偽風道落 陸 その1
阪急電車に向かう途中で、名前を呼ばれた。
こんな優しいトーンで自分に声を掛けてくる人物は、1人しか居ない。
確信して、まゆらは振り向いた。
確認するまでもなく、思った通りのクラスメイトが立っていた。
「ちょっと待ってって、、、」
ずっと走って来たのか、大きく肩で呼吸をしている。
自分の両膝の上に両手を置いて、さらに大きな呼吸をひとつ吐いてから、その顔を上げた。
高輪流。
満面の笑みで、笑い掛けてくる。
まゆらに、、、。
それだけで、ちょっと耳が赤くなる。
テレる。
「な、なんやのん、、、」
まゆら不愛想。
流はそれが、まゆらのテレ隠しだと気付いたのか気付いて無いのか。
まぁ、元々あまり気にしないタイプではある。
「ありがとう」
「? な、何が?」
唐突も無くお礼を言われて、意味不明。
まゆら困惑。
「毎日来てくれてたんやって?」
正解。
まゆら、またテレる。
「はぁ? 何言うとう。そんなん知らんし」
そんなまゆらに、意地悪な笑いを見せる。
「おかしいな~。看護師さんが教えてくれてんけど?」
「ん、何を?」
流が病院で目覚めた時、世話をしてくれていた看護師さんから、毎日見舞いに来てくれてる女の娘の話しを聞いていた。
「それって、まゆらやろ?」
またまた正解。
まゆら、またまたテレる。
テレを誤魔化すために、憎まれ口を利く。
「そんなん、あぁしかどうか解らんやん」
それはまゆらの言う通り。
実際にまゆらの他にも、何人も流の見舞いに来てくれている。
その中に、当然、あの山下彩那も居た。
でも、毎日欠かさず、同じ時間に来るのはひとりだけ、、、。
面会時間が終わる30分前に来て、看護師さんに声を掛けられても椅子にも座らず、ずっとベッドに横たわる流の顔を見ている。
そして、いっつも同じパックジュースをちゅーちゅー飲んでる。
看護師さんが、面会時間の終わりを告げると、必ずそこで『ジュロロろ、、、』と最後のひと口をストローで吸い上げる音がする。
そりゃあ、ナースセンターで有名になる。
バレバレなのに認めないまゆらに、流は楽しそうに追い打ちをかける。
「看護師さん言うてたで」
「何を?」
「いっつもボサボサ頭で、、、」
「はっ?!」
右手で髪の毛を触った。
――確かに、、、
「いっつもマスクしてて、、、」
「はっっ?!」
――今もしてる、、、
「百舌鳥が丘高校の制服、、、」
――それは学生やからなっ!
「踝までのロングスカートで、、、」
――神戸は長いんがお約束やろっ!
「ジャングルブーツ履いてたってw」
――おのれ看護師、、、よう見とぅ( 一一)
「はい、まゆら確定!」
「知らんしっ!」
ちょっと意地悪が過ぎたか?
流に背を向け、早足で先を歩くまゆら。
「ちょっと待って!」
もう阪急電車の駅が見える。
まゆらのマンションとは、方向が違う。
つまり、、、と、流は確信する。
まゆらは、電車に乗る。
電車に乗って、あそこへ行く気だ。
結界。
登校して三日目で、やっとまゆらと話せる時間が出来たのに、、、。
聞きたい事が、いっぱいあるのに、、、。
声が、まゆらの声が聞きたいのに。
どんどん先を歩いて行くまゆら、、、。
追い掛けようとしたが、不意にその場で蹲る流。
「、、、痛てててて、、、」
流の声に慌てて振り返り、駆け寄って背に手を当てるまゆら。
「だ、大丈夫?」
まゆらが、流の顔を覗き込む。
「?!」
まゆらの心配してくれている表情が、思ってたよりも大きな罪悪感となって自分に圧し掛かって来ることに驚いた。
真っ直ぐ見てくるまゆらの瞳に、耐えられない。
流、海より深~~く反省。
「いや、ごめん。ウソ」
「え?」
流が、驚いたまゆらの手を握る。
「ホンマは、痛ない、、、」
――!!
怒るまゆら。
「最低や! ひ、人が心配する嘘つくなんか最低や!」
怒ってはいたが、握られた手は振り解けなかった。
嘘の裏側にある気持ちを、直ぐに汲み取ってしまったから。
呪言童子の、悪い癖。
「そんな嘘でもつかんと、まゆらさっさと電車に乗ろうとするやん?」
図星。
言い当てられて、ハラ立つ。
「まゆら学校で、全然話してくれへんやん」
「そ、それは、、、」
――こっち見んな
「まゆら、完全に僕のこと避けてるやん」
――こっち見んなって、、、
「僕のこと、、、キライになった?」
思わず、それは絶対に違うと、流の眼を見つめ返してしまった。
――しゃーから、、、
「なぁ、まゆら、何で?」
――アカン。これ以上見られたら、スキって言いそう
スキ。
すき。
好き。
その単語と連動して、中年の顔が浮かんだ。




