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カ・ル・マ! ~水の中のグラジオラス~  作者: 后 陸
水の中のグラジオラス 三の章
39/49

策束静巡 壱 その3

 日本のEG使いに、ビビってしまったのかも知れない。


 その微妙な感情も、術式構築中であればノイズになる。

 ノイズは意思を持つ前の“思索(しさく)”で、()を自覚する前の“自我(じが)”。


 それこそが、エレクトリック・ゴーストに成る前のEG波。

 この部屋で起こっている霊的エネルギーの興和(こうわ)状態は、EG波の充満(じゅうまん)と同意になる。


 そこに、FF。


 FFは普段、()()()()()()()()()複雑な“術式公式”を使っている。

 つまり、()()()使い手ではない。


 今も電気的霊体を主とする術式が、(かさ)ねて展開されている。

 これをインドの術者は、()()()()()()()()と感じた。


 EG使いの基本的な手順は、浮遊するEG波を体内に取り込む。

 それを自分の属性に染めながら、波動を上げる。

 EG波が完全に自分のモノになったら、身体に纏わす。

 その時の現象が、『畝りが増す』と表現されるモノ。


 それに“意思”を込めれば、術が発動する。


 その一連の動作が、この部屋でいとも簡単に出来た。

 まるで、EG波が()()()に浮遊する結界内に居るように感じた。

 勝手に力が(みなぎ)る感覚。

 もしかして自分のレベルが上がった? と勘違いしてしまいそうなほどだ。


 NGで構築された術式を、有り余る電気的エネルギーで強引にEG波に書き換えてる状態。

 、、、なのだが、FFとしては自分の術式を展開してる感覚しか無く、書き換えているとは思ってもいない。

 反対にインドの術師3人は、自分達の術式をあっという間に分解、再構築されて戸惑い、それをやったのがたった1人のEG使いだと認識して戦慄(せんりつ)していた。


 日本のEG使いは、レベルが違う。


 その勘違いが(こう)(そう)したか、交渉役の男に眼で合図していた。

 この使い手たちと、何としても契約を、、、。

 一度頷き、正面のFFに話し始めた。


 「私たちは、自分達のモノを取り返したいだけなのだ」

 「自分達の、、、モノ?」

 「そうだ」


 その男が言うには約1200年以上前、一人の日本人に盗まれた秘術を取り返しに来た、、、んだそうだ。


 男の話しを順序立てて聞くと、、、。


 まず当時の中国、唐から優秀な高僧が、天竺(インド)に勉強の為やって来た。

 かなり優秀で、自国に帰っても習った経典を広める事を誓ったので、その男の誠実さに一部の者しか携われない天竺の秘宝とも言うべき国家機密、“密秘”を経典と共に手渡した。


 新たな経典を広めようとするとき、必ずそれを阻害(そがい)する者が現れる。


 『その者が武力であなたを排除しようとするならば、この密秘なるモノはそれらを追い払うために役立つハズだ』


 と、身を守る手段として()()()()()()()()()


 それは中国の優秀な高僧の信頼を担保に、当時の国家間取引によりインドから中国に渡ったモノ。

 だが、決して譲渡してはいない。

 レンタルだ。

 約1300年以上、ずっとレンタル。


 細かい事を言うと、インド側はそう認識し、中国側は貰ったと解釈。

 そのお陰で、今でもインドと中国はあまり仲がヨロシクないらしい。


 話しを戻して、それから約200年後、日本から中国に来た坊主が教えを()()()をして国宮に近付き、どうやったか厳重に保管された密秘数点を盗んで消えたと言う。


 どれも危険で、生半可(なまはんか)な者が(あつか)える代物では無い。

 使い方によっては、その中の魔道具一つで国を滅ぼし()ねない力を持つ。


 それを、、、。

 そんな事を、本当に悲し気に話す交渉役。


 「その中の一つを、やっと見つけました」

 「それは?」

 「パーガル・クッティ・キィ・マァヒンマ」

 「ぱぱぱ、、、?」


 FFが舌を噛みそうになってる。

 両サイドのモコとユキオンナは、笑いを(こら)えるのに必死だ。


 「ななな何て言うた?」


 公証人は、もう一度言う代わりに日本語で答えてくれた。


 「日本式に言うと、嘘実哭怨(こみこくおん)


 デンタイで、波働と糸が話していた秘術。

 日本で言うところの、“空海の密秘”。


 彼らからすると、“玄奘の密秘”。

 

 交渉役の男は、このEG使いがどんな反応をするのか楽しみに見ていたが、FFの顔はキョトンとしていた。


 「何それ?」


 横の、ロリ系愛玩人形のような少女が聞いていた。

 FFも同じように聞く。


 「ホンマや。何やねんそれ?」


 ロリの反対側に座る、端正な顔立ちの女性も同調して首を(かし)げていた。

 男は、『あれ?』と思った。


 高野山にある有名な、日本では『空海の密秘』と呼ばれているんじゃないのか?

 密秘の中でも、象徴的な呪具、、、じゃないのか?

 術師なら、みんな知ってる有名な術式、、、じゃないのか?

 それを、知らない、、、?


