偽風道落 伍 その4
波働は今、楓の言葉で全部繋がった気がした。
「波付は、どちらかと繋がっている、、、」
楓が、先生の様に話す。
「慶壱くん、それが高野山側やったら、どうなん?」
波働、思案。
「高野山側なら、復讐のついでに協会自慢の童子を殺す。殺して、責任はEG使いに被せる」
「なるほど~。ほんなら、四術宗家側やったら?」
波働、再び思案。
「四術宗家側ならどさくさに紛れて殺し、戦闘中の裏切り行為があったとして寺を訴える。これで戦争」
「あちゃ~。どっちにしても、童子は殺されんな~」
「あっ?!」
声を上げた。
あの、波働が、、、。
「何やナンヤ?!」
どうやら、楓との会話で答えに導かれたようだ。
「それで、呼ばれたのか、、、」
さきほど楓に、デンタイが呼ばれた理由を波働は半分嫌味で言ってたが、本当の経緯は前日に、ミカドに直接呼び出されていた。
そこで、デンタイを何とか一緒に連れて行けないかと相談された。
二課とのやり取り、呼び出し、内容を考えると、これは完全に二課の仕業だと思い込んでいた。
思い込むと、思考はなかなか変えられない。
変えられないから、波働はこれ以上現場に派閥の違う術師を入れたくないと頑なに思った。
ミカドと言えども、一度は丁重にお断りした。
それでもミカドは、波働にお願いをしてきた。
『心配で、、、』と言われた。
――何が?
『頼みましたよ』と言われた。
――何を?
今、解かった気がする。
本当にお願いされていたんだと、、、。
これまでも、何度かミカドと対面している。
眼は合わせられないが、、、。
何で気付かなかったのだろう。
ミカドは、自分の意見をゴリ押しするような人じゃない。
そもそも、仕事に関して口を出さない。
ミカドは、見守る人だ。
心底、優しい人だ。
その人が、頭を下げて頼むって事は、、、。
「殺されるのを、知っていた、、、?」
「えぇ?!」
多分そうだ。
「どゆこと?」
楓の方から、身体を寄せて聞いていた。
「絶対的権力を持っていると思っていましたが、違ったようです」
「ミカドのこと?」
「ええ。天上の人も、“しがらみ”は解けないみたいです」
「三歳児バージョンで、教えてくれへんかな?」
「どうやらミカドは今回参加した童子が、殺される運命にある事に気付いたようです。でもそれを阻止するどころか、反対に協力させられた形になったんだと思います」
「敬語! 何でそう思たん?」
「高野山の失態に対し、早過ぎる四術宗家側の対応。出過ぎた公安の協力。どちらも抜け目なく、ミカドの許可を貰っている」
「あれ? デンタイもミカドに頼まれたんやなかったっけ? あっちにもこっちにもお願いしたって事かいな、、、」
「お願いしたんじゃなく、どうしても許可を出さなくてはならないとしたら?」
「、、、な~る。それが、“しがらみ”ってヤツか」
「そういう察しの良いところ、好きです」
「すっ、、、せそたちつてと、、、」
「は?」
「は?」
「楓、何か言いましたよね?」
「慶壱、幻聴」
腑に落ちない表情。
「ほらほら、続き続き」
楓に急かされ、波働は話しを続けた。
「ミカドが本当にお願いしたのは、デンタイにだけなんだとしたら妙に辻褄が合ってしまうんです」
ジッ、と波働を見つめる楓。
「身内同士の、殺し合いを止めて欲しいと、、、」
ポツリと言ったその顔は、何で今まで気づけなかったんだろうという悔しさを滲ませていた、、、。
尚も波働の思考は廻る。
――送られて来る童子は、呪包童子、小石川聖か、、、
彼女の事は、知っている。
彼女が童子になる前に、何度かコンタクトを取った事がある。
純粋な術師の血統でありながら、自ら結界内に住みついた変り種の使い手。
それが波働の興味を湧かせ、情報交換をネタに二度ほど逢っている。
稚拙な呪法ながら、シンプルに強い。
――確か、まゆらさんと同い年、、、
波働は思い出した。
――奈良絵姫が、“師”だったっけ?
確かそんな噂を、後で聞いた。
それで童子に成ったとしたら、相当な使い手になってるのだろうと容易く想像できる。
――波付レベルじゃ、到底歯が立たない、、、な
童子が狙われるシチュエーションを想像するが、力量を考えれば多分返り討ちに合うだろうと思った。
――噂が本当なら、、、
奈良絵姫に創られた童子に、そこらへんの術師が敵う訳が無い。
――あぁ、でも、どっちにしろ身内同士の殺し合いの図式は変わらないのか
ミカドが危惧する念は、払えそうにない。
しかも今回はそこに、あのEG使いが来る。
能力的に、糸もまゆらも、まず間違い無いだろうと言っていた。
ユキオンナ。
一度だけとはいえ、京弁天と渡り合ったEG使い、、、。
――これはタフな現場になりそうだ、、、
思考力を高めていく波働の顔が、ドンドン無表情になっていく。
眼は、一点を見つめて、、、。
シリアスが苦手な楓は、沈黙に耐えられずについつい要らぬ事を言いたくなる。
「なんや最後まで敬語やったな~」
そんな楓を、波働は場の雰囲気を変えようとしてくれているのだとプラスに取った。
「当然です。敬語は年上、年下に関係なく使えますし、普段から使い慣れると意外と楽です」
「へ~。皆に敬語なん? まさかの親にも?」
「それこそまさかです。家族と、友人以上に親しくなった人には敬語は使いませんよ」
チラッと、楓を見た。
「どうして敬語はダメなんですか?」
「いや、ダメって事は無いねんけどな、、、」
楓がたじろぐほどに、見つめて来た。
「な、、、なん?」
「あ! 私の敬語以外を聞きたいって事は、もしかしてそういう事なんですか?」
「そそそ? どういうこと?」
「友人以上になるって事です」
「は? いや、何? ウチが? アホか! タイプちゃうし」
言って、最後の一言は余計だったと自分で思った。
「あ、今、何気にフラれましたね。そうなんだ。ちょっと残念」
「、、、え?」
「名前呼ばれても、違和感無かったのに」
「!!??」
――今言うかぁ~~~?!
「そろそろ出ましょう。終電の時間も近いし」
一人でどんどん話しを進める波働に、何かハラ立ってきた楓。
「ここは私が払いますね、上司だし。楽しかったし」
テキパキと、楓の上着をハンガーから取った。
楓に向かい、腕を通すだけで着られるように上着を拡げて待つ波働。
その波働に近付き、背を向けて右腕、左腕と上着に通すと、改めて波働の正面を向く。
にっこり微笑むと、軽く首を傾けて礼をする楓。
どういたしましてと波働が礼を返す一瞬の隙を突き、楓はネクタイを掴んで引き寄せた。
「え?」
引っ張られ、驚く波働。
波働の顔が、楓の顔に、、、。
「?!!!」
ネクタイを離すと同時に、とても悪い顔で微笑む楓。
ニヤニヤ。
「な、、、にを、、、?」
「友人が、せんことをしました」
「、、、???」
「これって、ウチら、友人以上ってことになるんかな?」
「あ、いや、、、確かに、、、確かに?」
これほど表情豊かに困った顔の波働は、始めて見る。
「もうウチに、敬語は使われへんなぁ~」
最後に大逆転の笑顔を見せた楓は、波働を待つことなく大満足でバーの扉を後にした。




