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karma!! ~水の中のグラジオラス~  作者: 后 陸
水の中のグラジオラス 一の章
13/83

憧物欲愛 伍 その1

 京都。

 、、、の端っこ。

 奈良県民から言わすと、ほぼ奈良。


 JR加茂駅を降りて、木津川を渡る。

 そのまま奈良加茂線を行くと、国道163号線に当たる。

 そこを左に曲がると、只々(ただただ)だだっ(ぴろ)い田畑の景色。

 視界に広がるのは空間を無駄に使った、民家と工場が点在する贅沢な景色。

 そんな景色に、みんな同じ感想を口にする。


 「何にも無いなぁ」


 そのまま素通りする者が大多数居る中で、少し頭に偏頭痛のような違和感を覚える者がごく(わず)かに居る。


 属に言う、感じる人。


 そんな人たちは、導かれるように細い道へ入って行く。

 そこは、旧相楽郡加茂町瓶原(みかのはら)

 京都府相楽郡にあった町。

 2007年、山城町、木津町と合併し木津川市となった後も、加茂の名は残っている。


 その、現木津川市加茂町瓶原一帯には昔ほどの地力(ちりょく)が無くなったとはいえ、残り香的に土に染み付いた高貴な波動がまだ残っている。

 それに引っ張られて進んでいくと、恭仁京(くにきょう)大極殿(だいごくでん)址に辿り着く。

 そこで悠久(ゆうきゅう)(とき)を感じるか、思いを()せるか、、、。


 その両方が上手く、と言って良いのかどうか、瓶原に残った地力の残留思念と()()()()()()()()()と、さらに足が動き出す。

 そういう人は、顔が青くなってるころ。

 抵抗せずに行くと、何の事は無い空き地のような場所に立つ事になる。


 その何も無い場所が、恭仁宮跡内裏(だいり)地区。


 季節によっては眼を見張る景色が広がるが、“お(みちび)き”によって来た者は偏頭痛が(ひど)くなるか、胃がキリキリし出すか、呼吸が浅くなる。


 それ以外でも、少しでも身体に異変を感じたら早々に立ち去るのが良い。

 数段上の魂魄(こんぱく)にリンクしてしまってるので、心身ともに()たない。

 責任も取れない。


 耐えれた者、反対に何にも感じない霊的不感症(フリヂディティ)のシアワセ者は、そこからさらに北へ向かう事になる。


 (しばら)くすると、大きな建物が見えてくる。

 いかにも『旧家』、『由緒正しき』って感じの屋敷が現れる。

 そっちのほうが、見た者の口から感嘆(かんたん)の声を引き出す事になる。


 「ほ~~、、、」


 コレを見て風情を感じないと感性の(とぼ)しい人と思われそうなので、みんな見たら取り敢えず『ほ~~』と言う。

 言っとけば安心。

 情緒を感じるカンジで、イイ感じになる。


 で、結局そんな古めかしい屋敷って何? 誰の? 有名? って話しになる。

 家の前まで行っても、立て看板も由緒書きも何もない。

 一般的には、ただの古くて大きな民家。


 しかしこの屋敷こそ、関西道具屋最大手、加茂家の屋敷。


 正門から中庭を通って玄関へ向かうと、旅館の入り口のような本館が待ち構える。

 間違いなくビビる。

 そんな玄関には入らず、本館を囲うように小径(こみち)があるので、そこの飛び石を一つづつ踏んでは進んで行く。

 歩く人を飽きさせない造りは、庭師の気遣いが(うかが)えたりもする。


 気が付くといつの間にか本館の裏手に導かれ、さらにその奥にも何やら立派な建物が見えてくる。

 典型的、日本家屋。


 本館に負けず劣らずの、なかなかのイイ感じ。

 ここが、加茂家の“工場”と呼ばれる建物。


 工場と呼ばれているが、全くそうは見えない。

 だって、典型的な日本家屋なんだから。


 今、その工場に、軽く180センチを超える長身の男が入って行く。

 冬物の服の上からでも、そのバランスの良い体型が見て取れる。

 しなやかに動く身体は、自信に満ちて堂々としていた。


 だが、威圧感は無い。

 印象は、(さわ)やかな好青年。


 パッと見、嫌味なほど人当たりが良さそうな雰囲気なのに、ふとした瞬間、全く別の印象を与える。

 その原因は、時折見せる、冷たい視線、、、。

 そのクセ、常にニヤ付いている口元。


 演出か?

 狂気の零れか?


 それが、怖い。

 この男を見ていると、つい考えてしまう。


 本当は弱いヤツが、それなりに強いヤツを演出してる、、、のか?

 本当は強いヤツが、弱いけど強いヤツを(よそお)っているってのを演出してる、、、のか?