 ――コイツら、マジで術師か?


 不正解。

 EG使いだ。


 男はこのまま話しを進めて良いのか、迷い始める。

 モコも、話しがデカ過ぎて1人なら絶対に断っていた仕事。


 高野山と言えば、NGを使う術師がゴロゴロ居るところ。

 いくらFFとユキオンナが居ると言っても、危な過ぎる、、、と思う。

 迷う両者。


 不意に、男の視線の先に氷が出現。


 「?!」


 現れた氷はみるみる大きくなり、サッカーボール大に(ふく)らむと、突然重力を思い出したように落下。

 両者を挟む、ガラステーブルを(くだ)いた。

 インド人もびっくり。


 ――どいつが?


 交渉役の男は、眼の前の3人を素早く見た。

 動いていない。

 動作も、詠唱(えいしょう)も無し。


 ハッとして、ドアの前に立つ仲間の顔を見た。

 仲間が交渉役の前に座る3人の中の1人を、驚愕の眼差しで見ていた。

 その視線を、()()()

 仲間が見ていたのは、インド人も納得の美少女。


 ――コイツが、、、?


 交渉役がユキオンナを見た時、その容貌(ようぼう)とは不相応(ふそうおう)なアブナイ(かお)が浮かんだ。


 「ほんで結局、それを取って来たら()えのん?」


 本能的に、ヤバいと感じた。

 この美少女は、、、!


 「ま、まぁ、そう言う事だ。何としても、、、」

 「その『何としても』ってのんを、『()()()()()』ってぇのに変えて()えんやったら引き受けるわ」


 (あせ)るモコ。


 「おユキ! 勝手に、、、」

 「シンプルな方が、動きやすいねん」

 「わははは! ホンマやな。条件付きの仕事ほどやり(にく)いモンはないからな」


 インド人は、一瞬悩む。

 しかし、これだけの使い手は、そうは居ないだろうとも思う。


 「密秘の魔具を傷つけなければ、問題はありません」

 「勝手に話を、、、」

 「オッケー。それやったら、、、」

 「それやったら(あと)はマネーやな。ナンボ出す?」


 FF、ふんぞり返る。


 「そちらの条件は?」

 「1人、1億!」


 ユキオンナの眼が、嬉々(きき)とする。

 お金の(から)んだ交渉は、FFにしてもらうのが一番。

 唇を一文字にした交渉役の男が、FFを見る。

 値踏み中。


 「商店街のおっちゃん(ちゃ)うねんから、こっから値切りとか無いで。()うたんが最低ラインや」


 反応を見る。

 男が何かを言うタイミングで、ほんの少し早くFFが言葉を付け加える。


 「別に1億。これは前金を兼ねた準備金や。用意せぇ。それが無いと動かれへん」


 前金1億。成功報酬3億の要求。

 う~~んと(うな)る男。


 「ええか、言うといたるわ。こ~んな危ない仕事、まず誰も()けへんで。相手高野山の坊主やで、怖い怖い。まぁ、他のヤツが仮に請けたとしよ。考えてみぃ、こんな安い金額でやってくれるヤツ()ると思うか? 日本人が日本全国の坊主を敵に回す仕事やで? そこ、立っとる3人とよう相談して返事しぃや」


 (まく)し立てるFF。

 交渉役に、考える時間を与えない。


 「3分待ったる」


 そう言うと、FFは深々(ふかぶか)とソファに背を預けた。

 大袈裟(おおげさ)に、左腕に付けたよく解らない高そうな腕時計をアピりながら見る。


 「はい。よ~い、どんw」

 「ちょっと、FF、、、」


 モコが文句を言いたげだが、意に返さない。


 「俺はカップラーメンに5分は待たれへん。3分が限界や。あと、エラそうに(フタ)の上に置けとか後で入れろとか言う生意気なんも好かん。(フタ)(まく)って()(そそ)いで3分。それ以外はもう、注文の多い料理店やな」

 「何の話や。そんなんで誤魔化されへんねん。この仕事、ホンマに()けて()えんか? かなりヤバい方向に行って無いか?」

 「()えやん。あたしもカップラーメン好きやで」

 「おユキまで何やねん! ラーメンはもうええねん! 仕事の話しや!」

 「ほらぁ! 1分前やで~。返事まだか~?」


 交渉役の男の耳元に、向かって左側に立っていた男が屈んで(ささや)く。

 聞こえはしない。

 でも、交渉役の男は頷いて、FFを見た。


 「成立だ」


 満足そうに頷くFF。

 モコにキャッシュカードを出せと言う。

 出させたカードを、男の方へ向ける。


 「写メでも何でも良えから、口座番号覚えや。そこに前金の1億入ったら、動くわ」


 スマホでカードを撮ってから、男が最後に聞く。


 「振り込んで、あんた達がちゃんと動いてくれるって保証は?」

 「無いな」


 あっけらかんと言うと、FFが立ち上がる。

 モコとユキオンナにも、立てと促す。


 「心配やったら振り込まんかったら良え。も一回言うで、モコの口座に1億入ったら、アンタらの欲しいモンを取ってきたる」


 その翌日、9桁の数字がモコの口座に表示されていた。


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