98. 雑談 天正12年3月(1584年)
大学校からの帰り道。護衛を少し離して2人で密談。いつもの通りだ。
「四国の阿波だがな。剣山という山がある。知っているか?」
「・・・」
相変わらず素直な奴だ。情報本部のトップなのに秘密ですって顔に書いてあるぞ。秘密かどうか分からないようにするのがプロだろ?
「四国には八十八ヶ所遍路というのがある。弘法大師が定めた88の寺を巡るものだが、トンデモな説がある」
「はぁ」
「唐国から来た者が四国を調べておったそうじゃ。その者に四国中を歩かせて、なおかつ、目当てのものが見つからないように巧みに順路を作ったとか」
「はぁ、何を隠したのですか?」
「剣山じゃ」
「・・・」
「剣山にはアーク、ソロモンの秘宝があるとの噂がある。唐国でもその情報を掴んで確かめに来たのであろう。そこで、そんな山はないと思わせるために巧みに順路をさだめた。唐国のスパイは『四国中歩き回ったが剣山は無かった』と報告したとか」
「・・・」
「やはりあるのだな。前世でもイスラエルの駐日大使が興味を示していたそうだからな。そなた達が守っておるのか?」
「・・・は、はい」
「心配するな。暴こうとか奪おうなどとは考えておらぬ。秘宝などと言うから皆が興味を持つのだ。本当のところはユダヤ人にとっては大切だが、その他の者には価値を感じられぬものなのでは無いかな? どうせ中身は十戒の石板だろ? キリスト教徒には高く売れそうだが・・・」
「・・・そうかも知れません」
「近頃思うのだ。
円錐形を思い浮かべてみよ。真下から底面を見るとどう見える?」
「円です」
「そうだな。では真横から見ると?」
「二等辺三角形です」
何聞いてんの? って顔してるな。思う壺だ。
「そうだ。そして、斜めに見れば円錐だとわかる。
ところが光の当て方によっては影の部分が不明だったり、影と本体が合わさって2つの角がある形に見えたりせんかな?」
「まあ、状況によってはそんなことがあるかも知れません」
早く先を言えよ、って顔だ。今から本題に入るから。
「うん。話を戻そう。
この世には真理があると思う。その真理は通常、見たり聞いたり調べることができない。
ところが世界中で100年に1人とか、ごく少数、その心理を感じることができる人が現れるようだ」
「はぁ」
「そういった人は古代の方が出現確率が高かったように思う。
で、真理に触れた人は、知った内容を他の人々に知らせようとする。
予言者とか仏と言われる人々だな」
「!」
「ところがだ。人は理解したことは伝えられるが、理解できなかったことは上手く伝えられない。
古代の予言者や仏は真理を正しく理解できたであろうか?」
「難しいでしょうね」
「そうだな。自分の知識と経験を基に理解を試みるが、真理は巨大で深い。すべてを理解することはできないだろう。
自分に理解できた範囲で精一杯人々に説明する。故に、予言者や仏によって変わってしまうのだよ。神や極楽の姿が」
「・・・」
「恐らく真理は1つだ。それを宗教ごとに異なる表現をしている。
『自分たちの解釈こそ正しく、他の者は誤っている』
そう決めつけて争っているのが宗教戦争ではないかな?」
「・・・分かりません・・・分かりませんが、否定もできません」
「いつか、人がもう1、2段進化したら明らかになるかも知れん。
アークのことはそのときまで秘密にしておけ」
「よろしいので?」
「さっきも言ったろう。ただの興味本位だ。どうせただの自然石だと思うぞ。
何でも火山性の岩石には十戒の石版のようなものがたくさんあるそうじゃないか。長安はよく知っているだろ? 実物を見たのか?」
「アークの中身どころか、アークそのものも見てはいません。
rhyolite や welded tuff など、そういった十戒の石版にも見える自然石があることは知っています・・・」
「まあ、今真実を明らかにする必要はないだろ。先祖の手前、秘密にしておけ。
剣山に学術調査が入らないように、入ったときはバレないようにやんわりと妨害して良い。
あるいは神社でも作ってお前たちの一族を神主にして、宝物としてしっかり管理するという手もあるぞ。神社の秘宝を見せろなんて力尽くで要求する奴は信長以外には居ないから、今後は大丈夫だ」
「ありがとうございます。
なるほど。考えてみます」
しばらく考えていた長安が口を開いた。
「ところで以前、姫は前世の日英同盟の話しをされていましたね」
話を変えてきたな。今日のところはソロモンは終わりってことか。
「あぁ、米仏の横やりが無ければ日英同盟更新して、イギリスの手前、アメリカは日本にちょっかい出せずに、日本は合衆国と直接戦争せずに済んだだろうっていう話しな」
「あれからずっと考えていたんですけど・・・それ、ムリですね」
「!」
やっぱ、ヨーロッパの目から見たらダメか。
「その後、イギリスはドイツと戦争しますけれど、結局アメリカの支援無しには勝てませんでした。アメリカの支援を受けるためには、日本をアメリカに差し出すしか無いでしょう。
結局、日本はアメリカに目を付けられた時点で終わっていたんですよ」
厳しいこと言うな・・・
「そうか。そなたもそう思うか・・・ まあ、私も薄々気がついてはいたがな。認めたくはなかった」
辛いな。明治維新で頑張って何となく独立を保ったが、結局一番野蛮な奴らに食われてしまった。帝国主義の世界に引きずり込まれて必死で悪足掻きしたが力及ばず。そう言うことか。
あの時点で南北戦争なんてやってないで積極的に侵略に来てくれれば、薩英戦争みたいにある程度解り合えたかも知れん。そうなっていれば奴らもやり方を変えてくれたかもな。
とは言え、昭和初期には軍事官僚と新聞社がバカになっちまったからなぁ・・・
「この世界の未来ではそんなことにはしたくない。やはり、現時点でヨーロッパに一目置かれる存在に成らなければ」
「そうですね。そこは同意します」
八十八ヶ所遍路については『ヒミコの暗号』から拝借しました。くうも前世で読んでいるというテイでお願いします。
アーク:契約の箱。十戒の石版を納めています。紀元前600年頃まで書物に存在が記載されていたようですが、いつの間にか失われたようです。映画インディ・ジョーンズ『レイダース/失われたアーク』で主人公とドイツ軍が取り合いしていた箱です。ユダヤの失われた10部族が東へ運び、最終的に剣山に隠したという説があります。
イスラエル駐日大使:エリヤフ・エリ・コーヘン(1949-)。2004年から2007年まで駐日イスラエル大使。日猶同質論者(同祖論者ではない)のようですが詳細不明です。
十戒の石板:エジプト出発の後にモーセがシナイ山にて、神より授かったとされる石板。文字のような文様があり、神の意思が記されています。モーセだけが読めたとか。岩石については調べてみてください。
rhyolite:流紋岩
welded tuff:溶結凝灰岩




