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カ・ル・マ! ~水の中のグラジオラス~  作者: 后 陸
水の中のグラジオラス 二の章
35/50

偽風道落 陸 その1

 阪急電車に向かう途中で、名前を呼ばれた。

 こんな優しいトーンで自分に声を掛けてくる人物は、1人しか居ない。


 確信して、まゆらは振り向いた。

 確認するまでもなく、思った通りのクラスメイトが立っていた。


 「ちょっと待ってって、、、」


 ずっと走って来たのか、大きく肩で呼吸(いき)をしている。

 自分の両膝の上に両手を置いて、さらに大きな呼吸(いき)をひとつ吐いてから、その顔を上げた。


 高輪流(たかなわながる)


 満面の笑みで、笑い掛けてくる。

 まゆらに、、、。

 それだけで、ちょっと耳が赤くなる。

 テレる。


 「な、なんやのん、、、」


 まゆら不愛想(ぶあいそう)

 流はそれが、まゆらのテレ(かく)しだと気付いたのか気付いて無いのか。

 まぁ、元々(もともと)あまり気にしないタイプではある。


 「ありがとう」

 「? な、何が?」


 唐突(とうとつ)も無くお礼を言われて、意味不明。

 まゆら困惑。


 「毎日来てくれてたんやって?」


 正解。

 まゆら、またテレる。


 「はぁ? (なん)()うとう。そんなん知らんし」


 そんなまゆらに、意地悪な笑いを見せる。


 「おかしいな~。看護師さんが教えてくれてんけど?」

 「ん、何を?」


 流が病院で目覚めた時、世話をしてくれていた看護師さんから、毎日見舞いに来てくれてる女の()の話しを聞いていた。


 「それって、まゆらやろ?」


 またまた正解。

 まゆら、またまたテレる。

 テレを誤魔化(ごまか)すために、(にく)まれ(ぐち)()く。


 「そんなん、あぁしかどうか解らんやん」


 それはまゆらの言う通り。

 実際にまゆらの他にも、何人も流の見舞いに来てくれている。

 その中に、当然、()()山下彩那(あやな)も居た。

 でも、毎日欠かさず、同じ時間に来るのはひとりだけ、、、。


 面会時間が終わる30分前に来て、看護師さんに声を掛けられても椅子にも座らず、ずっとベッドに横たわる流の顔を見ている。

 そして、いっつも同じパックジュースをちゅーちゅー飲んでる。

 看護師さんが、面会時間の終わりを告げると、必ずそこで『ジュロロろ、、、』と最後のひと口をストローで吸い上げる音がする。


 そりゃあ、ナースセンターで有名になる。

 バレバレなのに認めないまゆらに、流は楽しそうに追い打ちをかける。


 「看護師さん()うてたで」

 「何を?」

 「いっつもボサボサ頭で、、、」

 「はっ?!」


 右手で髪の毛を触った。

 ――確かに、、、


 「いっつもマスクしてて、、、」

 「はっっ?!」


 ――今もしてる、、、


 「百舌鳥が丘高校の制服、、、」

 ――それは学生やからなっ!


 「踝までのロングスカートで、、、」

 ――()()()()()んがお約束やろっ!


 「ジャングルブーツ履いてたってw」

 ――おのれ看護師、、、よう見とぅ( 一一)


 「はい、まゆら確定!」

 「知らんしっ!」


 ちょっと意地悪が過ぎたか?

 流に背を向け、早足で先を歩くまゆら。


 「ちょっと待って!」


 もう阪急電車の駅が見える。

 まゆらのマンションとは、方向が違う。

 つまり、、、と、流は確信する。


 まゆらは、電車に乗る。

 電車に乗って、()()()へ行く気だ。


 結界。


 登校して三日目で、やっとまゆらと話せる時間が出来たのに、、、。

 聞きたい事が、いっぱいあるのに、、、。

 声が、まゆらの声が聞きたいのに。

 どんどん先を歩いて行くまゆら、、、。

 追い掛けようとしたが、不意にその場で(うずくま)る流。


 「、、、痛てててて、、、」


 流の声に(あわ)てて振り返り、駆け寄って背に手を当てるまゆら。


 「だ、大丈夫?」

 まゆらが、流の顔を覗き込む。


 「?!」

 まゆらの心配してくれている表情が、思ってたよりも大きな罪悪感となって自分に()し掛かって来ることに驚いた。


 ()()ぐ見てくるまゆらの瞳に、耐えられない。

 流、海より深~~く反省。


 「いや、ごめん。ウソ」

 「え?」


 流が、驚いたまゆらの手を握る。


 「ホンマは、痛ない、、、」

 ――!!


 怒るまゆら。


 「最低や! ひ、人が心配する嘘つくなんか最低や!」


 怒ってはいたが、握られた手は振り(ほど)けなかった。

 嘘の裏側にある気持ちを、直ぐに()み取ってしまったから。


 呪言童子の、悪い癖。


 「そんな嘘でもつかんと、まゆらさっさと電車に乗ろうとするやん?」


 図星。

 言い当てられて、ハラ立つ。


 「まゆら学校で、全然話してくれへんやん」

 「そ、それは、、、」


 ――こっち見んな


 「まゆら、完全に僕のこと避けてるやん」


 ――こっち見んなって、、、


 「僕のこと、、、キライになった?」

 思わず、それは絶対に違うと、流の眼を見つめ返してしまった。


 ――しゃーから、、、


 「なぁ、まゆら、何で?」


 ――アカン。これ以上見られたら、スキって言いそう


 スキ。

 すき。

 好き。


 その単語と連動して、中年の顔が浮かんだ。



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