 とにかく、判断を間違えると“ややこしいタイプ”の男である事に間違いはない。


 それが、加茂家次期当主、()()まゆらの婚約者、加茂珍晴(たかはる)その人だ。 


 その珍晴が、工場に入って行った。

 工場長に会うためだ。


 会うためというか、呼び出しを受けた。

 新しい道具が出来たらしい。


 特別な事ではない。


 これはお約束で、新しい道具が出来たらまず、加茂家の当主にお披露目するのが習わし。

 ここ最近は当主が代替わりを意識して、徐々に次期当主にそういう役を廻し始めている。


 珍晴は、『ちゃんと代替わりしてからで()えのに』と思うのだが、当主がそう言うのだから従わない訳にもいかない。

 それに堅苦(かたくる)しいお屋敷作業よりかは、こちらのほうが数段楽しい時間を過ごせるので『まいっか』となる。


 午前のうちに()()を済ませて、やっとこさ帰って来たことろだった。

 気分はちょっと、ウキウキでヴギウギ。

 工場長への土産も、忘れずに買って来た。


 甘いモノ好きの工場長のため、駅前のカフェのケーキを無理言って“おみや”にしてもらった。

 これはきっと、ポイント高いハズだ。


 ――抜かりはあらへんな


 珍晴は本館である母屋(おもや)に寄ることなく、意気揚々と工場内の長い廊下をケーキ片手に進む。

 下手に母屋で、当主に『ただいま』の挨拶と言うか報告をしたら、絶対に話しが長くなるからだ。

 年寄の得意技。

 そんな事してたら、ケーキの()()が落ちる。


 工場と言ったが、初めに言った通り木造の日本家屋。

 普通にデカい屋敷の廊下を歩いていると想像してもらった方が、良いかもしれない。

 左手に中庭を眺めながら、縁側(えんがわ)に従って行くと裏手にある小さな渡り廊下が出てくる。

 それが、工場長の居る作業場に続いている。


 渡り廊下の手前には、(ふすま)の無い十六畳ほどの部屋があり、そこにはいつも誰かしら工場の関係者が必ず居ることになってる。

 工場長の作業場に、部外者を入れないための見張りも兼ねた休憩所になっているのだ。


 珍晴が視線を送ると、今もその部屋には三人の作業員が休憩していた。

 作業員の一人が珍晴に気付くと慌てて立ち上がり、渡り廊下の前に立ち(ふさ)がった。


 「次期当主、御用で?」

 「お呼ばれしました」


 笑顔で答える。

 慌てて後ろから年配の作業員が来る。


 「失礼しました」

 と言いつつ、小さな声で立ち塞がった作業員に聞いた。


 「おまえ朝礼居てへんかったんか? 次期当主が新作の“お披露目”しに来るん言うてたやろ」

 言われると、(あせ)った顔で言い訳。


 「今日遅出(おそで)で、、、連絡板見るの忘れてました」


 いくら小声でも、眼の前でやり取りされれば珍晴の耳にもしっかり聞こえる。


 「()えよ良えよ。ちゃんとお仕事してるんやな~って解って、ボクも安心」


 道具屋の加茂家では、道具を造る職人、作業員を大切にする。

 雇い主だからと、従業員を下に見たりはしない。

 今の()り取りだって、従業員を『無礼者!』なんて怒鳴ったりしない。


 質の良い“呪具”を造る者が居なければ、道具屋の“質”も落ちる。

 加茂家がここまで()し上がったのは、代々腕の良い工場長が二人三脚で()いてくれたからだ。


 と言う話しを、珍晴は小さい頃から先代、先々代と耳に胼胝(タコ)ができるまで言われ続けてきた。

 仕事を手伝うようになると、言われた事が本当だと身に染みて()()()()ほど感じてる。

 感謝してる。


 実際、工場長の呪具を使って『これ、マジでヤバい』と、何度思わされた事か、、、。

 だからこそ、手土産のモンブランはプレーンと渋皮付きの二種類を買った。


 渡り廊下を越えると、そこから先は工場長しか居ない。

 珍晴は、中へ入る為の引き戸を開ける前に、少し笑った。


 ――加茂家も、過渡期(かとき)か、、、な?


 珍晴ももうすぐ代替わりを行うが、少し前に工場長も十六代目に変わったばかりだ。


 「失礼します~」

 引き戸を開けた。


 「あ~、兄さまやっと来たぁ!」


 この、あどけない顔で珍晴を迎え入れたのが、工場長、貫地谷十六夜(かんじやいざよ)

 まゆらの、二つ下。


 「何で今までかかったん? 十六夜、あさイチに連絡入れてんで!」


 現在、午後3時06分。

 確かに、あさイチに呼んだ割には、、、今はおやつタイムの時間。

 珍晴がモンブランを持って来るのには適した時間なのだが、、、。


 「ごめんごめん。相変わらずごちゃごちゃしとんねん」

 「結界?」

 「それは勿論(もちろん)やけど、()もなんなと騒がしいねんわ」

 「それでかな、、、」


 十六夜が杖を突いて立ち上がり、義足と自前の足で向かった棚から持ち出して来たのが、今朝、出来たばかりの新しい呪具。

 手に持って来たのは、スマホが入るくらいの巾着(きんちゃく)


 「え~何~? 小銭入れにしては(おお)きないか?」

 「小銭入れ(ちゃ)うわ!」

 「ははは。解ってるって、冗談ジョーダン。怒りなや」

 「兄さまのギャグは、おもんないねん」

 「ヤバい。年下に怒られたwww」


 優秀な呪具創者(じゅぐそうしゃ)は、必要な時に最適な道具を(つく)る。

 十六夜もまた、その一人。


 彼女が新作の道具を創る時は、ゾーンに入るどころではない。

 無我の境地(きょうち)(いた)る。

 創ってる当の本人も、その時の記憶が存在しない。


 それが、“天賦(てんぷ)(さい)”というモノなのだろうか、、、。



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