃそうやろ。3人で顔合わせ行っといて、デカい仕事入ったから後は知りまへんって、、、信用無くすわ」
「そうなん?」
「そうなんやって。向こうさんには『スグには動かれへんようになったけど、必ずやらせて貰います~~』って言い訳しとかんと。謝罪も兼ねとるからせめてモコには付いて来て貰わんとカッコ付かんねん」
「へ~~、大変やなぁ」
「おじさんの苦労、解ってくれたかな」
FFは立ち上がりながら、カップのコーヒーを飲み干した。
「ほな俺もう行くわ」
鎖の付いた長財布から、万札を1枚。
指で折り目を付けて、ユキオンナの前に立てて置く。
「明日またその客に会うから、連絡は夜か、、、遅うても明後日。ほなな」
一度も振り返らずに、FFが出て行った。
「コーヒー1杯に、1万か。イキっとんのぉ」
ユキオンナと眼が合うモコ。
「なぁ?」
同意を求めらる。
「でも、FFやったら、普通やん」
「キャッシュレスの時代やっちゅうねん」
――ツッコミどころは、そこか
「何や、モコはエラいFFの肩持つやん? デキてんの?」
「はぁ? FFデブ專やろ? なんでうちと、、、」
「いやぁ、何となく」
――この女、、、
「せやな。あたしはミイラみたいって言われてるからな」
――疑ってる?
「モコは?」
「うち? せやなぁ、、、うちもいっかい帰ってシャワー浴びるわ」
「そうか」
「FFから連絡来たら教えて。うちは何時でも良えから、寝て待ってるわ」
そう言って立ち上がりながら、財布を出そうとして舌打ち。
「、、、ちっ」
「どしたん?」
「この前ん時、財布落としたんやった、、、」
「あぁ~、言うてたな。かまへんで、FF万札置いてったし」
くの字に立つお札を、ちょんちょんと触る。
「ほんなら、ご馳走になっとくわ」
立ち上がり、背を向けた。
出口に向かうモコの背中に、聞こえるか聞こえないか微妙な音量でユキオンナの声が当たる。
「2人で行かなカッコ付かへん言うてたのに、今は一緒に付いて行かへんねや、、、」
――!!
無視。
聞こえないふり。
振り返っての言い訳は最悪だ。
モコは平然を装い、ファミレスの扉を押し出て行った。
見送りながら、カワイイが微笑む。
「あんなマヌケやったっけ、、、?」
ユキオンナも、残ったカップのコーヒーを飲み干した。
「マジでそろそろ、摘むか、、、」
FFの万札を無造作にポケットに仕舞うと、スマホの支払い画面を準備しながらレジへと向かった。




